玲華は自身の正体を隠して、姉である“一条千鶴”として久世様へと嫁いだ。

顔合わせでは両親にバレることなく話は進み、正式に婚約が決まる。

玲華が姿を現さないと父・利政はボヤいていたが千鶴の縁談の話というのもあって、あまり気にされていなかった。

凪一にこれから生活する部屋へと案内される玲華。荷物を置いて凪一の部屋でこれからのあり方について話をする。

「与えた部屋は自由に使え。だが、この部屋には今後の立ち入りを禁ずる」


まだ出会って間もない相手に、自分のプライベートに踏み込むことは言語道断。貴重な資料も置いてあるのでそれらに触れることも禁止事項となった。

これから久世家の奥方としてどう振る舞えばいいか問う玲華。凪一は「名前だけ置いてくれればそれでいい」と冷たく返す。


（それでは一緒に生活を共にする意味がないのでは？）


どうにか凪一のために尽くせないかと考える玲華は千鶴がしていたことを思い出す。


「でしたら炊事・洗濯はお任せいただけないでしょうか？実家では両親の言いつけで勉学に触れさせてもらえず、家事ばかりしていましたので」


屋敷では明るくはっきりと話す玲華だが、今は千鶴を演じているため、少々声のトーンを低くしボソボソと話す。

玲華は教養の一環として家事を使用人頭から教わる機会があった。そのため、一通りはこなせる自信があった。