千鶴は2人に見つからないようにその場を離れる。蜘蛛の巣を取れと命じられていた門の掃除に取り掛かりながら策を練るを


(顔合わせの日にあの記録簿を久世様に渡して、あの2人の行いを晒す。そして玲華を説得して一緒に屋敷を出る。こんな単純な方法で本当にいいのかしら?玲華は異能者としてかなりの力を付けていて、言いつけをしっかりと守っている)


すぐに事を理解出来ると思うが、それを信じるかは玲華次第だ。もしかしたら千鶴の話が偽りだと言い出すかもしれない。

この数年間ですっかり距離が広がってしまった。同時に両親の毒に染まってしまった妹を簡単に引き離すことなんて出来るのだろうか?

千鶴は諦めかけていると、一条家の門の前に一人の男性が姿を現す。


「一条家の屋敷というのはここか?」


白い肌に長い黒髪に映える緋色の組紐がよく似合う。美しい黒曜石の瞳に見惚れる千鶴。


「どなたでしょうか?」

「初めまして。先日、当主の一条利政殿から縁談の話を受けました、久世凪一と申します」

「貴方が久世様」


(なんて美しい)


見惚れいる場合ではない。使用人とはいえ、一条家の人間。挨拶なしは失礼にあたる。


「一条家の使用人にしては随分と薄汚れているな。あ、すまない。掃除中とはいえ、失礼なことを言った」