散ってゆく桜の花びらを眺めながら、今日もまた考える。
 なぜ僕は生きているのか、と。
 人によって答えはきっと変わるのだと思う。その人に将来の夢があったり、好きなことがあったり、好きな人がいたり。その人なりに何かしら答えがあるのだと、いずれできるのだと僕は思う。
 僕には、その答えが見つからなかった。
 予知夢から始まった旅の中で慈希と出会い、苦しいことや楽しいことまで、いろんなことを経験した。いろんな想いを知って、いろんな考えを持った。それなのに、答えは見つからなかった。厳密にいえば、"逃げてしまった"と言ったほうがいいのかもしれない。
 あれからもう予知夢は見ていない。以前とは少し違った「普通」が傍にある。

 死にたい、生きたい、どちらでもない、二度と完成しない、僕の想い。

「優弥くん!」

 声をかけられて、後ろを振り返る。

 だが、誰もいない。気のせいだったのだろうか。

「       」

 いや、確かに、そこにいる。

 約束通り、世界を見に来ている。

『素晴らしくて面白い世界』

 いつか彼女が口にした言葉が蘇る。

 僕の傍で、心で、そんな世界を見に来ている彼女。

 そうだ、嫉妬という想いも教えてやろうか。

 彼女に負けないくらい素晴らしい恋人を作って。

 幸せな家庭を築いて。

「だめだよ!」

 必死に訴えかけているだろう彼女。

 …………そんな度胸ないから、心配しないで。

 冗談だよ冗談、と昔みたいに笑いかける。

 僕が、"素晴らしくて面白い世界"を見せるから。

 また二人で、生きていこう。

「「大好きだよ」」

 ありきたりな、何度も言い合った言葉を、互いにこれからも伝え合うだろう。