洗濯が終わった。
「あ、そうだ。洗濯機なかった」
下着を畳んでいたら家に洗濯機がないことを思い出した。いや、洗濯機だけじゃなく冷蔵庫もガス台もなかったわ。
「道端さんは、女性ものの下着になんの感情もないんですね」
「ただの下着ですからね」
布にどう興味を示せというんだ? 洗う前ならまだわからないでもないが、洗ったあとはもうただの下着でしかないじゃん、だ。
「童貞ですか」
「遠慮も配慮もなく訊きますね。まあ、そうですけど」
だからって恥ずかしいとも残念とも思わない。そんなこと考える余裕もなかったしな。今はこうして生きていることが嬉しくて堪らない。どん底からの逆転劇。ルーシャと出会えたのだから恋人とかどうでもいいわって思ってしまうよ。
「ルーシャさんがいるとは言え、わたしに手を出しませんよね」
「出されたかったんですか?」
「別に構いませんでしたよ。わたしも三十二歳ですからね。そうなっても構わないってときがありますから」
え、矢代さん、三十二歳だったの!? オレより下かと思ってたよ。見た目、若いな!
「見た目から二十七か八だと思ってました」
「あら嬉しいこと言ってくれますね。道端さんより二歳も年上ですよ。おばさんですよ」
「別に気にしなくていいんじゃないですか? 矢代さんがおばさんならオレもおじさんですよ」
二十七歳を過ぎた頃から体力的低下は感じてきた。三十歳なんておじさんと思われても仕方がないさ。田村さんとこの娘さん見てたらジェネレーションギャップが天元突破してたしな。
「三十過ぎると寂しさに泣いちゃうときがありますよ」
「オレは泣きましたね。死を前にして。だからルーシャと出会えたのは嬉しかった。もう一人じゃないってね」
ルーシャはオレにとって家族だ。守るべく家族なのだ。
「羨ましいです」
「恋人、いないんですか?」
「いるように見えました?」
見えなかったとはさすがに口に出来なかった。むしろ、いるんなら見てみたいと思ってしまったよ。
「振られてばかりでしたよ。長くても半年で終わっちゃいました」
よく続いたものだ、とは口にしない。きっと心の広い、優しい人だった元彼氏に賞賛の拍手を心の中で送った。
「結婚したいんですか?」
「どうでしょう? 今の仕事は気に入ってますし、家庭に入るとかも想像出来ません。でも、たまには寂しくなるんですよね……」
最初からいないなら寂しくなることもない。でも、誰かがいることを知ったら一人が堪えられなくなるんだろうな~。
「いつでも遊びに来てください。オレはそこまで酒豪ではないですけど、ルーシャなら最後まで付き合ってくれます。友達でいってやってください」
友達がいるならルーシャも矢代さんもそう寂しくなったりはしないだろうよ。オレも友達としてなら付き合って行けると思う。怖い人ではあるが、人としては嫌いじゃないからな。
「ふふ。道端さんは優しいですね」
「楽しい人生にしたいだけですよ」
こうして得た命。無駄にはしたくない。いい人生にしたいものだ。
洗濯物を畳んだら阿佐ヶ谷姉から電話がかかってきた。
「買い物が終わったのでドライブインに向かいますね」
「はい。オレたちも今から向かいます。先に着いたなら先に入ってていいですから」
「了解です」
電話を切り、キャンピングカーに乗り込んでドライブインへと向かった。
そう走る距離でもなく、店に入ったらルーシャたちも入ったばっかりのようでメニューを見ていた。
「気になったならいろいろ頼んでいいから。オレはラーメン定食ね」
馬刺しも気になるが、ラーメンも食べたい気分。単品で頼めばいいでしょう。
「あたし、ソースカツ丼。馬刺し、ちょっとくださいね」
阿佐ヶ谷妹も馬刺しよりがっつり系がいいようだ。
「馬刺し定食のモモで」
「わたしも」
阿佐ヶ谷姉と矢代さんは馬刺し定食か。
「桜ステーキ定食もいいわね。モモとロースも食べたいな~」
「問題なく食べれるんだから頼んだらいいさ」
大食い大会にでも出れそうな胃袋を持っている。すべてを頼んでも余裕で食えるんだから遠慮なく頼むといい。
「あ、注文お願いします!」
店員さんに注文し、おしゃべりしながら十分くらいで料理が運ばれて来た。
「へー。肉の色が豚や牛とは全然違うんだ」
赤身と言っていいのか? マグロの赤身みたいな色だ。
「馬肉なんて久しぶりすぎてどんな味だったか思い出せないわ」
「実子さんも食べたことあるんですね」
「先生に弟子入りしたときだから六、七年前になりますね。昔は馬の肉~とか思いましたけど、いろいろ食べて来ると抵抗はなくなるものですね」
オレは食べたことなさすぎて抵抗すらないよ。どんな味なんだろう?
ラーメン定食にも三切れほどついてきたので先に食べてみた。
「これが馬肉か~」
ボキャブラリーがないので上手いこと言えんが、悪くはない。味噌をつけて食うとなかなか美味いぞ。
「お酒が飲みたくなる味ね」
「昼からはダメだからな」
「わかっているって。隣に馬刺しを売っているみたいだから帰りに買いましょうよ」
気に入ったのか、夜の晩酌用に買いたいようだ。
「ああ。好きなだけ買うといいよ」
下手な脂っこいツマミよりはいいだろう。ってまあ、どうせ他のツマミも買っちゃうんだろうけどな。
「あ、そうだ。洗濯機なかった」
下着を畳んでいたら家に洗濯機がないことを思い出した。いや、洗濯機だけじゃなく冷蔵庫もガス台もなかったわ。
「道端さんは、女性ものの下着になんの感情もないんですね」
「ただの下着ですからね」
布にどう興味を示せというんだ? 洗う前ならまだわからないでもないが、洗ったあとはもうただの下着でしかないじゃん、だ。
「童貞ですか」
「遠慮も配慮もなく訊きますね。まあ、そうですけど」
だからって恥ずかしいとも残念とも思わない。そんなこと考える余裕もなかったしな。今はこうして生きていることが嬉しくて堪らない。どん底からの逆転劇。ルーシャと出会えたのだから恋人とかどうでもいいわって思ってしまうよ。
「ルーシャさんがいるとは言え、わたしに手を出しませんよね」
「出されたかったんですか?」
「別に構いませんでしたよ。わたしも三十二歳ですからね。そうなっても構わないってときがありますから」
え、矢代さん、三十二歳だったの!? オレより下かと思ってたよ。見た目、若いな!
「見た目から二十七か八だと思ってました」
「あら嬉しいこと言ってくれますね。道端さんより二歳も年上ですよ。おばさんですよ」
「別に気にしなくていいんじゃないですか? 矢代さんがおばさんならオレもおじさんですよ」
二十七歳を過ぎた頃から体力的低下は感じてきた。三十歳なんておじさんと思われても仕方がないさ。田村さんとこの娘さん見てたらジェネレーションギャップが天元突破してたしな。
「三十過ぎると寂しさに泣いちゃうときがありますよ」
「オレは泣きましたね。死を前にして。だからルーシャと出会えたのは嬉しかった。もう一人じゃないってね」
ルーシャはオレにとって家族だ。守るべく家族なのだ。
「羨ましいです」
「恋人、いないんですか?」
「いるように見えました?」
見えなかったとはさすがに口に出来なかった。むしろ、いるんなら見てみたいと思ってしまったよ。
「振られてばかりでしたよ。長くても半年で終わっちゃいました」
よく続いたものだ、とは口にしない。きっと心の広い、優しい人だった元彼氏に賞賛の拍手を心の中で送った。
「結婚したいんですか?」
「どうでしょう? 今の仕事は気に入ってますし、家庭に入るとかも想像出来ません。でも、たまには寂しくなるんですよね……」
最初からいないなら寂しくなることもない。でも、誰かがいることを知ったら一人が堪えられなくなるんだろうな~。
「いつでも遊びに来てください。オレはそこまで酒豪ではないですけど、ルーシャなら最後まで付き合ってくれます。友達でいってやってください」
友達がいるならルーシャも矢代さんもそう寂しくなったりはしないだろうよ。オレも友達としてなら付き合って行けると思う。怖い人ではあるが、人としては嫌いじゃないからな。
「ふふ。道端さんは優しいですね」
「楽しい人生にしたいだけですよ」
こうして得た命。無駄にはしたくない。いい人生にしたいものだ。
洗濯物を畳んだら阿佐ヶ谷姉から電話がかかってきた。
「買い物が終わったのでドライブインに向かいますね」
「はい。オレたちも今から向かいます。先に着いたなら先に入ってていいですから」
「了解です」
電話を切り、キャンピングカーに乗り込んでドライブインへと向かった。
そう走る距離でもなく、店に入ったらルーシャたちも入ったばっかりのようでメニューを見ていた。
「気になったならいろいろ頼んでいいから。オレはラーメン定食ね」
馬刺しも気になるが、ラーメンも食べたい気分。単品で頼めばいいでしょう。
「あたし、ソースカツ丼。馬刺し、ちょっとくださいね」
阿佐ヶ谷妹も馬刺しよりがっつり系がいいようだ。
「馬刺し定食のモモで」
「わたしも」
阿佐ヶ谷姉と矢代さんは馬刺し定食か。
「桜ステーキ定食もいいわね。モモとロースも食べたいな~」
「問題なく食べれるんだから頼んだらいいさ」
大食い大会にでも出れそうな胃袋を持っている。すべてを頼んでも余裕で食えるんだから遠慮なく頼むといい。
「あ、注文お願いします!」
店員さんに注文し、おしゃべりしながら十分くらいで料理が運ばれて来た。
「へー。肉の色が豚や牛とは全然違うんだ」
赤身と言っていいのか? マグロの赤身みたいな色だ。
「馬肉なんて久しぶりすぎてどんな味だったか思い出せないわ」
「実子さんも食べたことあるんですね」
「先生に弟子入りしたときだから六、七年前になりますね。昔は馬の肉~とか思いましたけど、いろいろ食べて来ると抵抗はなくなるものですね」
オレは食べたことなさすぎて抵抗すらないよ。どんな味なんだろう?
ラーメン定食にも三切れほどついてきたので先に食べてみた。
「これが馬肉か~」
ボキャブラリーがないので上手いこと言えんが、悪くはない。味噌をつけて食うとなかなか美味いぞ。
「お酒が飲みたくなる味ね」
「昼からはダメだからな」
「わかっているって。隣に馬刺しを売っているみたいだから帰りに買いましょうよ」
気に入ったのか、夜の晩酌用に買いたいようだ。
「ああ。好きなだけ買うといいよ」
下手な脂っこいツマミよりはいいだろう。ってまあ、どうせ他のツマミも買っちゃうんだろうけどな。


