アイドルは、同性ファンにとっては憧れの的だし、異性のファンにとっては理想の恋人候補であることが多いだろう。だからスキャンダルなんてもってのほかだし、熱愛は暗黙のルールで禁止されている。
でも、私は、今、恋している___。
この恋は絶対にバレてはいけない。
この恋がバレたら、私の数少ないファンはゼロになるだろうし、これからが大事なフレッシュルースの名に傷をつけることになり、どんなバッシングを受けることになるか、考えただけでも怖い。
それに、もし私が星亜に片想いしていることが知れたら、星亜にどんな被害が及ぶか分からない。今の私は正直数少ないヲタクの気持ちがどうなろうと知ったことない。でも、もし万が一星亜に何かあったら、立ち直れない。アイドル活動は私の人生をかけているし、やっと叶った夢だけれど、ヲタクよりもアイドル活動よりも大切なのは星亜だ。
こんなこと、フレッシュルースのメンバーには口が裂けても言えない。フレッシュルースで一番仲が良いハルにさえ言えない。
そう、私は今“堂々と人には言えないような恋”をしてしまっている___。
この秘密はアイドル卒業まで胸にしまって行くんだ。
そう決めたのに___。
___1週間後。
初めて主催ライブに遅刻してしまいそうになった。
衣装を家に忘れてライブ会場の最寄り駅まで来てしまったのだ。たまたまタクシーが空いていて道が混んでいなかったこともあり、ライブ時間にはギリギリ間に合った。
とはいえ、リハーサルには間に合わず出られなかったのでその件を謝罪しなければならない。急いでタクシー代をお札で運転手に渡してタクシーを降り、ライブ会場の裏口から入って階段を駆け上がる。
すると、プロデューサーの未澪さんとマネージャーのいっしーの話し声が聞こえた。
「・・リーダーはさ、早めに決めておいたほうが良いんじゃない?やっぱり。」
「一ノ瀬瑠璃はどう?しっかりしているし、メンバーで一番プロ意識が高い感じする。」
「瑠璃か・・・うーん。」
リーダー。
リーダーはグループをまとめる重要な役割の人。メンバーみんなをまとめるから、みんなに信頼され尊敬されていないと務まらないし、責任感を求められるし、当然スキャンダルなんてもってのほかだ。でも、瑠璃は、普段からライブ前のみんなの緊張をほぐしてくれるような面白いこと言ってくれるムードメーカーのような立場にいたが、真面目な性格で一度もライブでミスをしたことがないしみんなからの信頼も厚い。瑠璃ならリーダー適任だろう。
「私はさあ、菖蒲にリーダー任せたら面白いんじゃないかなあって思うんだよね。」
「え、菖蒲?!」
「?!」
自分の耳を疑った。
私が・・・リーダー・・?
そんなわけない。私は自分の意見を言うのが苦手だし、MCでいまだに瑠璃や朱里に話を振ってもらって初めて言葉を発することができている。
円陣を組む掛け声だって、だいたい瑠璃か朱里かとにかく私以外の誰かが掛けてくれている。
私みたいな引っ込み思案な影響力がない、責任感に縁がないタイプがなっていいものじゃない。絶対私じゃない。私がリーダーなんて、絶対に嫌だ。リーダーってグループに大きな影響を与える存在でしょ。面白そうなんて理由で選ばないでよ。本当に嫌だ。やめて。嫌だ。
「まあ今は時間ないし、今日ゆっくり話そう。できるだけ早く決めておきたい。」
「グループの相談ってそういうことだったのか。てっきり俺は、誰か撮られたのかと思ってさ・・・」
「ばーか、うちのグループに限ってそんなことあるわけないじゃん!みんなスケジュール的にも恋愛なんてしてる暇ないわ!」
「たしかにな。」
「・・・」
私が同級生兼ヲタクに恋してるなんて知ったら、いっしーと未澪さんはどう思うだろう。きっと軽蔑されて、がっかりされて突き放されるだろう。絶対グループもくびになる。
絶対にバレてはいけない秘密を抱えるというのは、罪悪感を増幅させる。
この日はいっしーと未澪さんの会話が何度も反芻され、全くライブに集中できなかった。そのせいでヲタクからのダメ出しで心なしかいつもより特典会の列は長かった。
「菖蒲たんどうしたのー?今日パフォ落ちてたよ?最近ダンス上手くなったねって、あいつらとも今朝話してたのによー!」
「そっかあ。ごめんね・・・次からはこんなことないように気をつける!」
「俺ら金積んでライブ見てるんだからさ、気をつけてな。」
知らねえよ。ライブ見てなんてこっち頼んでないし。勝手にライブ見にきて、私の推しでもないくせに文句言いにこないでよ。文句にも笑顔で対応しなきゃならないこっちの身にもなってよ。と心の中で毒づきながら、笑顔のパックを顔面に貼り付けてあたかもヲタクを想う“か弱きアイドル”を演じる。するとほら___。
「さっきのヲタクなんて気にしないでね?!俺だけは菖蒲の味方だから!」
こういう多くの優しい尽くすタイプのヲタクが私の虜になってくれる。この人は優しいから絶対文句言わないけど、いつもなぜか後方でライブ観戦していて、しょっちゅう彼氏ヅラしてくるタイプ。
両極端なヲタクと接しても、私が感じる気持ちはただ1つ___。
早く星亜来て___。
あんなにアイドルになりたくて、初めて親にオーディション情報を見せた時が懐かしい。あの時は、恋愛抜きで完璧な王道アイドルになりたくて、アイドルになろうとした。でも反対されてできなかった。
そして星亜を好きになってから、またチャンスが巡ってきて本当にアイドルになれて、嬉しくて幸せいっぱいだったのに涙まで流したのに、私は今何をしているんだろう。
私は今、本当にアイドルなんだろうか___。
ヲタクに表面上でしか優しくできず、心の中ではヲタクに毒を吐いている。ヲタクよりも星亜が私の元に来てくれるのを求めている、絶賛片想い中のアイドル。そして、そんなこと周りが知ったらどうなるんだろうと密かに怯えている小心者の裏切りアイドル。本当に笑えないぐらい私はリーダーに向いていない。
「大丈夫??」
「!・・ごめんね!ぼーっとしちゃった。」
「そっか。最近ライブの回数増えてるし疲れてない?」
「大丈夫だよ!ゆうてぃるがいつもたっくさん会いに来てくれるおかげで、疲れも忘れちゃうぐらい頑張れるの!」
この人は、アンチもしないし、彼氏ヅラもしない、いわゆる“普通の人”。みんなには“ゆうてぃる”って呼ばれている。あだ名は適当に私がつけたら、すごく気に入ってくれてSNSの名前も“ゆう”から“ゆうてぃる”に変えていた。
でも、その可も不可もないゆうてぃるでさえ、私にとっては心底どうでもいい存在で、後ろにちらっと見える星亜と早く話したくて、ゆうてぃるの話を左から右に聞き流している。
「よっ!元気かよ?最近・・色々頑張ってるみたいだな。」
「うん!レッスンの回数増やした!」
きゃああ・・・!やっと星亜の番が来た!
やっと話せる!まずは、まずは・・・
あんなに早く話したかった星亜を目の前にして、緊張で何も話せなくなる。
『星亜と話したいことリスト』だって考えてきたのに、そのメモ帳はカバンの中だ。
星亜を前にして氷のようにカチンコチンに固まる私に比べて、頭にたたき込んだ話したいことリストは氷のように溶けて消えてゆく。
今日もあっという間に星亜と話せる時間が終わってしまった。
___
特典会が終わると、フレッシュルースのメンバーみんな身を寄せて集まり、「ありがとうございましたー!」と一斉にお辞儀をする。
その時、周りを見渡すが星亜はいなかった。今日は帰りを急いでいたのかな。彼女とデートだったりして・・・。そう考えて勝手に落ち込む。
___
家に帰るとゆっくりSNSを見る時間になる。今の地下アイドルは、ファンのSNSを見にいき“いいね”を押しに行ったりする“作業”も仕事の1つになりつつある。
ゆうてぃるを初めとしたヲタク達のSNSを“いいね”してまわって、今日の自撮りを投稿したらひと段落。
ひと段落したところでようやくプライベートな連絡のチェックができる。プライベートな連絡を済ませてからアイドル関連のSNSをこなすメンバーもいるが、私は先にアイドル関連のSNSをこなす。さっきから成夏や悠花からメッセージの通知が来ていた。
「ライブおっつかれー!今日は主催ライブだよね??どうだった?」と成夏。
「お疲れ様!明日、成夏と新宿のアフタヌーンティカフェ行くんだけど、スケ空いてたら一緒に行かない?」と悠花。
私は最近、2人とのことで少し焦燥感を抱いていた。
レッスンの回数を増やして、ライブの回数も増えて、忙しくなって、2人からの誘いを断ることが続いていた。2人は私のお仕事を理解してくれているし、こんなことにならないと思うけど、これ以上誘いを断り続けたら、2人との距離がどんどん開いてしまうのではないか___と心のどこかで思っていた。
幸い、明日はオフだ。自主練は明日カフェから帰ってからやればいい。せっかくの誘いをOKしよう。
「ありがとう!明日オフだから行けるよ!」
すぐに返信が来る。
「良かった!じゃあ11時くらいに新宿駅集合しない?」
ウサギがグットのポーズをしているスタンプを送る。
「今日は星亜いた?」
ニヤニヤしている絵文字つきで悠花からメッセージがくる。
「いたよ!でもうまく話せなかった!」
「まだうまく話せないのー?!星亜めっちゃライブ通ってるのに?」
「ライブめっちゃ通ってるし、彼女と最近一緒にいること少ないし、ワンチャンあるんじゃない??」
たしかに。星亜は最近彼女と一緒に行動することがめっきり少なくなっていた。でもたまに一緒に話すところは見かけるし、関係は続いていると思う。別れたという噂は聞いていない。でも、以前のようなラブラブなオーラは少ないように思う。もしかしたら私にも___。
ティルティルリーン・・・
大好きで憧れのエストレージャという先輩アイドルグループのデビュー曲の着信音が鳴る。スマホの画面を見ると『未澪さん』と表示されている。未澪さんからの着信。何の話だろう。まさか今日の盗み聞きした“リーダー”についての話じゃないだろうか・・・。話を聞くのが怖い。後回しにしよう。
着信音が切れるのを待って、返信するメッセージを打ち込んでいく。
「もし星亜が彼女と別れてワンチャンありそうなら、さっさとアイドル卒業しちゃうかも。ヲタク達の前ではうまく演技しているけど、二面性アイドルなうー。」
送信。
スマホをいじりすぎてそろそろ指が痛くなってきた。ちょっとスマホいじるの休憩しよう。そう思ってスマホを放ってベットに横になってみる。
またすぐに通知が来て、寝っ転がりながらスマホの画面を見る。
「星亜って誰?」
「・・・んん??」
文面の真意がよく分からなくて、画面をよく見る。
そこには『成夏・悠花』ではなく、『未澪さん』と表示されていた___。
やらかした。咄嗟に思ったことはそれだ。
私のアイドル人生の坂を早くも転がり落ちる衝撃が、私の身体中に走った。
でも、私は、今、恋している___。
この恋は絶対にバレてはいけない。
この恋がバレたら、私の数少ないファンはゼロになるだろうし、これからが大事なフレッシュルースの名に傷をつけることになり、どんなバッシングを受けることになるか、考えただけでも怖い。
それに、もし私が星亜に片想いしていることが知れたら、星亜にどんな被害が及ぶか分からない。今の私は正直数少ないヲタクの気持ちがどうなろうと知ったことない。でも、もし万が一星亜に何かあったら、立ち直れない。アイドル活動は私の人生をかけているし、やっと叶った夢だけれど、ヲタクよりもアイドル活動よりも大切なのは星亜だ。
こんなこと、フレッシュルースのメンバーには口が裂けても言えない。フレッシュルースで一番仲が良いハルにさえ言えない。
そう、私は今“堂々と人には言えないような恋”をしてしまっている___。
この秘密はアイドル卒業まで胸にしまって行くんだ。
そう決めたのに___。
___1週間後。
初めて主催ライブに遅刻してしまいそうになった。
衣装を家に忘れてライブ会場の最寄り駅まで来てしまったのだ。たまたまタクシーが空いていて道が混んでいなかったこともあり、ライブ時間にはギリギリ間に合った。
とはいえ、リハーサルには間に合わず出られなかったのでその件を謝罪しなければならない。急いでタクシー代をお札で運転手に渡してタクシーを降り、ライブ会場の裏口から入って階段を駆け上がる。
すると、プロデューサーの未澪さんとマネージャーのいっしーの話し声が聞こえた。
「・・リーダーはさ、早めに決めておいたほうが良いんじゃない?やっぱり。」
「一ノ瀬瑠璃はどう?しっかりしているし、メンバーで一番プロ意識が高い感じする。」
「瑠璃か・・・うーん。」
リーダー。
リーダーはグループをまとめる重要な役割の人。メンバーみんなをまとめるから、みんなに信頼され尊敬されていないと務まらないし、責任感を求められるし、当然スキャンダルなんてもってのほかだ。でも、瑠璃は、普段からライブ前のみんなの緊張をほぐしてくれるような面白いこと言ってくれるムードメーカーのような立場にいたが、真面目な性格で一度もライブでミスをしたことがないしみんなからの信頼も厚い。瑠璃ならリーダー適任だろう。
「私はさあ、菖蒲にリーダー任せたら面白いんじゃないかなあって思うんだよね。」
「え、菖蒲?!」
「?!」
自分の耳を疑った。
私が・・・リーダー・・?
そんなわけない。私は自分の意見を言うのが苦手だし、MCでいまだに瑠璃や朱里に話を振ってもらって初めて言葉を発することができている。
円陣を組む掛け声だって、だいたい瑠璃か朱里かとにかく私以外の誰かが掛けてくれている。
私みたいな引っ込み思案な影響力がない、責任感に縁がないタイプがなっていいものじゃない。絶対私じゃない。私がリーダーなんて、絶対に嫌だ。リーダーってグループに大きな影響を与える存在でしょ。面白そうなんて理由で選ばないでよ。本当に嫌だ。やめて。嫌だ。
「まあ今は時間ないし、今日ゆっくり話そう。できるだけ早く決めておきたい。」
「グループの相談ってそういうことだったのか。てっきり俺は、誰か撮られたのかと思ってさ・・・」
「ばーか、うちのグループに限ってそんなことあるわけないじゃん!みんなスケジュール的にも恋愛なんてしてる暇ないわ!」
「たしかにな。」
「・・・」
私が同級生兼ヲタクに恋してるなんて知ったら、いっしーと未澪さんはどう思うだろう。きっと軽蔑されて、がっかりされて突き放されるだろう。絶対グループもくびになる。
絶対にバレてはいけない秘密を抱えるというのは、罪悪感を増幅させる。
この日はいっしーと未澪さんの会話が何度も反芻され、全くライブに集中できなかった。そのせいでヲタクからのダメ出しで心なしかいつもより特典会の列は長かった。
「菖蒲たんどうしたのー?今日パフォ落ちてたよ?最近ダンス上手くなったねって、あいつらとも今朝話してたのによー!」
「そっかあ。ごめんね・・・次からはこんなことないように気をつける!」
「俺ら金積んでライブ見てるんだからさ、気をつけてな。」
知らねえよ。ライブ見てなんてこっち頼んでないし。勝手にライブ見にきて、私の推しでもないくせに文句言いにこないでよ。文句にも笑顔で対応しなきゃならないこっちの身にもなってよ。と心の中で毒づきながら、笑顔のパックを顔面に貼り付けてあたかもヲタクを想う“か弱きアイドル”を演じる。するとほら___。
「さっきのヲタクなんて気にしないでね?!俺だけは菖蒲の味方だから!」
こういう多くの優しい尽くすタイプのヲタクが私の虜になってくれる。この人は優しいから絶対文句言わないけど、いつもなぜか後方でライブ観戦していて、しょっちゅう彼氏ヅラしてくるタイプ。
両極端なヲタクと接しても、私が感じる気持ちはただ1つ___。
早く星亜来て___。
あんなにアイドルになりたくて、初めて親にオーディション情報を見せた時が懐かしい。あの時は、恋愛抜きで完璧な王道アイドルになりたくて、アイドルになろうとした。でも反対されてできなかった。
そして星亜を好きになってから、またチャンスが巡ってきて本当にアイドルになれて、嬉しくて幸せいっぱいだったのに涙まで流したのに、私は今何をしているんだろう。
私は今、本当にアイドルなんだろうか___。
ヲタクに表面上でしか優しくできず、心の中ではヲタクに毒を吐いている。ヲタクよりも星亜が私の元に来てくれるのを求めている、絶賛片想い中のアイドル。そして、そんなこと周りが知ったらどうなるんだろうと密かに怯えている小心者の裏切りアイドル。本当に笑えないぐらい私はリーダーに向いていない。
「大丈夫??」
「!・・ごめんね!ぼーっとしちゃった。」
「そっか。最近ライブの回数増えてるし疲れてない?」
「大丈夫だよ!ゆうてぃるがいつもたっくさん会いに来てくれるおかげで、疲れも忘れちゃうぐらい頑張れるの!」
この人は、アンチもしないし、彼氏ヅラもしない、いわゆる“普通の人”。みんなには“ゆうてぃる”って呼ばれている。あだ名は適当に私がつけたら、すごく気に入ってくれてSNSの名前も“ゆう”から“ゆうてぃる”に変えていた。
でも、その可も不可もないゆうてぃるでさえ、私にとっては心底どうでもいい存在で、後ろにちらっと見える星亜と早く話したくて、ゆうてぃるの話を左から右に聞き流している。
「よっ!元気かよ?最近・・色々頑張ってるみたいだな。」
「うん!レッスンの回数増やした!」
きゃああ・・・!やっと星亜の番が来た!
やっと話せる!まずは、まずは・・・
あんなに早く話したかった星亜を目の前にして、緊張で何も話せなくなる。
『星亜と話したいことリスト』だって考えてきたのに、そのメモ帳はカバンの中だ。
星亜を前にして氷のようにカチンコチンに固まる私に比べて、頭にたたき込んだ話したいことリストは氷のように溶けて消えてゆく。
今日もあっという間に星亜と話せる時間が終わってしまった。
___
特典会が終わると、フレッシュルースのメンバーみんな身を寄せて集まり、「ありがとうございましたー!」と一斉にお辞儀をする。
その時、周りを見渡すが星亜はいなかった。今日は帰りを急いでいたのかな。彼女とデートだったりして・・・。そう考えて勝手に落ち込む。
___
家に帰るとゆっくりSNSを見る時間になる。今の地下アイドルは、ファンのSNSを見にいき“いいね”を押しに行ったりする“作業”も仕事の1つになりつつある。
ゆうてぃるを初めとしたヲタク達のSNSを“いいね”してまわって、今日の自撮りを投稿したらひと段落。
ひと段落したところでようやくプライベートな連絡のチェックができる。プライベートな連絡を済ませてからアイドル関連のSNSをこなすメンバーもいるが、私は先にアイドル関連のSNSをこなす。さっきから成夏や悠花からメッセージの通知が来ていた。
「ライブおっつかれー!今日は主催ライブだよね??どうだった?」と成夏。
「お疲れ様!明日、成夏と新宿のアフタヌーンティカフェ行くんだけど、スケ空いてたら一緒に行かない?」と悠花。
私は最近、2人とのことで少し焦燥感を抱いていた。
レッスンの回数を増やして、ライブの回数も増えて、忙しくなって、2人からの誘いを断ることが続いていた。2人は私のお仕事を理解してくれているし、こんなことにならないと思うけど、これ以上誘いを断り続けたら、2人との距離がどんどん開いてしまうのではないか___と心のどこかで思っていた。
幸い、明日はオフだ。自主練は明日カフェから帰ってからやればいい。せっかくの誘いをOKしよう。
「ありがとう!明日オフだから行けるよ!」
すぐに返信が来る。
「良かった!じゃあ11時くらいに新宿駅集合しない?」
ウサギがグットのポーズをしているスタンプを送る。
「今日は星亜いた?」
ニヤニヤしている絵文字つきで悠花からメッセージがくる。
「いたよ!でもうまく話せなかった!」
「まだうまく話せないのー?!星亜めっちゃライブ通ってるのに?」
「ライブめっちゃ通ってるし、彼女と最近一緒にいること少ないし、ワンチャンあるんじゃない??」
たしかに。星亜は最近彼女と一緒に行動することがめっきり少なくなっていた。でもたまに一緒に話すところは見かけるし、関係は続いていると思う。別れたという噂は聞いていない。でも、以前のようなラブラブなオーラは少ないように思う。もしかしたら私にも___。
ティルティルリーン・・・
大好きで憧れのエストレージャという先輩アイドルグループのデビュー曲の着信音が鳴る。スマホの画面を見ると『未澪さん』と表示されている。未澪さんからの着信。何の話だろう。まさか今日の盗み聞きした“リーダー”についての話じゃないだろうか・・・。話を聞くのが怖い。後回しにしよう。
着信音が切れるのを待って、返信するメッセージを打ち込んでいく。
「もし星亜が彼女と別れてワンチャンありそうなら、さっさとアイドル卒業しちゃうかも。ヲタク達の前ではうまく演技しているけど、二面性アイドルなうー。」
送信。
スマホをいじりすぎてそろそろ指が痛くなってきた。ちょっとスマホいじるの休憩しよう。そう思ってスマホを放ってベットに横になってみる。
またすぐに通知が来て、寝っ転がりながらスマホの画面を見る。
「星亜って誰?」
「・・・んん??」
文面の真意がよく分からなくて、画面をよく見る。
そこには『成夏・悠花』ではなく、『未澪さん』と表示されていた___。
やらかした。咄嗟に思ったことはそれだ。
私のアイドル人生の坂を早くも転がり落ちる衝撃が、私の身体中に走った。



