白河市から那須塩原市まで一時間もかからない。でも、我が家、どこだっけ? 住所、スマホに登録していたよう? あ、あったあった。

「了さん、コーヒーです」

 国道4号線沿いのコンビニにてスマから住所を探し、カーナビで場所を探す。経路設定したら阿佐ヶ谷妹とルーシャが戻って来た。

「ありがと」

 ここからはオレが運転して我が家を目指した。

「栃木も田舎ですね」

 栃木の人にケンカを売るようなセリフだが、山形と福島を見て来たら否定も出来ない。そもそもその田舎がよくて選んだのだ。都会になってもらっても困るってものだ。

 オレがお世話になっている田村さんは、田んぼをやっている農家で、ありあまる土地を活かして平屋を建てて貸し出していた。

 だが、時代が進み、田んぼの中にある平屋を借りる人はいなくなり、もう十五年くらい空き家だったそうだ。

「家の造りが雪が降らないことを示してますね」

 確かに山形の家とは違う。栃木はまだ関東ってことか。

「スキーとかもやってみたいな~」

「冬になったら秋田に来ますか? 岩手のほうが大きいスキー場はありますが、その分、空いてますよ。ゆっくりするなら秋田ですね」

「いいね。是非とも行ってみたいものだ」

 そうなると冬タイヤも買わないといかんな~。てか、冬の道、走れるかな? そこは阿佐ヶ谷妹に任せるか。雪国育ちだし。

「あ、そこだよ」

 県道から細い道を入ったところに田村家がある。

 昔、庄屋だったの? ってくらい大きな敷地で瓦屋根の立派な家だ。

 一応、平屋にも駐車場はあり、縦に二台は置けるようになっている。

「草ボーボーですね」

「借りるにあって刈ってはくれたみたいだけどね」

 まだ三月だったから草は生えてなかった。四月も終わりだから草も元気なんだろうよ。

「オレは挨拶に行って来るよ」

 まだ畑仕事しているかもしれんが、今時スマホを持たず畑に行く人はいない。田村さんも常に持ち歩いていたよ。

「その間、家の周りの草を抜いておくわ。リコは家の窓を開けて空気の入れ換えをして」

「はーい」

 家は任せて電話をかけると、息子さんが家にいるそうとのことだった。

 家主である田村さんは六十過ぎ。息子さんはオレより二、三歳上で結婚をしている。子供も二人いて小学生と幼稚園児のこと。あと、出戻りしたお姉さん、その娘さんも一緒に暮らしている。

 息子さんの悠人《はるひと》さんとは会っていて、元ヤンキーとか。最初は驚いたが、栃木ではそう珍しいことではないとのこと。今はいい旦那さんでいい父親だ。

 物置に行くと、トラクターを整備していた悠人さんがいた。

「こんにちは~。帰って来ました」

「おー。お帰り。旅はどうだったい?」

「とてもよかったです。いろんな人にも会えましたし。あ、お土産たくさんあるんでカート貸してもらえますか?」

「そんないいのに」

「これからお世話になりますしね」

「病気、よくなったんだって? 親父がそんなこと言ってたが」

「はい。ストレスが消えたからか、なんか体調がよくなったんですよね。まあ、一度病院で検査してもらわないといけませんけど」

 治った証明がないとウソをついていたとか思われてしまうからな。

「そうか。完全に治っているといいな」

「はい。旅先で知り合った人と暮らすのでよろしくお願いします」

「外人だって?」

「外人と言うか、まあ、夜にでも紹介させてください。旅先で日本酒をたくさん買ったので皆で飲みましょう」

「そうか。カートは好きに持って行きな。うちのをあとで行かせるから」

「ありがとうございます。では、夜に」

 カートを借りて家に戻った──ら、草が完全に消えていた。ホワイ?

「早かったわね。草は一本残らず抜いておいたわ」

「ま、魔法で?」

「ええ。この世界の植物にも効いてよかったわ」

 どう効いたか怖くて尋ねられない。ここは流しておこう。

「夜、挨拶に行くからよろしくな」

「このままでいいの?」

「まあ、大丈夫だろう。下手に隠すのもなんだしな。一応、コスプレイヤーってことにしておくよ」

 言葉は通じないし、なんとかなるだろうさ。

「周りのゴミもなんとかしないとな」

「捨ててもいいものなの?」

「いいとは聞いているよ。纏めて捨てないとな」

 軽トラを借りて焼却場に持って行くか。それとも業者に頼んだほうがいいかな?

「処分していいのなら消滅させるわよ」

 消滅?

 玄関脇の木箱に手をかざしたら忽然と消えてしまった。ブ、ブラックホールですか?

「大きいものは無理だけど、このくらいなら問題ないわ」

 魔法、どんだけ~!

「ま、まあ、手間が省けていっか」

 いらないものだしな。次からちゃんとゴミ集積所に出せばいいんだしな。

「壁のカビも取り除いても構わない?」

「あ、ああ。よろしく頼むよ」

 もうなにも言うまい。綺麗になってよかったね、だ。

「了さん。掃除機かけました」

「ありがとう。次は隣の平屋も頼むよ。そっちを阿佐ヶ谷家にするから」

 一応、平屋は三軒あり、いずれ事務所にさせてもらうつもりだ。オレはここに住むつもりであり、東京に戻るつもりはない。スタジオは駅前の空きビルを借りる予定だ。

「おー! 阿佐ヶ谷家か~! 悪くないですね!」

 若い子なら東京のほうがいいと思うのだが、無職の身には東京は辛いらしい。衣食住完備のところなら田舎でも構わないらしい。新幹線に乗れば東京なんてすぐだしな。

「念入りに掃除機かけてきます!」

 がんばってくださいなと見送り、家の中に入った。