特典会が終わって残ってくれていたファンにお礼の挨拶をした後、私たちフレッシュルースは控え室に戻った。控え室に戻ると各々帰る支度をしながら、自分のところに来てくれたファンの話で盛り上がった。その中、仮のリーダーを務める朱里がメンバーを集める。そしてお披露目ライブ終了後の挨拶としてスピーチを始める。記録用のカメラも入っている。
「みんな、今日はお疲れ様でしたー!ライブチケットは売り切れ、会場内満員御礼でした!人生で初めてのライブだった子がほとんどでしたが、たくさんの期待を背負いながらも良いパフォーマンスができていたと思います!フレッシュルース、最高でした!!」
みんながパチパチと拍手を送る。今日は全体としては確かに最高のライブだった。ほとんどのファンはすごく楽しそうな顔をしていたし、ライブのセットリストが進むにつれて盛り上がりも段々大きくなっていった。その後の特典会では私以外のメンバーは大盛況だったし___。
そう、私以外は最高のお披露目ライブになった。私以外は。私は自分では必死にパフォーマンスしたつもりだったし、レスもたくさん送った。でもその気持ちはごく一部のファンにしか伝わっていなかった。悔しい気持ちよりも“虚しい”・“恥ずかしい”という気持ちが強かった。
そんな私に心配そうな顔でハルが話しかけてくれる。
「菖蒲ちゃん・・・体はどう?大丈夫?」
「ありがとう。大丈夫だよ。もうあとは帰るだけだし。」
「そっか。支度終わったら一緒に帰ろう!」
「うん!」
今日は色んな意味で考えさせられた日だった。実際にライブに出てみて、私はアイドルとしての実力不足にも人気不足にも気付かされ、好きな人にも恥ずかしい姿を見せてしまった。次に星亜にライブを見せるときは紫色の光でいっぱいの景色を見せて圧倒させたいし、あんながらんとした自分の特典会の列なんて、もう二度と見せない。私はまだ努力が足りないんだ。もっと努力して、人気になって絶対に星亜の目を惹いてみせる。
次の日、ハルと新百合ヶ丘駅で電車を待っている時、思い切って相談してみた。
「ハル・・・あのね、私、あのライブ、個人的には満足していなくって、もっとアイドルとして努力していきたいって思っていて。ほら、私だけ特典会の列短かったでしょ。あの日、私の友達も見に来てくれていたから・・恥ずかしいところ見せちゃって・・・。」
「えらい!!菖蒲のそういう努力家なところも好き!!じゃあ、ボイスレッスンとダンスレッスンの回数増やせるかプロデューサーさんに相談してみる??」
「うん!!そうしたい!」
そうしてハルがプロデューサーさんにその旨を相談してくれて、私たちはボイスレッスンとダンスレッスンに通う回数を増やすことになった。ボイスレッスンは週に三回、ダンスレッスンは週に四回の頻度になった。だが、平日は学校があるので学校が終わってすぐにレッスンに向かうようになったため、悠花や成夏と学校帰りに一緒に寄り道したり長話することができなくなり、休日はもちろん一日中レッスンと自主練に費やしたりライブがあったため、二人との時間が取れなくなってしまった。
私は、“友情”より“アイドル”としての活動を選んだのだ。私がアイドルを頑張るのは星亜への気持ちのためでもあり、“アイドル”としての活動を選ぶことは“友情”より”恋愛“を選ぶことでもあった。それでも二人はそんな私を暖かく受け入れてくれ応援してくれた。
そうして私とハルは学業・レッスン・ライブに追われる忙しい日々が始まった。私は、同期のハルとの方が、悠花や成夏達とより一緒に過ごす時間が多いことに、気になり始め、とはいえ悠花や成夏なら理解してくれている。あの頃の私は、忙しくなったからといって二人との友情に溝ができるなんてあるわけないと思い込んでいた___。
それから二週間後、レッスンが忙しくなってからは初の主催ライブがあった。ハルと一緒にライブ会場の控え室に行くと、朱里と葵が先に待機していた。
「あっハルちゃんと菖蒲ちゃん!おはよう!」
「おはようーー!」
「おはーー!二人とも早いね!」
「今日早く着きすぎちゃってさー!自主練してた!対バンより主催ライブがやっぱり緊張するっ!」
ライブアイドルのライブの種類は“対バン“と”主催ライブ“があり、”対バン“は他のアイドルグループと合同で行うライブ、”主催ライブ“は自分達のアイドルグループが自分達で企画をして行うライブだ。
「私は今日の主催ライブで正式にリーダーに就任するから、やっぱりリーダーは一番最初に控え室に到着しておくべきかなあって思って、早く来た!」
「そっか!プロデューサーさんから聞いたよ!リーダー就任おめでとう!」
「おめでとうー!!」
「ありがとう!主催ライブ成功させようね!」
私にとってもメンバー達にとっても、主催ライブは特別だった。対バンのライブと違って、主催ライブは自分達のことが好きな人達だけが来てくれる。だから失望させるわけにはいかないし、むしろ期待に応えられる出来のライブをできないと、次からの主催ライブは規模を大きくできないのだ。
今回のライブは悠花や成夏は塾に通い始めたため行けないと言っていた。星亜はさすがに毎回ライブに誘うのは押し付けがましいかと思い誘っていないから来ないはずだ。私の頑張る理由が来ないから心細いが、今日は自分の数少ないファンのために頑張ってパフォーマンスするしかない。そう思っていたのに___。
SEが始まり、暗い照明の中、朱里を先頭に、ハル、瑠璃、葵、若葉、私の順に登場していく。私達が登場し始めたら、メンバーそれぞれのファンが自分の推しの名前を叫んでいく。
この時間が私は嫌いだった。なぜなら私はフレッシュルースで一番ファン数が少なく、私の名前を叫んでくれるファンも少なかったから。ただ虚しくなる時間だった。
そう思っていたのに____。
「あーやーめーーー!!」
「っ!!」
一際大きな声で叫ぶ、低くも優しい声、聞き覚えのあるあの声で名前を呼ばれると毛布に包まれるような暖かい感覚になる、そんな声。声の主は星亜だった。
「なんで・・・」
私は星亜にライブの日は教えていない。ということは自分で調べてきてくれたのか。星亜は私の名前を叫びながら、紫色のペンライトを三本の連結ホルダーにつけたものを二セット両手で持ちながらこっちを笑顔で見ている。戸惑っていると、星亜はペンライト連結ホルダーを片方だけ右肩に挟み、左手でこちらに向かいグットポーズをして見せた。その姿に涙が溢れてきた。ずるい人だ。私の好きな人は優しくてずるい人で、頑張る理由になってくれる、私の一番のファンになってくれていた___。
あの日以来、星亜はなぜかフレッシュルースのライブにほぼ欠かさず来てくれるようになった。星亜はアイドル好きではなかったし、なんでフレッシュルースのライブにたくさん来てくれて応援してくれるのか不思議だった。星亜は、ライブでは三つのペンライトホルダーを二セット持って見守ってくれていたから、かなり目立っていたが、ライブ中も特典会でも私と知り合いであることを明らかにしようとせず、あくまでファンの一員としていてくれた。
そんな星亜の応援してくれる気持ちに応えなければと思っていたし、他のファン達なんてただの空気でしかなくありがたみのかけらもなかった。だって何日ライブに行っても変わらず私は人気がなかったし、少ないファンのためにわざわざ特典会に顔を出さなければいけないのは憂鬱でしかなかった。星亜だけが私の光になっていた。
どんなにレッスンで覚えることが多くて大変でも、ライブや特典会で私のファンの人数がいつも一桁で打ちのめされても、星亜の優しい笑顔が見れるだけでなんでも頑張れた。
星亜がフレッシュルースのライブに来てくれるのは私のことを友人として応援してくれているからだって分かっている。私はまだ、星亜にとって、目を惹く存在ではないし“最高の推し”にすらなれていない。でも、私にとって、星亜は少なくとも“最高のファン”だ。星亜にはまだあんなに可愛らしい彼女がいるのに、それでもこんなに恋心が溢れてしまう私はなんてバカなんだろう。
「みんな、今日はお疲れ様でしたー!ライブチケットは売り切れ、会場内満員御礼でした!人生で初めてのライブだった子がほとんどでしたが、たくさんの期待を背負いながらも良いパフォーマンスができていたと思います!フレッシュルース、最高でした!!」
みんながパチパチと拍手を送る。今日は全体としては確かに最高のライブだった。ほとんどのファンはすごく楽しそうな顔をしていたし、ライブのセットリストが進むにつれて盛り上がりも段々大きくなっていった。その後の特典会では私以外のメンバーは大盛況だったし___。
そう、私以外は最高のお披露目ライブになった。私以外は。私は自分では必死にパフォーマンスしたつもりだったし、レスもたくさん送った。でもその気持ちはごく一部のファンにしか伝わっていなかった。悔しい気持ちよりも“虚しい”・“恥ずかしい”という気持ちが強かった。
そんな私に心配そうな顔でハルが話しかけてくれる。
「菖蒲ちゃん・・・体はどう?大丈夫?」
「ありがとう。大丈夫だよ。もうあとは帰るだけだし。」
「そっか。支度終わったら一緒に帰ろう!」
「うん!」
今日は色んな意味で考えさせられた日だった。実際にライブに出てみて、私はアイドルとしての実力不足にも人気不足にも気付かされ、好きな人にも恥ずかしい姿を見せてしまった。次に星亜にライブを見せるときは紫色の光でいっぱいの景色を見せて圧倒させたいし、あんながらんとした自分の特典会の列なんて、もう二度と見せない。私はまだ努力が足りないんだ。もっと努力して、人気になって絶対に星亜の目を惹いてみせる。
次の日、ハルと新百合ヶ丘駅で電車を待っている時、思い切って相談してみた。
「ハル・・・あのね、私、あのライブ、個人的には満足していなくって、もっとアイドルとして努力していきたいって思っていて。ほら、私だけ特典会の列短かったでしょ。あの日、私の友達も見に来てくれていたから・・恥ずかしいところ見せちゃって・・・。」
「えらい!!菖蒲のそういう努力家なところも好き!!じゃあ、ボイスレッスンとダンスレッスンの回数増やせるかプロデューサーさんに相談してみる??」
「うん!!そうしたい!」
そうしてハルがプロデューサーさんにその旨を相談してくれて、私たちはボイスレッスンとダンスレッスンに通う回数を増やすことになった。ボイスレッスンは週に三回、ダンスレッスンは週に四回の頻度になった。だが、平日は学校があるので学校が終わってすぐにレッスンに向かうようになったため、悠花や成夏と学校帰りに一緒に寄り道したり長話することができなくなり、休日はもちろん一日中レッスンと自主練に費やしたりライブがあったため、二人との時間が取れなくなってしまった。
私は、“友情”より“アイドル”としての活動を選んだのだ。私がアイドルを頑張るのは星亜への気持ちのためでもあり、“アイドル”としての活動を選ぶことは“友情”より”恋愛“を選ぶことでもあった。それでも二人はそんな私を暖かく受け入れてくれ応援してくれた。
そうして私とハルは学業・レッスン・ライブに追われる忙しい日々が始まった。私は、同期のハルとの方が、悠花や成夏達とより一緒に過ごす時間が多いことに、気になり始め、とはいえ悠花や成夏なら理解してくれている。あの頃の私は、忙しくなったからといって二人との友情に溝ができるなんてあるわけないと思い込んでいた___。
それから二週間後、レッスンが忙しくなってからは初の主催ライブがあった。ハルと一緒にライブ会場の控え室に行くと、朱里と葵が先に待機していた。
「あっハルちゃんと菖蒲ちゃん!おはよう!」
「おはようーー!」
「おはーー!二人とも早いね!」
「今日早く着きすぎちゃってさー!自主練してた!対バンより主催ライブがやっぱり緊張するっ!」
ライブアイドルのライブの種類は“対バン“と”主催ライブ“があり、”対バン“は他のアイドルグループと合同で行うライブ、”主催ライブ“は自分達のアイドルグループが自分達で企画をして行うライブだ。
「私は今日の主催ライブで正式にリーダーに就任するから、やっぱりリーダーは一番最初に控え室に到着しておくべきかなあって思って、早く来た!」
「そっか!プロデューサーさんから聞いたよ!リーダー就任おめでとう!」
「おめでとうー!!」
「ありがとう!主催ライブ成功させようね!」
私にとってもメンバー達にとっても、主催ライブは特別だった。対バンのライブと違って、主催ライブは自分達のことが好きな人達だけが来てくれる。だから失望させるわけにはいかないし、むしろ期待に応えられる出来のライブをできないと、次からの主催ライブは規模を大きくできないのだ。
今回のライブは悠花や成夏は塾に通い始めたため行けないと言っていた。星亜はさすがに毎回ライブに誘うのは押し付けがましいかと思い誘っていないから来ないはずだ。私の頑張る理由が来ないから心細いが、今日は自分の数少ないファンのために頑張ってパフォーマンスするしかない。そう思っていたのに___。
SEが始まり、暗い照明の中、朱里を先頭に、ハル、瑠璃、葵、若葉、私の順に登場していく。私達が登場し始めたら、メンバーそれぞれのファンが自分の推しの名前を叫んでいく。
この時間が私は嫌いだった。なぜなら私はフレッシュルースで一番ファン数が少なく、私の名前を叫んでくれるファンも少なかったから。ただ虚しくなる時間だった。
そう思っていたのに____。
「あーやーめーーー!!」
「っ!!」
一際大きな声で叫ぶ、低くも優しい声、聞き覚えのあるあの声で名前を呼ばれると毛布に包まれるような暖かい感覚になる、そんな声。声の主は星亜だった。
「なんで・・・」
私は星亜にライブの日は教えていない。ということは自分で調べてきてくれたのか。星亜は私の名前を叫びながら、紫色のペンライトを三本の連結ホルダーにつけたものを二セット両手で持ちながらこっちを笑顔で見ている。戸惑っていると、星亜はペンライト連結ホルダーを片方だけ右肩に挟み、左手でこちらに向かいグットポーズをして見せた。その姿に涙が溢れてきた。ずるい人だ。私の好きな人は優しくてずるい人で、頑張る理由になってくれる、私の一番のファンになってくれていた___。
あの日以来、星亜はなぜかフレッシュルースのライブにほぼ欠かさず来てくれるようになった。星亜はアイドル好きではなかったし、なんでフレッシュルースのライブにたくさん来てくれて応援してくれるのか不思議だった。星亜は、ライブでは三つのペンライトホルダーを二セット持って見守ってくれていたから、かなり目立っていたが、ライブ中も特典会でも私と知り合いであることを明らかにしようとせず、あくまでファンの一員としていてくれた。
そんな星亜の応援してくれる気持ちに応えなければと思っていたし、他のファン達なんてただの空気でしかなくありがたみのかけらもなかった。だって何日ライブに行っても変わらず私は人気がなかったし、少ないファンのためにわざわざ特典会に顔を出さなければいけないのは憂鬱でしかなかった。星亜だけが私の光になっていた。
どんなにレッスンで覚えることが多くて大変でも、ライブや特典会で私のファンの人数がいつも一桁で打ちのめされても、星亜の優しい笑顔が見れるだけでなんでも頑張れた。
星亜がフレッシュルースのライブに来てくれるのは私のことを友人として応援してくれているからだって分かっている。私はまだ、星亜にとって、目を惹く存在ではないし“最高の推し”にすらなれていない。でも、私にとって、星亜は少なくとも“最高のファン”だ。星亜にはまだあんなに可愛らしい彼女がいるのに、それでもこんなに恋心が溢れてしまう私はなんてバカなんだろう。



