屋敷の廊下を足早に駆ける音が響く。傷や泥でひどく汚れた着物姿で一条家の屋敷の長い廊下を雑巾掛けをする長女・千鶴。

そんな懸命に働く姿を「汚らわしい」と毒を含む笑みで姉を侮辱する次女・玲華の姿があった。

千鶴とは違い、汚れ知らずの上等の着物を着こなす玲華。手入れされ、艶やかに光る髪をなびかせる。


「お姉様、今日も雑巾がけ?御苦労な事ね。私はこれからお茶とお花の稽古に異能の強化をする予定なの。異能が無いお姉様には分からないでしょうね?この忙しさが」


千鶴は聞く耳を持たない。幼い頃から何度も言われてきて最早言い返す気力もないからだ。


汚れた雑巾をバケツの水で洗い、廊下の掃除に取り掛かる。玲華は真っ白な足袋で廊下を歩き、バケツの前に立つとそのまま蹴りを入れて辺りを水浸しにする。


「あらあら、せっかく綺麗になったのに残念ね?お姉様がこんな所に置いておくのが悪いのよ?次期当主である私の屋敷にこんな汚いものを置くなんて許されなくてよ?」


ひとつも悪く思っていないその笑顔。扇子越しに悪意を感じるその言いぐさ。とても許されたものではない。


しかし、一条家ではこれが当たり前だった。異能を持たぬ無能は一族の一員として認められず、使用人以下として扱う。