「……それでセンパイ、そのゲームがめちゃめちゃ難しくてー、たまにバグるという折り紙付き! クソゲーなのか神ゲーなのかよう分からんのですよー」

 ちょっとチャラめの、見慣れない私服を身にまとう、因果くん。彼の咲かせるゲーム話を、私自身、あまりゲームしない人生送ってるんだよなーと。そう思いながら、とりあえず、馬耳東風する。

 街中の雑多を、二人で歩く。頷く事もしない私に、飽きもせず彼は、話しかけてくる。話かけてくれる。

「おっ、そろそろカフェっすよ! 最近行くようになったんすけど、意外に安くて美味いんすよね~」

 そう言って、指差す因果くんの先には、歩道に寄り添うように建てられた、コンクリートと木造で設計されている、童話に出てきそうな洋風な家。

 カフェの前に立ち、因果くんが率先して木造の扉を開けると、カランカランと硬質な鈴の音とともに「いらっしゃいませー」と、女性店員が出迎えてくれる。

 ちょっとシンプルな、質素な緑のエプロンをかけた、ワイシャツのぴっしりした服装の店員さん。

 店員さんは、ほんわかとした笑顔を振りまいており、どうぞこちらへ~と席に案内してくれる。

「メニューはこちらになります。どうかごゆっくり彼女さんとお過ごしくださいね」

 ……えっ!? ちょっ!? えっ!?
 カップルじゃないんだけど!!

「ありがとうございます~」

 いやいやいや、因果くんも「ありがとうございます~」じゃねーだろ!
 わたしらカップルじゃねーっての!

「センパイどーします~?」

 弁解するにも、店員のお姉さんは店の裏に回ってしまう。私はただ、あ~、と口をぽかんと開けて、店員さんの残像を見つめていた。

「ちょ、センパイ、なんか心ここにあらずみたいな変な顔になってますよ!?」

 あへー? なにがー? 私らカップルじゃないよー?

「おーぅい、センパ~イ」

 私の目の前で、ひらひら手を振る因果くんから、目線を降ろす。

 すると、『ウィンナーコーヒー』と書かれているのが見えて、「……!?」てびっくりする。

 あれ!? 私の記憶にはない言葉!? 

そう言えば、カフェとか、コーヒーはあまり飲まなかったっけ?

 そうだ、確か、飲むとお腹壊しやすくなるから飲まなかったんだ。
 だ、大丈夫かな……?

「あ、センパイ、正気の戻った顔になった。……えーと、オレウィンナーコーヒー頼みますけどセンパイはどーします?」

 えっ!? 因果くん、ウィンナーコーヒー頼むの!? あのお弁当やら、なんやらで引っ張りだこの、子供に大人気! ウィンナーさんがコーヒーに浮いてるんだよ!? そんなん飲める!?

「え、えー……、じゃーふつーのカフェオレで」
「分かりました! 店員さーん、カフェオレとウィンナーコーヒーひとつずつー!」

「はーい」

 お姉さんが奥の方で返事をすると、注文をしばらく、待つことになった。

 因果くんこと、ウィンナーコーヒーを頼んだウィンナー野郎は、「ふんふーん♪」と鼻歌を歌いながら、メニュー表を眺めていて。

 そんな彼を見つめて、よく見ると目鼻とか整っていた。童顔というか、幼い顔してるんだなーと、観察ながらに感じたり。

 こういう顔は、女装させると可愛いんだよね、なんて自分のいたずら好きな『高木柊』が、不敵に笑って、見え隠れ。

「おまたせしましたー、こちらウィンナーコーヒーとホットカフェオレになりますー」

 そう言って、店員さんがトレーから、コーヒーカップを私達の前に並べる。

 ……あれ? ウィンナーさんがいない。

 ウィンナーさんがいるべき所に、ふわふわのホイップクリームが乗っていて。そこはウィンナーさんの居場所ですよ、とホイップクリームさんに伝えたい。

「あれ? センパイ、どうしたんです? ずっとオレのやつ見て。もしかしてこういうやつの方が良かったとか……?」

 え……? いや……? ただウィンナーじゃないのが気になってるんだけど……、どうしよう。
 なんて伝えれば。

「いや、その、ウィンナーが乗ってないから……気になって」

「ぶふっ、……く、くく……あはははは! く……くく、ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 え? え? ……え? なんでそんな笑うの?

「そんなに笑わなくても……」

「だっ、だってウィンナーが乗ってるだなんてそんなバカな事言うから……! くふふ、あはははははは!」

 ……??? ウィンナーコーヒーはウィンナーが乗ってるやつじゃ、ないの?

 ………………?????

「くふふ……はぁっ。センパイ、ウィンナーコーヒーはホイップクリームの乗ったやつの事言うんすよ?」

「えっ、……マジで?」

「マジで」

 えええええぇぇぇぇぇぇ~~~~~~!!?




 今日はカフェにて、因果くんことウィンナー野郎から、ウィンナーコーヒーの真実を教えてもらった。

 そして帰宅後、お腹を壊した。