◇◇◇
「ふぁあ……」
「小春、眠たそうだな。また夜遅くまでゲームしてたのか?」
「小春~今日小ストだぞ。大丈夫か?」
「んー大丈夫、大丈夫。あれ、んーあの暗記テストだから大丈夫」
次の日、十分な睡眠がとれないまま学校に行くと、仲のいいクラスメイトが俺を取り囲むように話してきた。
どうやら話題は二時間目の小テストで盛り上がっており、教室の中でも範囲を確認しあっているクラスメイトの姿がちらほらと見えた。ちなみに小テストを落とすと追試をさせられる。それが嫌だからみんな必死になってるんだ。
(別に、赤点じゃなきゃいいじゃん……)
俺のテストの点数は平均よりちょっと上。中の上。
暗記系は得意だし、範囲さえわかれば記憶の引き出しから引っ張り出してくるだけだし楽勝だった。それよりも眠たいという気持ちが勝って、クラスメイトの話があまり頭に入ってこない。
「小春ー聞いてんのかー」
「聞いてる、聞いてる。あの先生のテスト、だいたい授業で言ってたところでるし、二問ぐらいマニアックなところ出ると思う……じゃあ、おやすみ」
「お、おう。おやすみ」
俺が机に突っ伏すと、気を利かせたクラスメイトが「行こうぜ」と言って俺の周りから離れていった。
俺はクラスでも仲がいいやつが多いほうだと思う。そういうのをまとめて友だちっていうんだろうけど、俺には友だちだなあと思うやつがいない。皆それなりに仲が良くて、たまに帰りにカラオケに行ったりするけど、そいつらは俺抜きでカラオケに行ったりする。ようは俺は数合わせ。いたら楽しいけど、いなくてもメンバーで楽しめるみたいな。
(そ……俺は別に、必要じゃないんだよ。あいつらにとっては)
窓側の席に一人。でも、みんな近くを通ると挨拶してくれる。
誰かが換気のためか、暑いからか、開けっ放しにした窓から入ってくる風が少し冷たい。半透明のカーテンが波打つように揺れて、俺の頭の上を通っていく。そのせいで集中して眠れなかった。
先ほどHRを終えたところで、一時間目まであと十分ある。その十分寝ようと思っていたのだが、カーテンが気になって眠れない。
そもそも、昨日家に帰ったのが九時前で、そこからご飯食べて、風呂入って、課題して寝て……朝は六時起きだったから、四時間睡眠くらいだった。まあ、寝る前に漫画を一気読みしたのがダメだったとは思ってるけど。
俺は、朝の鬱陶しい太陽に文句を言うために顔を上げると、窓の外――ちょうど運動場が見え、消えかけの白線トラックを走っている一年生の姿が見えた。俺の通っている高校の体操服は学年によって色が違う。俺たちは赤、一つ下は青。だから、一年生。
俺は何気なく、窓に肘をかけ外を見て見ることにした。
すると、黒マスクを着けたまま走っている憎たらしいあいつを見つけてしまったのだ。
(あいつ、何でマスクしながら走ってんだよ。コロナ渦でもあるまいし)
ちょっと前までは、体育なのにマスクをつけてさせられたけどそんなこともうとっくの昔に過ぎ去ったことだ。たまに、クラスでも「コロナで休んでましたー」って聞くけど、去年と今年、学級閉鎖になったクラスはどこもない。
マスクをしたまま走るなんて変なやつ、と眺めていると最初のウォーミングアップが終わったのか、冬城は一人で体操を始めた。その様子を、近くの女子がちらちらとみて、小声で何か話しているようだ。ここからでは聞こえない。
(やっぱ、モテ男は違うなー)
入学式のその日に告白されるだけの容姿はしている。俺だって、三階からすぐに見つけられるくらいには、あいつの容姿は特別だと思う。
しかし、そんな目立つ冬城に話しかけようとする男子は誰もいなかった。皆輪になったり、二組だったり、多いところだと五人とかだったりするのに、誰も冬城を誘おうなんていうそぶりを見せるやつはいなかった。
モテるからハブられているのかと思ったが、体育教師がやってきた後も、後ろのほうでポツーンと一人立ち尽くしたままだった。それは、まるでボッチの陰キャみたいに――
(あいつが陰キャ? いやいや、あんな生意気でよくしゃべるようなやつが?)
告白もされるようなモテ男が?
なんか意外だった。昨日の今日で印象ががらりと変わった気がした。
連絡先も教えてくれないような生意気全開の後輩なのに、学校では体育なのに黒マスク着用のボッチなんて誰が信じられるだろうか。
今日、放課後あったら弄ってやろうかと考えたが「先輩、俺のこと見すぎじゃないですか~?」と言われる未来が容易に想像ついたのでやめた。
(でも、ほんと意外だな……)
人をからかえるだけのセンスというか、トーク力もあるのに、学校ではボッチなんて。自ら選んだのか、それとも入学式の日に告白されたのが広がって気まずくなっているのか。一年生なんてまだ関りが全然ないし、もしかしたら今後も関わらないかもしれないからよくわからない。特に、帰宅部である俺は、上とも下とも関わる機会がない。
一時間目を告げるチャイムの音が響く。ガラガラと教室の前扉があき先生が入ってくる。一時間目は国語。
俺は、机の中に手を突っ込んで教科書を探した。
「あ……忘れた……」
夜更かしは良くない。俺は、他の教科書をそれっぽく机の上において、全く違う教科をメモしているノートを開き、一時間目をやり過ごすことにした。
「ふぁあ……」
「小春、眠たそうだな。また夜遅くまでゲームしてたのか?」
「小春~今日小ストだぞ。大丈夫か?」
「んー大丈夫、大丈夫。あれ、んーあの暗記テストだから大丈夫」
次の日、十分な睡眠がとれないまま学校に行くと、仲のいいクラスメイトが俺を取り囲むように話してきた。
どうやら話題は二時間目の小テストで盛り上がっており、教室の中でも範囲を確認しあっているクラスメイトの姿がちらほらと見えた。ちなみに小テストを落とすと追試をさせられる。それが嫌だからみんな必死になってるんだ。
(別に、赤点じゃなきゃいいじゃん……)
俺のテストの点数は平均よりちょっと上。中の上。
暗記系は得意だし、範囲さえわかれば記憶の引き出しから引っ張り出してくるだけだし楽勝だった。それよりも眠たいという気持ちが勝って、クラスメイトの話があまり頭に入ってこない。
「小春ー聞いてんのかー」
「聞いてる、聞いてる。あの先生のテスト、だいたい授業で言ってたところでるし、二問ぐらいマニアックなところ出ると思う……じゃあ、おやすみ」
「お、おう。おやすみ」
俺が机に突っ伏すと、気を利かせたクラスメイトが「行こうぜ」と言って俺の周りから離れていった。
俺はクラスでも仲がいいやつが多いほうだと思う。そういうのをまとめて友だちっていうんだろうけど、俺には友だちだなあと思うやつがいない。皆それなりに仲が良くて、たまに帰りにカラオケに行ったりするけど、そいつらは俺抜きでカラオケに行ったりする。ようは俺は数合わせ。いたら楽しいけど、いなくてもメンバーで楽しめるみたいな。
(そ……俺は別に、必要じゃないんだよ。あいつらにとっては)
窓側の席に一人。でも、みんな近くを通ると挨拶してくれる。
誰かが換気のためか、暑いからか、開けっ放しにした窓から入ってくる風が少し冷たい。半透明のカーテンが波打つように揺れて、俺の頭の上を通っていく。そのせいで集中して眠れなかった。
先ほどHRを終えたところで、一時間目まであと十分ある。その十分寝ようと思っていたのだが、カーテンが気になって眠れない。
そもそも、昨日家に帰ったのが九時前で、そこからご飯食べて、風呂入って、課題して寝て……朝は六時起きだったから、四時間睡眠くらいだった。まあ、寝る前に漫画を一気読みしたのがダメだったとは思ってるけど。
俺は、朝の鬱陶しい太陽に文句を言うために顔を上げると、窓の外――ちょうど運動場が見え、消えかけの白線トラックを走っている一年生の姿が見えた。俺の通っている高校の体操服は学年によって色が違う。俺たちは赤、一つ下は青。だから、一年生。
俺は何気なく、窓に肘をかけ外を見て見ることにした。
すると、黒マスクを着けたまま走っている憎たらしいあいつを見つけてしまったのだ。
(あいつ、何でマスクしながら走ってんだよ。コロナ渦でもあるまいし)
ちょっと前までは、体育なのにマスクをつけてさせられたけどそんなこともうとっくの昔に過ぎ去ったことだ。たまに、クラスでも「コロナで休んでましたー」って聞くけど、去年と今年、学級閉鎖になったクラスはどこもない。
マスクをしたまま走るなんて変なやつ、と眺めていると最初のウォーミングアップが終わったのか、冬城は一人で体操を始めた。その様子を、近くの女子がちらちらとみて、小声で何か話しているようだ。ここからでは聞こえない。
(やっぱ、モテ男は違うなー)
入学式のその日に告白されるだけの容姿はしている。俺だって、三階からすぐに見つけられるくらいには、あいつの容姿は特別だと思う。
しかし、そんな目立つ冬城に話しかけようとする男子は誰もいなかった。皆輪になったり、二組だったり、多いところだと五人とかだったりするのに、誰も冬城を誘おうなんていうそぶりを見せるやつはいなかった。
モテるからハブられているのかと思ったが、体育教師がやってきた後も、後ろのほうでポツーンと一人立ち尽くしたままだった。それは、まるでボッチの陰キャみたいに――
(あいつが陰キャ? いやいや、あんな生意気でよくしゃべるようなやつが?)
告白もされるようなモテ男が?
なんか意外だった。昨日の今日で印象ががらりと変わった気がした。
連絡先も教えてくれないような生意気全開の後輩なのに、学校では体育なのに黒マスク着用のボッチなんて誰が信じられるだろうか。
今日、放課後あったら弄ってやろうかと考えたが「先輩、俺のこと見すぎじゃないですか~?」と言われる未来が容易に想像ついたのでやめた。
(でも、ほんと意外だな……)
人をからかえるだけのセンスというか、トーク力もあるのに、学校ではボッチなんて。自ら選んだのか、それとも入学式の日に告白されたのが広がって気まずくなっているのか。一年生なんてまだ関りが全然ないし、もしかしたら今後も関わらないかもしれないからよくわからない。特に、帰宅部である俺は、上とも下とも関わる機会がない。
一時間目を告げるチャイムの音が響く。ガラガラと教室の前扉があき先生が入ってくる。一時間目は国語。
俺は、机の中に手を突っ込んで教科書を探した。
「あ……忘れた……」
夜更かしは良くない。俺は、他の教科書をそれっぽく机の上において、全く違う教科をメモしているノートを開き、一時間目をやり過ごすことにした。



