「まずは服をなんとかしようか」

 ファンタジーから出て来たような姿だ。現代風にすれば外国人として通用するはずだ。耳はヘッドホンかサンバイザーでなんとかなるだろう。とりあえずしま○らにレッツゴーだ!

 と思ったが、ルーシャがちと臭う。いや、だいぶ臭う。このまま店に行かせるわけにはいかないか。奇異の目で見られてしまう。

「風呂とか入ってる?」

「風呂? そんな貴族のようなことしないわ。水浴びが精々よ」

 ファンタジーな世界なだけに時代は中世なのか? 日本は江戸時代には銭湯があったってのに。

「それならホテルに泊まるか。そこなら基本的なものは揃っているからな」

 賜の湯の向かえにラブなホテルみたいなのがあった。電化製品や風呂トイレを教えるにはちょうどいい。

「ホテルとは宿屋みたいなもの?」

「そんなもんだな。一緒の部屋になるけど、構わないか? 男と同じは嫌だっていうならもう一部屋予約するけど」

 今日会ったばかりの男と同じ部屋にするのはさすがにデリカシーがないか。

「いや、構わないわ。了は紳士みたいだからな」

「これまで女性と付き合ったことがないだけの度胸なしさ」

 彼女が出来る環境じゃなかった。職場には大きなお姉さんしかいなかったし。

「ふふ。わたしは構わないわ」

 なにが? と尋ねれるわけもなし。ホテルに電話をして部屋が空いているかを確認。空いているとのことなので予約して向かった。

 ラブなホテルみたいなところかビジネスホテルにも泊まったことがなかったので少し緊張したが、なんとか部屋に通ることができた。

「まずは風呂の入り方を教えるよ。これから毎日お世話になるものだからな」

 オレの幸せは風呂に入ることだった。それが癒しだったから仕事を続けられたのだ。まあ、それでも癌を発症させてしまったがな。

「この世界は、って言うか、この国では大体が電気ってもので動いている」

 ってことから説明し、蛇口の使い方、お湯の出し方、風呂の作法、シャンプーとボディソープの違い、あ、シャワーの使い方もか。教えるとなると結構あるものだな。ちゃんと理解しているだろうか? もっとゆっくり教えたほうがいいか?

「着替えはオレのを使ってくれ。新品のだから大丈夫。明日、ルーシャの服を買いに行こう」

 し○むらなら大丈夫。しま○らなら揃えられるとオレは信じている。

「ありがとう」

 あとは任せてソファーに横になった。

「了。起きてくれ」

 ルーシャに起こされて自分が眠っていたことに気がついた。

「ごめん。どうかした?」

「いや、髪を乾かしたい。ドライヤーというのを使うんだろ」

 バスタオルを巻いて出て来たんかい! セクシーやな! って本音はいいんだよ。頭を振って眠気を払い、ドライヤーの使い方を教えた。

「喉が乾いたらこの冷蔵庫ってのに飲み物が入っているから好きなのを飲んでいいから」

 ペットボトルは教えたので開けられるだろう。

「お腹は空いてるかい?」

「少し」

 ってことで、保存食のカップラーメンを作るとする。

「お湯を入れるだけでこんな美味しいものができるのね!」

 エルフがカップラーメンを食べるってのもなんかシュールだな。

 一息ついたら部屋の中の家電製品や灯りのオンオフ。テレビをつけたら無我夢中。カルチャーショックかなんなのか。オレは先に休ませてもらいます。

 起きたらルーシャもベッドで眠っていた。

 電気ポットでお湯を沸かし、インスタントコーヒーを淹れてまったりする。この時間が幸せだ……。

 小さな窓から外を眺めていると、ルーシャが動いて起き上がった。

「おはよう」

「……おはよう……」

「顔を洗ってくるといいよ。あ、風呂は入らないように。せっかくだから朝風呂と洒落込もうか」

 ホテルの前に賜の湯がある。朝早くからやっているのだから入らないなんてもったいないじゃないのよ。  

 顔を洗ってきたらコーヒーを淹れてやり、八時になったらチェックアウトをした。

 キャンピングカーを賜の湯のほうに移動させる。

「男と女と別れるから周りの様子を見て入ってくれ。決していきなり湯船に入らないこと。シャワーで体を流してから入るんだからな」

 入浴セットをルーシャに渡した。

 ────────────────────

 ◆ルーシャ◆

 これが温泉か。

 わたしたちが住む世界にも温泉はあり、湯治として利用していると聞いたことがあるわ。

「これが券売機ってものだ。ここでは金を入れて券を買うんだ。やってみな」

 紙を一枚渡され、示されたところに入れると、出っ張りの光り出した。 

「大人二枚ってボタンを押す。ここだ」

 押すと券が出て来た。

「これをそこに出す。大人二枚です」

 宿屋の台みたいな作りをしており、そこには老人がいた。

「いらっしゃいませ。ごゆっくり」

「こっちだ」

 奥に進むと、椅子や自動販売機なるものがあった。

「男湯はこっちで女湯はそっちだ。大体赤い暖簾がかけられるほうが女湯だったりするよ」

 暖簾に字らしきものが書いてあった。女と読むらしい。

「今さらだけど、他の人に裸を見られても大丈夫? 湯船にはタオルは入れちゃダメだからさ」

「まあ、大丈夫よ。水浴びするときは仲間たちとだったから」

 水浴びも危険だからね。何人か集まって水浴びするのよね。

「それならよかった。他人と入るって文化がないと嫌だって人もいるからな。じゃあ、ゆっくり入ってくるていい。先に出たらここで待っててくれな」

 椅子を指差し、了は男湯へ向かって行った。

 よ、よし。行くか。

 大体の造りはホテルの風呂を大きくしたようなものだ。脱衣場で服を脱ぎ、湯船があるところに向かう。

 服を脱ぎ、頭にタオルを巻いら入浴セットを抱えて湯船があるほうへと向かった。

 大きいとは聞いていたけど、想像してたより大きい。十人どころか二十人でも入れるんじゃないかしら?

 客はそれなりにいるので、さっさと洗い場に向かってシャワーを……こうか? 

 お湯に変わったら体を流す。よく洗ったら湯船に。熱っ!

「……結構熱いのね……」

 それでも耐えられない熱さではないのでゆっくり入り、肩まで浸かった。

「ふぅ~」

 と、息が漏れてしまう。なかなかいいじゃない。

 風呂なんて貴族しか入れないものなのに、二日連続で入れている。なんだか偉くなったような気分だわ。フフ。

 了が温泉は最高って言ってた理由がよくわかる。これはいい。嵌まりそうだわ……。

 ん? なにか見られているわね。

 それとなく横目で見ている感じが肌に刺さる。

 ま、まあ、耳は隠しているとは言え、見た目が完全に違う。何事かと思っても仕方がないか。わたしだって里に了が現れたら何事かと思うだろうしね。

 嫌な視線ではないので気にせず、湯に抱かれ、体が温まったら湯船から出て体を洗うとする。

 昨日も洗ったのに、また洗う必要があるんだろうか? とは思うけど、体を洗うのって気持ちいいのよね。髪もサラサラになるし。

 冒険者として泥を被ったり何日も水浴びしなかったりするけど、やはり綺麗でいたいもの。しっかり体や髪を洗った。

 終わったらまたタオルを頭に撒いて湯船に──あ、外にも風呂があると言っていたわね。せっかくだから行ってみましょうか。

 外の風呂は小さいけど、開放的でいいわね。

 誰も入っていないので一人占めさせてもらいましょう。ふぃ~。

「風が気持ちいい」

 精霊の気配がまるでない風。でも、火照った体を優しく冷やしてくれる。わたしは今、王族すら体験できない幸せを感じている……。

「異世界日本か」

 最初はどうなるかと思ったけど、了と出会いはわたしにとって最大の幸運だわ。