◇◇◇
「――とっれたああ~!」
「まあ、三千円持ってかれましたけどね」
「いいだんよ! 獲れたから! 俺、初めてかも。クレーンゲームででっかいぬいぐるみ獲ったの。てか、コツとかあるんだな!」
「そりゃ、何にも攻略法ぐらいありますよ。先輩だって、男をひっかける方法よく知ってるでしょ? あれと同じですよ」
「ちょくちょく、俺のそれに突っ込んでくるよな。今度言ったら怒るっていっただろ」
「……ビッチ先輩からビッチとったら、ただの先輩になっちゃうので」
「いーの、先輩だし。先輩だけで」
今日のゲームはクレーンゲームだった。どちらが先に、指定したクレーンゲームで景品を取れるか勝負した。
交互にやっていくのだが、冬城は二回目で取ってしまい、俺はまたも完敗。
クレーンゲームも強いって、俺はいったいいつになったらこの男に勝てるのだろうか。本当に月に二千円……バスは定期外のところだから往復で五百円ほど。冬城にお金を搾り取られる未来がもうはっきりと見えている。
その後、新たに入荷したというビッグサイズのぬいぐるみが入っているクレーンゲームを見に行くことになった。その途中で、店長の季無さんが出てきて、若い子に人気のぬいぐるみを入れたら集客できるかも、との戦略らしい。
俺たちが対戦したクレーンゲームより一回り大きなサイズのクレーンゲームの中には、のっぺりとした顔をした魚のような何かが一体転がっていた。最近よく見るサカバンバスピスだ。俺はそれに一目惚れをし、百円をつぎ込んだ。しかし、五百円つぎ込んでもとれず途中に冬城に「五百円玉入れれば、六回ゲームできますよ」と五百円目を投入したときに言われ損した気分になった。
それから、千円、二千円と溶けていき、三千円目でやっと取れた。二千円くらいから冬城がアドバイスをしてくれるようになり、その通りにやったら、なんとなく、自分の思う位置にサカバンバスピスが落ちるようになった。とはいえ、アームがあまりにも緩い。
「あーなんか似合いますね。サカバンバスピスと先輩。アホっぽい顔が特に」
「はあ!? アホっぽいってなんだ。かわいいって言え! 俺は、かわいいだろうが!」
「アホかわいです。これでいいですか?」
「よくないけど、許す!」
「単純でいいですね」
冬城は呆れるようにそういったが、あの黒マスクをしていないためか、彼の顔はよく見えた。
三千円をつぎ込んで取れた九十センチ大のサカバンバスピスのぬいぐるみはそれはいい肌触りで、俺は思わずぎゅっと抱きしめてしまった。だが、次の瞬間パシャリという音が聴こえ、俺は眉間にしわを寄せることとなる。
「何撮ってんだよ」
「いや、アホかわいくて」
「それいえば、許してもらえると思ってんじゃないだろうな」
まだあの写真も消してもらっていないというのに、俺の恥ずかしい写真が量産されていく。
「消せ」と言えば「消しません」というまでがセット。さらには、冬城は「負けるたび、ビッチ先輩の恥ずかしい写真が増えていくんで」と新たなルールまで設ける始末。
でも、嫌な気はしなかった。多分、このぬいぐるみ取れたことで俺は満足してしまったからだ。
冬城に言われる嫌味も半減している気がする。
俺は、サカバンバスピスのぬいぐるみの頬擦りして顔を埋めていた。匂いはなんか、新品っぽい匂いだった。
「てか、それそのまま持って帰るんですよね。恥ずかしくないですか? 電車の中とか」
「じゃあ、電車の中だけお前が持ってよ」
「嫌ですよ。俺アホじゃないですし」
「それだと、アホが持ってるみたいじゃん………………俺アホじゃないし!!」
「気づくのが遅すぎます」
一度冬城のペースに乗せられてしまえば、俺はコロコロと坂道を転がっていくように冬城に転がされる。
ゲームでも勝てなければ、口でも勝てない。
あと、体育のときの走っているときのフォームもきれいだったから、こいつはスポーツもできそうだ。おまけに顔もよくて。俺が勝てるものなんて一つもないだろう。
相変わらず、ニヤニヤ、ニマニマ憎たらしい顔で俺を見てくるので、一度くらいやり返せないものかと俺は考える。
そこで一つの案がひらめいた。
俺はサカバンバスピスぬいぐるみの口に思いっきり口を押し付ける。そして、その口づけたぬいぐるみの口を、スマホを下ろしたタイミングで冬城の口に押し付けてやった。
「はーい、間接キス」
「――とっれたああ~!」
「まあ、三千円持ってかれましたけどね」
「いいだんよ! 獲れたから! 俺、初めてかも。クレーンゲームででっかいぬいぐるみ獲ったの。てか、コツとかあるんだな!」
「そりゃ、何にも攻略法ぐらいありますよ。先輩だって、男をひっかける方法よく知ってるでしょ? あれと同じですよ」
「ちょくちょく、俺のそれに突っ込んでくるよな。今度言ったら怒るっていっただろ」
「……ビッチ先輩からビッチとったら、ただの先輩になっちゃうので」
「いーの、先輩だし。先輩だけで」
今日のゲームはクレーンゲームだった。どちらが先に、指定したクレーンゲームで景品を取れるか勝負した。
交互にやっていくのだが、冬城は二回目で取ってしまい、俺はまたも完敗。
クレーンゲームも強いって、俺はいったいいつになったらこの男に勝てるのだろうか。本当に月に二千円……バスは定期外のところだから往復で五百円ほど。冬城にお金を搾り取られる未来がもうはっきりと見えている。
その後、新たに入荷したというビッグサイズのぬいぐるみが入っているクレーンゲームを見に行くことになった。その途中で、店長の季無さんが出てきて、若い子に人気のぬいぐるみを入れたら集客できるかも、との戦略らしい。
俺たちが対戦したクレーンゲームより一回り大きなサイズのクレーンゲームの中には、のっぺりとした顔をした魚のような何かが一体転がっていた。最近よく見るサカバンバスピスだ。俺はそれに一目惚れをし、百円をつぎ込んだ。しかし、五百円つぎ込んでもとれず途中に冬城に「五百円玉入れれば、六回ゲームできますよ」と五百円目を投入したときに言われ損した気分になった。
それから、千円、二千円と溶けていき、三千円目でやっと取れた。二千円くらいから冬城がアドバイスをしてくれるようになり、その通りにやったら、なんとなく、自分の思う位置にサカバンバスピスが落ちるようになった。とはいえ、アームがあまりにも緩い。
「あーなんか似合いますね。サカバンバスピスと先輩。アホっぽい顔が特に」
「はあ!? アホっぽいってなんだ。かわいいって言え! 俺は、かわいいだろうが!」
「アホかわいです。これでいいですか?」
「よくないけど、許す!」
「単純でいいですね」
冬城は呆れるようにそういったが、あの黒マスクをしていないためか、彼の顔はよく見えた。
三千円をつぎ込んで取れた九十センチ大のサカバンバスピスのぬいぐるみはそれはいい肌触りで、俺は思わずぎゅっと抱きしめてしまった。だが、次の瞬間パシャリという音が聴こえ、俺は眉間にしわを寄せることとなる。
「何撮ってんだよ」
「いや、アホかわいくて」
「それいえば、許してもらえると思ってんじゃないだろうな」
まだあの写真も消してもらっていないというのに、俺の恥ずかしい写真が量産されていく。
「消せ」と言えば「消しません」というまでがセット。さらには、冬城は「負けるたび、ビッチ先輩の恥ずかしい写真が増えていくんで」と新たなルールまで設ける始末。
でも、嫌な気はしなかった。多分、このぬいぐるみ取れたことで俺は満足してしまったからだ。
冬城に言われる嫌味も半減している気がする。
俺は、サカバンバスピスのぬいぐるみの頬擦りして顔を埋めていた。匂いはなんか、新品っぽい匂いだった。
「てか、それそのまま持って帰るんですよね。恥ずかしくないですか? 電車の中とか」
「じゃあ、電車の中だけお前が持ってよ」
「嫌ですよ。俺アホじゃないですし」
「それだと、アホが持ってるみたいじゃん………………俺アホじゃないし!!」
「気づくのが遅すぎます」
一度冬城のペースに乗せられてしまえば、俺はコロコロと坂道を転がっていくように冬城に転がされる。
ゲームでも勝てなければ、口でも勝てない。
あと、体育のときの走っているときのフォームもきれいだったから、こいつはスポーツもできそうだ。おまけに顔もよくて。俺が勝てるものなんて一つもないだろう。
相変わらず、ニヤニヤ、ニマニマ憎たらしい顔で俺を見てくるので、一度くらいやり返せないものかと俺は考える。
そこで一つの案がひらめいた。
俺はサカバンバスピスぬいぐるみの口に思いっきり口を押し付ける。そして、その口づけたぬいぐるみの口を、スマホを下ろしたタイミングで冬城の口に押し付けてやった。
「はーい、間接キス」



