「おはよう」
「おはよ」
「今日は私仕事で遅くなるから先に夕御飯は食べててね。冷蔵庫に入れてるから」
「わかった」
「それじゃ、いってくるわね」
「いってらっしゃい」
朝食の食パンを平らげ、身支度を済ませて私も学校へと向かった。
落書きだらけの教室に着くと
「…」
周りが驚く程に静かだ。
どうしたのだろうと思っていると
「おい、女子だ」
「あいつ強いのか?」
とコソコソと話し声が聞こえて来た。
どうやら私を品定めをしているらしい。
「なあ、お前強いの?」
「ちょっ!廿九日(ひづめ)!」
「…さあ?」
「じゃあ、勝負しようぜ?」
どうしていきなり殴り合いの勝負になって居るのか
よくわからないまま私は取り敢えず攻撃を躱し、足を出し転けるように仕掛ける。
そして相手はまんまと罠に引っかかり転けた。
「痛ってぇー」
「…お前だっさ。女子に負けるとか有り得ないんだけど?」
さっきまで周りで様子見をしていた奴等が野次を飛ばす。
「ダサいのはむしろアンタらの方じゃないの?さっきまで様子見してただけなのに弱い奴見つけて悦んでるの、正直ダサいよ」
「あぁ?」
「…んだと?」
周りの奴等がピキピキと指を鳴らす。
「はいはい、お前ら席に着け!」
「チッ、お前覚えとけよ」
こそっと私に耳打ちをして各々の席に着く。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
球技大会の日
私の入学式の日の出来事は瞬く間に全校生徒の耳に届き、1ヶ月が経った今も連日勝負に挑んで来るチンピラの相手をしていた。
「今日こそは負けねぇからな!」
「へーひとりじゃ勝てないから複数人でやろうって?」
この日は私1人に対して男5人で挑んで来た男の相手をしていた。
「あ?だから何だよ?言っておくけどなぁ、藤堂先輩は負け知らずの…」
と騒ぐ1年を制止し、藤堂先輩が言う。
「まぁまぁ、こんなに可愛いんだから暴力は良くないよね。ってことで、ちょーっとお兄さんと付き合ってよ?」
「嫌です」
「そんなこと言わずにさー」
藤堂先輩が私の手を繋がれ引き寄せられた所で反対側の手をまた誰かに握られた。
「女の子いじめて楽しいのかよ?」
「波橋くん?!」
「あぁ?」
「っていうか君、君も最近隣の女子校で噂になってるよね?波橋 龍君」
「それは女子校の奴等が勝手に騒いでるだけだろ。鬱陶しい」
周りに居た野次馬が野次を飛ばす。
それを遮るように藤堂先輩が野次馬達を宥めた。
「はいは〜い、んじゃ…凛ちゃん、波橋くんとの戦いが終わったら今度は僕らと戦って?ね?皆もそれでいいよね?」
周りに居た野次馬が無言で頷く。
「おい、聞いたか?」
「あぁ!見に行こうぜ!」
騒ぎを聞きつけた野次馬のテンションも最高潮に盛り上がった。
波橋くんの顔面に向かって硬く握った拳が飛んで来る。
その拳をギリギリで躱し、足で彼の脛を蹴る。
「「…」」
周りで見守って居る野次馬達が息を飲んだ。
その時
「こらーっ!何してんだー!」
「やべっ」
生徒会と教師に見つかり、この場は幕引きとなった。
湿度の高い上に激狭な生徒指導室に押し込まれ反省文を書いていた放課後。
「お!凛ちゃん、やっほー!ねねっ?」
「…」
「お〜い!ね〜!どうして無視するの?」
「…」
「ね〜?」
隣の席に着くや否や藤堂先輩は即座に私にアピールをし始めた。
「…私達、敵ですよね?敵に愛想を振り撒く余裕は私には無いので、失礼します」
席を立ち、生徒指導室から出ると波橋 龍と生徒指導の先生が話して居た。
終わるまで待ってから生徒指導の先生に反省文を提出し、帰ろうと階段を降りたその時
「おい、一緒に帰るか?またチンピラに絡まれんのも疲れるだろ」
「うん、ありがとう」
「なあ…お前…本当に噂通りのやつなのか?」
「…違うね。教室入った途端、戦う羽目になって、その喧嘩にたまたま勝って噂になって、噂が独り歩きしてめっちゃ強い女に仕立て上げられただけ」
「そうか…でも、隠れて努力してることはすげー尊敬してる…それに別に力で勝とうとしなくても学力でテッペン取るのもアリだと思う」
「…あ、ありがとう」
「お、おう」
「ただいま」
シーンとした室内に私の声が響き渡る。
お母さんは今日も仕事、お父さんも仕事だ。
でも、これも私が不登校になったが故に招いた結果でもある。
私が中学に入り、暫く経った頃友達と些細なことで喧嘩をし、絶交してから嘘の悪い噂を振り撒かれ孤立した。
結果、両親はよく夫婦喧嘩をするようになり、今ではお互い避けるように生活している。



