「雨ですね」
「うっ……うぅう」
泣かないでくださいよ、とツッコミが入り、俺は駅の中でグッとこぶしを握り込んだ。
夏休みに入って一週間が経った。今日は七月の終わり。
昨日までは晴れていて、クラスのやつと祭りにいった。そして今日は最終日で花火が上がる日だったのだが、急なゲリラ豪雨に見舞われ、駅の中にはいそいそと人々が駆け込んでくる。パシャパシャ跳ねる水たまりの音よりも、雨が地面に打ち付ける音のほうがよっぽどうるさかった。
二人で最寄りの駅で待ち合わせをしたのだが、顔を合わせて早々に降られてしまった。これでは、祭りの花火も中止だろう。せめて、昨日だったらよかったのにと何度呪ったか分からない。
駅の中にはすぐにも人でいっぱいになり、雨のにおいが立ち込める。
隣で冬城はスマホを確認し「しばらくは降りますね」といつもより暗いトーンで言うと、スマホの電源を落とした。
「どうします? 先輩」
「……どうって、この中で祭り楽しむ気分じゃないし。けど、お前とせっかく来たのに帰るとか、いや、だし」
雨でも楽しめるスポットに今からでも行くか。でも、今からいったとしても俺たちと同じことを思っている人でそのスポットはあふれかえっていそうだ。
大人しく帰って、家でゲームをするとかそれしかないだろう。
せっかく楽しみにしていたというのに、俺は運がない。
俺も一応天気予報を確認するか、とスマホを出すと、彼の男らしい血管の浮き出た長い指が俺の手に触れる。
「……っと、危ない。な、なに、冬城、なに?」
「いえ……俺と祭りを楽しみたかったって思ってくれてありがとうございます」
「別に、そりゃ、そうだろ。でも、これじゃ……」
冬城まで眉を下げなくてもいいじゃないか。よりいっそ、悲壮感が漂い、お通夜モードになってしまう。
冬城が触れたところが暑くて、ぬめぬめと汗で濡れた手はうっかりスマホを落としてしまいそうだ。
目の前は真っ白になっていて、雨に濡れた人たちがさらに駅の中に駆け込んでくる。雨宿りができるような駅でもないため、皆改札を通ったらすぐにホームへと走っていく。そんな不規則な光景が目の前に広がっていた。
雨の匂いは一層増し、近くで雷の音も聞こえる。「光った!」と子どもの声が聴こえたかと思えば、遠くのほうで、ゴロゴロと唸るような音が聞こえる。
(今日、告白するって決めてきたのに……)
雨じゃ、その気にもなれない。
俺はなんて運がないのだろうか。これまでの行いが悪いとでも言いたげに、雨はまた激しさを増していく。
そう思っていると、冬城が、ツンツンと俺の手を指でつついた。
「あの、先輩。俺の家、来ます?」
「……え、お前、嫌だって言ってたじゃん。そんな、俺の家でもいいって」
「そうなんですけど。見せたいものあって……というか、この駅からだったら俺の家が近いじゃないですか。俺は、今すぐに先輩と二人きりになりたいです」
ダメですか? と冬城は不安げに聞いてきた。いや、これも冬城の作戦かもしれないけど。
俺は、そんなふうに聞いてきた冬城にズキュンと胸を打たれ「い、いーよ」と消え入るように答えた。
祭りに二人で行くだけでもデートみたいだったのに、冬城の家に行くことになるなんて思ってもいなかった。
俺は、湿気か汗かで濡れた前髪をちょいちょいと弄り、スマホをぎゅっと握りしめた。



