GW前の日。今日なんだけど。
午後、休講。
珍しく俺のほうが先に帰ってきてて、
ソファで心理統計学の課題に集中してた。パソコンカタカタ。俺、えらすぎ。
とかやってたら、
ガチャ。玄関の鍵の音。
「もう、お戻りになっていたのですね」
任太朗の淡々とした、低めの声。礼儀正しさ百パーのトーン。
俺、顔あげたら、任太朗はいつもの静かな動きでキッチン直行。
表情一個も変えずに、登山リュック置いて、黒エプロンを手際よくサッと装着。
なにか鍋に入れて、スッと俺の後ろを通過して、そのまんまソファの左側、バルコニーのガラスドア。拭き始めた。
……なんなん、もう。 俺らの関係、やっぱどっか不安定。
幼なじみって感じでもねーし、かといって、ただの家政夫?
……いや、それもちげぇし。なんか、距離感、変にきっちりしてて。
そこにいんの、ふつーに……落ち着く。悪くねぇ。
……けどよ。 『好きです』──あれ、なんだったんだよ。
フワついてんの、俺だけとか……納得いかねぇ!
って……考えてるうちに、課題の数式が詰んだ。
「あ〜〜もうっ! なんで分母そろんねーんだよ!」
そしたら、だ。
「どこですか?」
やたら低いトーンがして、
振り向く前に、クロスを畳んでた任太朗が、スッと俺の背後に来てる。
ソファの背に左手ついて、腰をちょっと折って、
俺の 斜め上から、俺のパソコン画面を覗き込んできた。
「……え、ちょ……」
……近っ。 いや、近すぎんだろこれ。 その距離、息、当たるって。マジで。
しかもなんか、 任太朗っぽい、男の匂い──
柔軟剤越しに、汗のにおいがちょっとだけ混ざってて、ズシン、って、鼻にきた。
視界の端っこに入ってくんのは──
黒Tの袖からのびた、しっかりした腕。思ったより近い、手の甲。
あと──顔。……近っ。
慌ててすぐに画面に視線戻したけど、
気づいたら、任太朗の右手がトラックパッドをそっと指してた。
その手──俺の腕に、かすってる。いや、当たってる。今、ちょっと。
「それ、ここ、ミスです」
耳のすぐ横で、低めの声。
「あ、あー……そう、そこ……? ……ちけぇって、マジ……」
……俺、なに意識いってるんの?
一応、画面に集中してるフリするけど、 任太朗が低いトーンのまんま、
「ここ、ミスしてます。あと、分数の並び、逆です」
「は……ほんとだ……」
「これは従属変数です。y値出すなら、まず分母の自由度が……」
声もトーンも変えずに、淡々と説明してくる。 頭の回転、速っ。なんか、すげぇな、こいつ。
俺、優秀だから冷静に戻って画面見たら── うん、マジで合ってた。説明通り。完璧。
「あ〜〜〜やらかしてた!? 俺が!? マジで!?」
……ちょっと悔しいんだけど、なんかムカつくとか、じゃねぇんだよ。
てか……こいつ、またカッコよかった。ズルくねぇ?
「すげぇな、お前、統計学もできんの? ……めっちゃ助かった」
任太朗はその姿勢のまんま、すぐこっち見た。
「よかったですね」
無表情のくせに、確実に、落ち着かせるその目。
……なにその目。
やっべ、心臓、ピクッてなったんだけど。は? なんなんこのドキドキの質。
「……サンキュー」
任太朗は、返事なし。
何事もなかったみたいに、またスッと立ち上がって、 バルコニーのガラスドア、黙って拭きに戻っていった。
……なにそれ。 頭脳見せつけたあとに、涼しい顔で家政夫モードかよ。
なんかもう、ムズムズ。
っていうか、 このタイミング、今言わなきゃ── 二度と聞けねぇ気がして──
「……なあ、お前さ、俺のこと、好きって言ってたよな?」
ソファの背もたれに肘かけて、 ちょっと体ひねって、膝で座面ぐにっと押して、 バルコニー側。猫背の背中に向かって、ちょい声張った。
すると──
「はい」
即答。ブレなし。ド直球。
「……どの『好き』? ジャンル的に」
任太朗、ガラス拭く手をピタッと止めて、 一瞬だけ止まったあと、くるっと振り返ってきた。
そのまんま、こっちをじっと見て──
「恋愛です」
ズン、ってきた。ブレなし。ド直球。
無表情。トーン低っ。のくせに、なんか来た。なんでだよ。
「マジで、それ……やっぱ、そういう『好き』だったんだな」
顔の前で指ポリポリ掻きながら、なんとなく目、そらした。
なんか……いや、ちょっと嬉しい? でも──
「俺、男だぞ?」
「はい」
「お前も、男な?」
「知ってます」
「いやいや、俺、男にもモテるのは事実だけど、そーゆーのってふつーじゃねぇし?」
「関係ありません。私は、金井さんが好きです」
──ドッキ。
……どーしろってんだよ、ドキドキの質。
淡白なくせに、じっと見てくる視線。なんでそんな効くんだよ。
軽く膝、ゆらした。 座り直して、そばにあったクッションをなんとなく胸に引き寄せてぎゅって抱えた。
ブラックに少しだけブラウンのグラデが入ってる、高級リネンのやつ。
なぜか、頭だけ任太朗のほうに向けたまんま、目、合わせず。
「……ちょ、なにそれ。……当時ガキだったろう? 好きって、恋愛とは違くね?」
任太朗は、静かに返してくる。
「小一のとき、いじめられてた私を、助けてくれました」
「小一……? いや、覚えてな……けど!? 俺、小三の公園でかけっこした記憶しかねぇけど?」
思わずクッションぎゅ。
「『やめろよ』って、大きな上級生たちの前に、立ってくれました」
「……え、俺それ、言った?」
「はい。金井さんの言葉、ひとつも忘れてません」
「え、それ……小一だぜ!? どんな記憶力?」
褒めたくねぇのに、またそーゆーいうとこ。 つい、視線がそっちに流れた。
任太朗は俺のこと、見たまんまで、 無表情のくせに小さく、コクッと頷く。
「あと、『泣いてんの、似合わねーからやめろ』って──」
「……小一の俺が? それ……マジで言ったの?」
「てか、それ、めっちゃヒーローじゃん、俺」
…… そんなセリフ、小一で吐いてたとか…… 俺、モテるの、そりゃ納得すぎねぇ?
「そこから、ずっと、好きでした。それから、ずっと見てました」
「……見てた?」
クッション、ぎゅー。
任太朗、まっすぐ。ぜんっぜん目をそらさねぇ。
「明るくて、いつも前向きで。走って、私に勝ったときの笑顔が、眩しかったです。笑ったときのエクボも、全部、眩しいです。」
「……え……そりゃな〜、よく言われる。事実だし。わりと、言われ慣れてんっから」
言いながら、口元に触れた。 エクボ、ぽちって押して確認。いや、これモテるでしょ。仕方ねぇ。
任太朗、表情、変わんねぇまんま。
「任太朗って、呼んでくれたのも、金井さんだけでした」
「え、ママが任太朗くんってって呼んでたから。べつに意味とか、ねーし?」
任太朗は、気にしてねぇみたいに、表情、変わんねぇまんま。
「あの夜、不安で。金井さんと一緒に寝たとき、安心しました」
「はっ!? ちょ、まって、なにそれ。いつ!? どこで!? ……俺、お前と寝た!?!?」
はあ!? クッションぎゅー! ぎゅー!
「一回だけ。私の両親が大喧嘩していた日、私、公園から帰りたくなくて、金井さんの母様が、私を家に連れて帰って、泊めてくれました」
「……え、ママ……あ〜〜〜〜〜あった!! あったわそれ!!」
記憶の奥、急にパッて蘇ってきて、
「お前、俺のデカいベッドの端っこで静かに寝てた……マジ、抱き枕かと思ったっつーの!!」
思い出して、またクッションぎゅー! ぎゅー! ぎゅー!
「あの夜が、人生で一番安心できた夜でした」
任太朗、無表情だけど。
……なんか、ああいう顔。ほっとしてんのか……なんだよ、その顔。昔の任太朗っぽいじゃん。
「安心、か……」
いや、待て。 そんなこと言われたらさ、 なんか、俺まで安心してきたんですけど。
……つかさ、たぶん俺、あの夜ガチで爆睡してた。
お前、静かすぎて……完全に、抱き枕として抱いてたんじゃね?
今クッション抱いたまんま、リネンの感触が、胸と指にやけにリアル。
──で。次の秒で。
任太朗の視線、俺集中。 それから、静かに。
「金井さんは、私の中ではずっと憧れで、好きです」
……また言われた。今。ちゃんと。『好きです』って。
しかも「ずっと」とかつけてきてんじゃん。なにそれ。
お前、マジか……やっと、もう一回言ったな……。
クッションぎゅー! ぎゅー! ぎゅー! ぎゅー!!
「……なにそれ」
声に出てた。小さく。俺が。マジかよ俺。
って瞬間。
「顔、赤いです」
って任太朗がつぶやいた。
……は!? えっ!? 熱ッ。顔が……バカみたいに熱ッつ!
「……っ!! はっ!? えっ!? うるせぇ!! 見んな! バカ!!」
とっさにクッションで顔ガード!
リネンの感触、肌に当たってんとこ……縫い目の感じとか、いちいち伝わってくんの。
なにも見えねぇ。任太朗、見えねぇ。
でも、なんか、クッションはなぜか手放せぇ。……もうわけわかんねぇ。
「あ、あのな、俺……」
口が勝手に言いかけて、でもそのあと、止まった。
なに言えばいいかわかんねぇ。てか、俺、今何言おうとしてた?
……なんでだよ、俺。
照れ……? 嬉しい……? 戸惑い? いやいや、どっちだよ。全部?
それも……? なにこれ?
聞いたの、俺なのに。 言ったの、お前なのに。 なのに──
でも──この状況、けっこう悪くなねぇ。かも。
珍しく俺のほうが先に帰ってきてて、
ソファで心理統計学の課題に集中してた。パソコンカタカタ。俺、えらすぎ。
とかやってたら、
ガチャ。玄関の鍵の音。
「もう、お戻りになっていたのですね」
任太朗の淡々とした、低めの声。礼儀正しさ百パーのトーン。
俺、顔あげたら、任太朗はいつもの静かな動きでキッチン直行。
表情一個も変えずに、登山リュック置いて、黒エプロンを手際よくサッと装着。
なにか鍋に入れて、スッと俺の後ろを通過して、そのまんまソファの左側、バルコニーのガラスドア。拭き始めた。
……なんなん、もう。 俺らの関係、やっぱどっか不安定。
幼なじみって感じでもねーし、かといって、ただの家政夫?
……いや、それもちげぇし。なんか、距離感、変にきっちりしてて。
そこにいんの、ふつーに……落ち着く。悪くねぇ。
……けどよ。 『好きです』──あれ、なんだったんだよ。
フワついてんの、俺だけとか……納得いかねぇ!
って……考えてるうちに、課題の数式が詰んだ。
「あ〜〜もうっ! なんで分母そろんねーんだよ!」
そしたら、だ。
「どこですか?」
やたら低いトーンがして、
振り向く前に、クロスを畳んでた任太朗が、スッと俺の背後に来てる。
ソファの背に左手ついて、腰をちょっと折って、
俺の 斜め上から、俺のパソコン画面を覗き込んできた。
「……え、ちょ……」
……近っ。 いや、近すぎんだろこれ。 その距離、息、当たるって。マジで。
しかもなんか、 任太朗っぽい、男の匂い──
柔軟剤越しに、汗のにおいがちょっとだけ混ざってて、ズシン、って、鼻にきた。
視界の端っこに入ってくんのは──
黒Tの袖からのびた、しっかりした腕。思ったより近い、手の甲。
あと──顔。……近っ。
慌ててすぐに画面に視線戻したけど、
気づいたら、任太朗の右手がトラックパッドをそっと指してた。
その手──俺の腕に、かすってる。いや、当たってる。今、ちょっと。
「それ、ここ、ミスです」
耳のすぐ横で、低めの声。
「あ、あー……そう、そこ……? ……ちけぇって、マジ……」
……俺、なに意識いってるんの?
一応、画面に集中してるフリするけど、 任太朗が低いトーンのまんま、
「ここ、ミスしてます。あと、分数の並び、逆です」
「は……ほんとだ……」
「これは従属変数です。y値出すなら、まず分母の自由度が……」
声もトーンも変えずに、淡々と説明してくる。 頭の回転、速っ。なんか、すげぇな、こいつ。
俺、優秀だから冷静に戻って画面見たら── うん、マジで合ってた。説明通り。完璧。
「あ〜〜〜やらかしてた!? 俺が!? マジで!?」
……ちょっと悔しいんだけど、なんかムカつくとか、じゃねぇんだよ。
てか……こいつ、またカッコよかった。ズルくねぇ?
「すげぇな、お前、統計学もできんの? ……めっちゃ助かった」
任太朗はその姿勢のまんま、すぐこっち見た。
「よかったですね」
無表情のくせに、確実に、落ち着かせるその目。
……なにその目。
やっべ、心臓、ピクッてなったんだけど。は? なんなんこのドキドキの質。
「……サンキュー」
任太朗は、返事なし。
何事もなかったみたいに、またスッと立ち上がって、 バルコニーのガラスドア、黙って拭きに戻っていった。
……なにそれ。 頭脳見せつけたあとに、涼しい顔で家政夫モードかよ。
なんかもう、ムズムズ。
っていうか、 このタイミング、今言わなきゃ── 二度と聞けねぇ気がして──
「……なあ、お前さ、俺のこと、好きって言ってたよな?」
ソファの背もたれに肘かけて、 ちょっと体ひねって、膝で座面ぐにっと押して、 バルコニー側。猫背の背中に向かって、ちょい声張った。
すると──
「はい」
即答。ブレなし。ド直球。
「……どの『好き』? ジャンル的に」
任太朗、ガラス拭く手をピタッと止めて、 一瞬だけ止まったあと、くるっと振り返ってきた。
そのまんま、こっちをじっと見て──
「恋愛です」
ズン、ってきた。ブレなし。ド直球。
無表情。トーン低っ。のくせに、なんか来た。なんでだよ。
「マジで、それ……やっぱ、そういう『好き』だったんだな」
顔の前で指ポリポリ掻きながら、なんとなく目、そらした。
なんか……いや、ちょっと嬉しい? でも──
「俺、男だぞ?」
「はい」
「お前も、男な?」
「知ってます」
「いやいや、俺、男にもモテるのは事実だけど、そーゆーのってふつーじゃねぇし?」
「関係ありません。私は、金井さんが好きです」
──ドッキ。
……どーしろってんだよ、ドキドキの質。
淡白なくせに、じっと見てくる視線。なんでそんな効くんだよ。
軽く膝、ゆらした。 座り直して、そばにあったクッションをなんとなく胸に引き寄せてぎゅって抱えた。
ブラックに少しだけブラウンのグラデが入ってる、高級リネンのやつ。
なぜか、頭だけ任太朗のほうに向けたまんま、目、合わせず。
「……ちょ、なにそれ。……当時ガキだったろう? 好きって、恋愛とは違くね?」
任太朗は、静かに返してくる。
「小一のとき、いじめられてた私を、助けてくれました」
「小一……? いや、覚えてな……けど!? 俺、小三の公園でかけっこした記憶しかねぇけど?」
思わずクッションぎゅ。
「『やめろよ』って、大きな上級生たちの前に、立ってくれました」
「……え、俺それ、言った?」
「はい。金井さんの言葉、ひとつも忘れてません」
「え、それ……小一だぜ!? どんな記憶力?」
褒めたくねぇのに、またそーゆーいうとこ。 つい、視線がそっちに流れた。
任太朗は俺のこと、見たまんまで、 無表情のくせに小さく、コクッと頷く。
「あと、『泣いてんの、似合わねーからやめろ』って──」
「……小一の俺が? それ……マジで言ったの?」
「てか、それ、めっちゃヒーローじゃん、俺」
…… そんなセリフ、小一で吐いてたとか…… 俺、モテるの、そりゃ納得すぎねぇ?
「そこから、ずっと、好きでした。それから、ずっと見てました」
「……見てた?」
クッション、ぎゅー。
任太朗、まっすぐ。ぜんっぜん目をそらさねぇ。
「明るくて、いつも前向きで。走って、私に勝ったときの笑顔が、眩しかったです。笑ったときのエクボも、全部、眩しいです。」
「……え……そりゃな〜、よく言われる。事実だし。わりと、言われ慣れてんっから」
言いながら、口元に触れた。 エクボ、ぽちって押して確認。いや、これモテるでしょ。仕方ねぇ。
任太朗、表情、変わんねぇまんま。
「任太朗って、呼んでくれたのも、金井さんだけでした」
「え、ママが任太朗くんってって呼んでたから。べつに意味とか、ねーし?」
任太朗は、気にしてねぇみたいに、表情、変わんねぇまんま。
「あの夜、不安で。金井さんと一緒に寝たとき、安心しました」
「はっ!? ちょ、まって、なにそれ。いつ!? どこで!? ……俺、お前と寝た!?!?」
はあ!? クッションぎゅー! ぎゅー!
「一回だけ。私の両親が大喧嘩していた日、私、公園から帰りたくなくて、金井さんの母様が、私を家に連れて帰って、泊めてくれました」
「……え、ママ……あ〜〜〜〜〜あった!! あったわそれ!!」
記憶の奥、急にパッて蘇ってきて、
「お前、俺のデカいベッドの端っこで静かに寝てた……マジ、抱き枕かと思ったっつーの!!」
思い出して、またクッションぎゅー! ぎゅー! ぎゅー!
「あの夜が、人生で一番安心できた夜でした」
任太朗、無表情だけど。
……なんか、ああいう顔。ほっとしてんのか……なんだよ、その顔。昔の任太朗っぽいじゃん。
「安心、か……」
いや、待て。 そんなこと言われたらさ、 なんか、俺まで安心してきたんですけど。
……つかさ、たぶん俺、あの夜ガチで爆睡してた。
お前、静かすぎて……完全に、抱き枕として抱いてたんじゃね?
今クッション抱いたまんま、リネンの感触が、胸と指にやけにリアル。
──で。次の秒で。
任太朗の視線、俺集中。 それから、静かに。
「金井さんは、私の中ではずっと憧れで、好きです」
……また言われた。今。ちゃんと。『好きです』って。
しかも「ずっと」とかつけてきてんじゃん。なにそれ。
お前、マジか……やっと、もう一回言ったな……。
クッションぎゅー! ぎゅー! ぎゅー! ぎゅー!!
「……なにそれ」
声に出てた。小さく。俺が。マジかよ俺。
って瞬間。
「顔、赤いです」
って任太朗がつぶやいた。
……は!? えっ!? 熱ッ。顔が……バカみたいに熱ッつ!
「……っ!! はっ!? えっ!? うるせぇ!! 見んな! バカ!!」
とっさにクッションで顔ガード!
リネンの感触、肌に当たってんとこ……縫い目の感じとか、いちいち伝わってくんの。
なにも見えねぇ。任太朗、見えねぇ。
でも、なんか、クッションはなぜか手放せぇ。……もうわけわかんねぇ。
「あ、あのな、俺……」
口が勝手に言いかけて、でもそのあと、止まった。
なに言えばいいかわかんねぇ。てか、俺、今何言おうとしてた?
……なんでだよ、俺。
照れ……? 嬉しい……? 戸惑い? いやいや、どっちだよ。全部?
それも……? なにこれ?
聞いたの、俺なのに。 言ったの、お前なのに。 なのに──
でも──この状況、けっこう悪くなねぇ。かも。
