「起立…敬礼!」
 コツ、コツ、と、軽い足音がなる。明らかに他の自衛隊員とは違う服装。魔法少女(彼女)たちのスカートは、自衛隊員とを見分ける、唯一の服装だ。
 三澤春夏(みさわはるか)。今回の作戦に参加する魔法少女。現在16歳。「呪い」までは程遠い。そして、年齢に対し自己が確立されている…ように見える。
「着席…全員揃ったな?では、これより作戦概要を説明する」
「目標は大狼級(オオカミクラス)。衛星写真で旧住宅街に大規模な勢力を作っているのを発見した。現在、諏訪方向へと進出中であり、迎撃のようありと判断された。対魔群攻撃群は諏訪への侵入をなんとしてもおさえ、その間に、春夏が上空から奇襲。大狼級を撃滅する」
「詳しい配置は移動中に確認せよ。以上!」
「「はっ!」」
 諏訪か。幼い頃連れていった以来かもしれない。
 俺たちはすぐに出撃に備え、着替えにいった。




 装甲車に揺られ、作戦地域についた。
「Magical1、現着。反包囲体制へ移行する」
『こちらAWACSペガサス。魔群は現在、ウェイポイント3を通過。予想よりも若干だが進撃が早い。航空隊による爆撃がまもなく始まる。それまでに展開せよ』
「了」
 日本の地形はいい。山間部の間に町が作られているから、こういった戦場で強い。
 ふと、空を見上げる。夜空に近いところ。そこに、輸送機が1機いた。黒猫の紋章…あれか。
 何機かの航空機が空を切り裂いた。その轟音で、やっと任務に集中できた。しばらくすると、遠くで爆撃音が聞こえてきた。
『MAS、全隊展開完了』
『あと40秒で接敵すると予測される。マガジンを確認しておけよ』
 マガジンを確認…危ない、AMSP(対魔群弾)ではなく徹甲弾が入っていた。すぐに取り替え、再度、銃を構える。
「………!見えた!」
「撃て!撃てぇ!」
 夜の闇に迫りくる、さらに深い闇たち、そこに大量に撃ち込まれる弾丸。そこは、まさに地獄と形容してもよいものだ。
 魔群は弾が当たったそばから夜の闇に溶け合うように消え、それは30秒近く続いた。
『よし、第一波は消え去ったな。すぐに第二波がくるぞ』
『あと3分!』
 俺は栄養バーを噛みながら、弾を込め直した。
「接敵まで3、2、1、今!」
 再度、闇に銃弾を叩き込む。それはさっきよりほんの少し長かった。
『まもなく敵の本隊がくる。爆発魔法の衝撃に備えよ』
 …衝撃に備えろと言われても、遮蔽物なんかないぞ……
 目を凝らしたら、ひときわ大きな闇が迫ってきていた。あれが敵の本隊。目標だった。
 だが、それとほぼ同時、空を切り裂く小さな音が聞こえた。よく見ると、それは空から降ってきた彼女だった。
 次の瞬間。敵の本隊はきれいなほどに爆散した。
「っつ!っ…くそったれ。舌噛んだ…」
 衝撃がダイレクトに伝わってくる。さすがに近すぎたか。
 爆心地を見てみる。そこにはクレーターしかなかった。上空には、ふわふわ降りている魔法少女がいた。
「いつ見ても圧巻だ…」
 新入りがそんなことをつぶやいていた。だが、その瞬間だった。
 大きな木の根っこのようなものが、彼女を貫かんと迫っていた。
 間一髪で回避した彼女は、その方向へと進んでいった。
『おい!どうする!』
「どうするって言われても!」
 その時、AWACSから指令が来た。それは、魔法少女の援護だった。
「あーもうくそったれ!行くぞ!」
「「了解!」」



 魔法少女の援護に迎えに行ったとき、魔群らしき人影がいた。あまりにも黒い、だが、人のようだった。
 だが、問題はその人が魔法を使ったということだ。つまり、魔法少女___。
「対魔法少女難かしらねぇぜ!」
「とにかく、相手を孤立させるぞ!」
 銃撃で相手の道を防ぐ。
「春夏さん!」
 俺が声をかけ、彼女がそっちに振り向いた瞬間だった。彼女の腹に根っこが刺さったのは。
 ぽたぽたと滴り落ちる血。それに気を取られていた瞬間。魔群は逃げていった。最悪だ。
「大丈夫ですか!」
 そう呼びかけた瞬間だった。彼女の傷口に、ヘイローが浮かんだのは。
「あ…」
 彼女も、俺も、そうつぶやいてしまった。
 ヘイローが浮かんだ魔法少女は、塵になって死ぬ。彼女も、少しづつ塵になっていった。
「…終わり、か」
「待ってください!」
 衛生兵を呼ぼうとした。だけど、すぐに制止された。
「いや、もう無理だ。私の体だからわかる。だから、諦め」
 その時、魔群の第四波が見えていた。
「…くそっ!」
 その時だった。彼女が立ったのは。
「せっかくの最期だ。やれるだけやってみようじゃないなか」
 高笑いしている彼女は、なにかを唱え始めた。
「我が言霊よ。どうか我の願いに答えてくれたまえ。たとえ、この命に変えても!」
「爆破ぁ!」
 その瞬間、意識が途切れた。



 目が覚めると、そこは装甲車の中だった。
「やっと起きたか」
 上官が辛そうな顔で見つめている。作戦は?彼女は?そういう疑問が溢れていった。
 上官がいうには、作戦は成功した。だか、謎の魔群の攻撃により、魔法少女。三沢春夏が戦死。そこにいち早くついていた私たちの隊は、なんとか全員生きているそうだ。
「…彼女が死んだのは。私の
「確かに、君のせいでもある」
 突然遮られ、驚いてしまった。
「それよりも、新たな魔群の方が問題だ。帰還後、すぐに出頭せよ…とのことだそうだ」
 …結局、忙しいことにはかわりないじゃないか。
 それから、その魔群は「アリス」というコードネームがつけられた。俺は、そいつに敵を討ちたい。だから、どんな危険な任務でも、生き残ってやると。強く、願った。