喜多の湯の駐車場から道の駅のほうの駐車場にキャンピングカーを移した。

 キャンピングカーだと場所を取るし、出やすいところにしないと朝起きたら大混雑ってこともあるのだ。

 もう土日の感覚がなくなったからか、土曜日とはわからず人気な道の駅で車中泊。朝起きて外を見たら大混雑。昨日、そんなにいなかったよね! ってわけ状態になってから出やすい場所に停めるようにしたんだよね。

「矢代さん、酒は飲めますか? 日本酒とワインしかないですが」

「お酒、大好きです!」

 うん。飲兵衛さんがする返事だ。こりゃ、すべて飲み干す流れだわ。

 とりあえず高畠ワインを出して、ルーシャと矢代さんで勝手に乾杯してもらう。オレは今から飲んだら十八時くらいにはぶっ倒れてしまうよ。

 キャンピングカーで調理はしないが、米沢のスーパーで惣菜は買ってある。あと、玉こんにゃくもあるので温めるか。あ、カラシを買うの忘れた。

 まあ、飲兵衛たちには気にしないか。って、もう一本空けているよ。

「道端さん、いい旦那さんになりそうですね」

「それはどうも。ペース速すぎでは?」

「うわばみ矢代と言われたわたしにワインの五本や六本余裕ですよ」

 いや、それは飲みすぎだわ。そんなに買ってなくてよかったよ。ルーシャだけでも底なしなんだから。

 ……キャンピングカーの棚を拡大収納化してなければゴミ収集車になっているとこらだよ……。

 これは、どこかのRVパークに入らないといかんな。いや、道の駅で買った酒は捨てさせてもらうか。

「いや~、キャンピングカーっていいですね! 道端さんってお金持ちなんです?」

「ただの無職ですよ。余命宣告を受けて自暴自棄になって、貯金でキャンピングカーを買ってしまいました」

「余命宣告? 元気そうに見えますけど……」

「ルーシャが持っていた薬で治りました。まあ、一度、検査してもらわないといけませんけどね」

 診断書をもらっておかないと再就職するとき必要となるかもしれんからな。

「まさにファンタジーですね!」

「ルーシャに命を助けてもらったからここでの生活はオレが面倒みさせてもらっているんです」

 金貨を売ったことは黙っておこう。矢代さんのことまだわからないのだからな。

「そんな薬があれば大儲けですね」

「法律に引っかかるから売ったりはしませんよ。それに、それはルーシャが判断すること。オレは尊重するだけです」

 命の恩人を裏切ることはしない。ルーシャが決めたことを全力で応援させてもらうさ。

「矢代さんは、ルーシャをどうするつもりで声をかけたんです?」

「いや、この現代社会でエルフがいたら声かけるでしょう! いや、エルフがお風呂にいたときはびっくりしましたよ。我が目と頭を疑いましたよ」

「その割にはすぐに声をかけて来たわよね」

「思ったらすぐ行動が信条なもので」

 だ、大丈夫か、この人? なんかトラブルメーカーな臭いがしてきたぞ……。

「もちろん、打算はありますよ。エルフなんて空想上の存在に出会えたんですからね。でもだからって食い物にしようとは思いませんよ。誰かに取られるなんて許せませんから」

 も、もしかして、この人、そっち系か?

「あ、性的な意味ではありませんからね! わたしはノーマルです」

 破天荒な人でも空気は読めるようだ。

「ちなみにわたしも同性が好きとかではないからね」

「エルフでも同性愛とかあったりするんですか!?」

 訊き難いことはズバッと訊くこと。雑誌編集者って皆こうなのか? いや、この人だけだな。こんなタイプ、三十年生きてきて初めてだもの。

「まあ、好みは人それぞれ。変わった性癖を持つ者はいるわよ」

「寛容なんですね」

「わたしに振りかかるなら遠慮なく払うけどね」

 そういう経験がありそうな口振りだ。まあ、それを口にすることはしないがな。

「じゃあ、道端さんとは恋人関係なんですか?」

「恩人ではあるけど、恋人ではないわ。相棒って関係かしら?」

「そう。オレたちに男女の関係はないよ」

「道端さんがそっち系なんですか!? とても似合いそうですけど」

 どーゆー意味だよ? 

「オレもノーマルです。ルーシャをそういう目では見てませんよ」

 一つ屋根の下(?)で一緒にいたら際どい姿を見たことは一度や二度ではない。モロに見たこともある。でも、なぜか欲情しないんだよな? ルーシャがなんか魔法でもかけてんじゃないのか? オレはこの関係でいたいから気なしないがな。

「……そういう魔法をかけているんですか?」

 ほんと、この人率直やな~。

「かけてないわ」

「え? そうなの?」

 逆に心配になるわ。実はオレ、異性に興味なんてなかったのか? そっち系だったのか? ナイフで胸を刺されたようにショックなんですけど!

「ま、まあ、多様性の時代ですし、そんなに気にすることないですよ。むしろ、わたしはグッドですよ。とても妄想が捗ります」

 止めて! そんな目でオレを見ないで! そんな対象にしないで! てか、親指立てんなや! オレはいったってノーマルだわ! 

 日本酒をつかみ、一気に飲み干した。

「オレは普通に女が好きな男だわ!」

 そう強く宣言した。誰に対してかはわかんないけど!