(優秀なら、その力を手にすれば一条家が頂点に立てる)

「お父様、ならば私が久世様と婚約しますわ。そうすれば一条家は久世家より上に立てること間違いなし。組織の皆様からも厚い信頼を得ることが出来ましてよ?」


異能を持たない千鶴との縁談は宝の持ち腐れ。異能を持ち、優秀な自分こそ久世家にふさわしいことをアピールするが、利政はピクリとも表情を変えない。


「何を馬鹿なことを。一条家は今回限りで久世家とは縁を切る。貢献しようと考えない奴など一族には必要ない。分かったらこの場を去れ」


ピリッとした空気がその一帯を覆う。


玲華の肩がビクっと大きく震えた。まるで金縛りを受けているような感覚に囚われ、身動きが取れない。


父の言葉に迷いなど無かった。一刻も早く千鶴と久世家から縁を切りたい一心だった。

立ち去った父の背中をやるせない気持ちで見送る玲華。


(お父様は何も分かってない。常に頂点に立ちたいと願っているにも関わず、滅多にない玉の輿をあっさり切り捨てるなんて…)


どうにかして凪一との婚約を自分に変えれないか考えるが、父の考えには玲華ですら逆らうことが難しい。機嫌を損ねれば激しく憤怒してしまうからだ。

異能の力で屋敷を吹き飛ばすのも簡単である。

以前、一人の使用人が利政が大切にしていた壺を割ってしまいそれに腹を立てた利政は屋敷の屋根を一部、粉々にしたことがある。

一条家を背負う当主として申し分ない力であること、そして逆らえば自分の身でさえ危ういことを身をもって知った玲華は以降、父の変化には敏感であった。