「ふふっ。気になさらないでください。本当のことですし」

「いや、今の言葉はとても無礼であった。失礼、頭に蜘蛛の巣が」


千鶴の頭に乗る蜘蛛の巣を払う凪一。いつものように叩かれると勘違いした千鶴は一瞬ビクッとする。しかし予想とは反対に、優しく触れる彼に驚いた。


(こんな風に優しく触れられるのはいつ以来かしら?)


昔の幸せだった記憶を思い出しかけた。そんな日もあった。けど、今はもう戻って来ない日常。


「綺麗なった」


(こんなにお優しい方が本当に女性がお嫌いなのかしら?まるで壊れ物のように触れる優しい手からは想像が出来ない)


「ありがとうございます。あ、ご用件があっていらしたのですよね?今、家の者を呼んでまいります」

「いや、それには及びません。今日は下見に来ただけで」

「下見、ですか…?」


「えぇ。一条家とは先々代の当主である祖父が交流していたと聞いていましたが、利政殿が一条家の当主になってからは悪い噂が耐えない。何事もなく縁談を進めたいのだが…」


(一条家は異能者の間では評判が悪いようね。隠しているつもりでも毒は隠しきれなくて、徐々に表に出てきているという訳ね)


「…重ねがさね失礼を言って申し訳ない」


(ならば、私はそれに対抗する。その為には前へ進む一歩を踏み出さなければ)


「久世様」

「何だ?」

「申し遅れました。私は一条千鶴と申します。この家の長女で、久世様の縁談相手です。是非、お話を聞いて頂けないでしょうか?」


(希望がまだあるのなら、今ここで勇気を振り絞る時…!)