予想していた通り、部屋に戻って来たらルーシャと矢代さんが飲み始めた。
「まだ飲むんですか?」
なぜか阿佐ヶ谷妹もやって来ている。姉はどこに行った?
「おねーちゃんならパソコンにデータを移してます。機材、実家に置いてきちゃったので」
オレの考えを読んでか、阿佐ヶ谷妹が教えてくれた。エスパーか?
「実子さんは仕事熱心だね」
「好きなこととは言え、彼氏の一人でも作ればいいんですけどね」
「そういう璃子ちゃんはいないの?」
なんか女子トークが始まってしまった。男には辛い時間だな……。
とりあえず、空気となって日本酒をちびちび飲んでやり過ごすとする。
「あら、璃子ちゃんはダウンか。まだまだお子様ね」
「八千代、飲ませすぎよ」
あなた方二人が飲みすぎなんだよ。一升瓶なんていつの間に買って来たのやら。もう空になりそうだよ。
「部屋に運んでくるよ」
せっかく二部屋借りたのだ、自分たちの部屋で寝てください。
「どちらか手伝ってくれ」
女の子一人運べないとか情けないが、運動不足のオレに運べるわけないだろう。米十キロがやっとだわ。
「仕方がないわね。ほら──」
と、なんか体温が上がり、力が漲ってきた。な、なんだ!?
「魔法で力を三倍にしたわ。十分が限界だから注意してね」
魔法かい。そんな便利なものまであるんだ。さすがファンタジーな世界の住人だよ。
どんなものかと阿佐ヶ谷妹をお姫様だっこすると、簡単に持ち上げられた。マジか!?
「てか、なんのための魔法なんだ?」
「馬車を持ち上げるときの魔法ね。溝に嵌まったときにも使うかな?」
魔物と戦うときじゃないんだ。実用性を求めた魔法だな。
まあ、物騒なことに使うよりマシか。んじゃ、運ぶとするか。
てか、お姫様だっこのままドアを開けるの大変だな。背負ってほうがよかったかも。
なんとかドアを開けて、隣の部屋のドアを叩いた。
「はーい。──あ、このバカは。迷惑かけてすみません」
「構いませんよ。逆に潰れる前に止めなくてすみません」
あの中に入るのが怖かったので空気になってました。本当に申し訳ございません。
「こちらこそアホな妹ですみません。ベッドにお願いします」
部屋にお邪魔させてもらい、阿佐ヶ谷妹をベッドに寝かせた。
「道端さん、力があるんですね」
「いや、ルーシャに魔法をかけてもらいました。こんな体なので実子さんにも負けますよ」
これでも五キロは肥えたが、四十八キロが五十三キロになっただけ。殴られたら一発でノックアウトされる自信しかないよ。
「魔法ですか。本当にファンタジー世界から来たエルフなんですね」
「あまりピンと来ませんよね。なんか光輝くようなものが出るわけでもなく、呪文を唱えるわけでもない。ほいって感じですからね」
せめて杖を使ってくれたらそれなりの感じはあるんだが、本当になにもないときている。ファンタジー映画なら大顰蹙ものだ。
「あ、そうだ。薬のことなんですが、もうないとのことでした」
がっかりする実子さん。助けたい人がいるなら当然の反応だな。
「ただ、回復魔法が使えるから直接触れることができれば治せるかも、とは言ってましたね。病気によるとは思いますが」
オレは魔法も医学もまったく知らない。変に期待されないようには伝えておいた。
「……触れなくちゃダメなのね……」
「オレはもうしばらく自由に旅をしますんで、国内ならどこにでと行きますよ。ルーシャも旅が気に入っているから構わないと言ってましたから」
旅に理由があったほうが張り合いが出るそうだ。オレも当てもなく旅をするより目的地があったほうが計画が立てやすいだろう。
「先生は佐渡島に帰ったんです」
佐渡島? 名前は聞いたことあるが……どこだ? 小豆島なら知ってはいるが……。
「新潟県にある島です。フェリーに乗って行きます」
あ、あれか。Zみたいな島。それ以上の知識はまるでないけどよ……。
「余命とか聞いています?」
「治療すれば一年。なにもしなければ半年もたないそうです」
「それなら一度家に帰ってルーシャの服や小物を買って、オレも病院に行って診断書をもらったり、細々な手続きがあるから一月後、六月半ばくらいでどうです? それなら佐渡島に行けると思います」
終活から生活《いきかつ》へ。面倒でもやらないといかんしな。
「先生と相談……できないか。魔法で治療とか言っても信じてもらえないよね……」
「それなら依頼ってことにしたらどうです? 実子さんの先生、有名な写真家なんでしょう? ルーシャの写真集をお願いしたらいいんじゃないですか? こちらには矢代さんもいることですし。口実にはちょうどいいでしょう。最後の遺作に、とかなんとか言って説得してくださいよ」
そこは実子さんの働き次第。オレらではどうにも出来ないことだからな。
「……わかりました。やってみます……」
「まあ、写真家なら写真で説得するのもいいかもしれませんね。実子さんが撮した写真で先生達やる気を燃えさせてください」
写真のことなんてなにもわからないが、ルーシャは被写体としてはなかなかのものだと思う。あの美貌に惹かれないのなら写真家としてダメだろうよ。
「……そう、ね。先生の魂を揺さぶる写真を撮ってみせるわ!」
「その意気ですよ。では、お休みなさい」
「ええ。お休みなさい」
阿佐ヶ谷姉妹の部屋を出てオレらの部屋に戻った。
「まだ飲むんですか?」
なぜか阿佐ヶ谷妹もやって来ている。姉はどこに行った?
「おねーちゃんならパソコンにデータを移してます。機材、実家に置いてきちゃったので」
オレの考えを読んでか、阿佐ヶ谷妹が教えてくれた。エスパーか?
「実子さんは仕事熱心だね」
「好きなこととは言え、彼氏の一人でも作ればいいんですけどね」
「そういう璃子ちゃんはいないの?」
なんか女子トークが始まってしまった。男には辛い時間だな……。
とりあえず、空気となって日本酒をちびちび飲んでやり過ごすとする。
「あら、璃子ちゃんはダウンか。まだまだお子様ね」
「八千代、飲ませすぎよ」
あなた方二人が飲みすぎなんだよ。一升瓶なんていつの間に買って来たのやら。もう空になりそうだよ。
「部屋に運んでくるよ」
せっかく二部屋借りたのだ、自分たちの部屋で寝てください。
「どちらか手伝ってくれ」
女の子一人運べないとか情けないが、運動不足のオレに運べるわけないだろう。米十キロがやっとだわ。
「仕方がないわね。ほら──」
と、なんか体温が上がり、力が漲ってきた。な、なんだ!?
「魔法で力を三倍にしたわ。十分が限界だから注意してね」
魔法かい。そんな便利なものまであるんだ。さすがファンタジーな世界の住人だよ。
どんなものかと阿佐ヶ谷妹をお姫様だっこすると、簡単に持ち上げられた。マジか!?
「てか、なんのための魔法なんだ?」
「馬車を持ち上げるときの魔法ね。溝に嵌まったときにも使うかな?」
魔物と戦うときじゃないんだ。実用性を求めた魔法だな。
まあ、物騒なことに使うよりマシか。んじゃ、運ぶとするか。
てか、お姫様だっこのままドアを開けるの大変だな。背負ってほうがよかったかも。
なんとかドアを開けて、隣の部屋のドアを叩いた。
「はーい。──あ、このバカは。迷惑かけてすみません」
「構いませんよ。逆に潰れる前に止めなくてすみません」
あの中に入るのが怖かったので空気になってました。本当に申し訳ございません。
「こちらこそアホな妹ですみません。ベッドにお願いします」
部屋にお邪魔させてもらい、阿佐ヶ谷妹をベッドに寝かせた。
「道端さん、力があるんですね」
「いや、ルーシャに魔法をかけてもらいました。こんな体なので実子さんにも負けますよ」
これでも五キロは肥えたが、四十八キロが五十三キロになっただけ。殴られたら一発でノックアウトされる自信しかないよ。
「魔法ですか。本当にファンタジー世界から来たエルフなんですね」
「あまりピンと来ませんよね。なんか光輝くようなものが出るわけでもなく、呪文を唱えるわけでもない。ほいって感じですからね」
せめて杖を使ってくれたらそれなりの感じはあるんだが、本当になにもないときている。ファンタジー映画なら大顰蹙ものだ。
「あ、そうだ。薬のことなんですが、もうないとのことでした」
がっかりする実子さん。助けたい人がいるなら当然の反応だな。
「ただ、回復魔法が使えるから直接触れることができれば治せるかも、とは言ってましたね。病気によるとは思いますが」
オレは魔法も医学もまったく知らない。変に期待されないようには伝えておいた。
「……触れなくちゃダメなのね……」
「オレはもうしばらく自由に旅をしますんで、国内ならどこにでと行きますよ。ルーシャも旅が気に入っているから構わないと言ってましたから」
旅に理由があったほうが張り合いが出るそうだ。オレも当てもなく旅をするより目的地があったほうが計画が立てやすいだろう。
「先生は佐渡島に帰ったんです」
佐渡島? 名前は聞いたことあるが……どこだ? 小豆島なら知ってはいるが……。
「新潟県にある島です。フェリーに乗って行きます」
あ、あれか。Zみたいな島。それ以上の知識はまるでないけどよ……。
「余命とか聞いています?」
「治療すれば一年。なにもしなければ半年もたないそうです」
「それなら一度家に帰ってルーシャの服や小物を買って、オレも病院に行って診断書をもらったり、細々な手続きがあるから一月後、六月半ばくらいでどうです? それなら佐渡島に行けると思います」
終活から生活《いきかつ》へ。面倒でもやらないといかんしな。
「先生と相談……できないか。魔法で治療とか言っても信じてもらえないよね……」
「それなら依頼ってことにしたらどうです? 実子さんの先生、有名な写真家なんでしょう? ルーシャの写真集をお願いしたらいいんじゃないですか? こちらには矢代さんもいることですし。口実にはちょうどいいでしょう。最後の遺作に、とかなんとか言って説得してくださいよ」
そこは実子さんの働き次第。オレらではどうにも出来ないことだからな。
「……わかりました。やってみます……」
「まあ、写真家なら写真で説得するのもいいかもしれませんね。実子さんが撮した写真で先生達やる気を燃えさせてください」
写真のことなんてなにもわからないが、ルーシャは被写体としてはなかなかのものだと思う。あの美貌に惹かれないのなら写真家としてダメだろうよ。
「……そう、ね。先生の魂を揺さぶる写真を撮ってみせるわ!」
「その意気ですよ。では、お休みなさい」
「ええ。お休みなさい」
阿佐ヶ谷姉妹の部屋を出てオレらの部屋に戻った。


