夕時ということもあって、コンビニにはかなり人が入っていた。
弁当のコーナーにはいつもより少し多めにお弁当が置いてあり、ホッとスナックも品ぞろえがいつもより多いように感じた。いつも、いつ置いているんだ? と思う値札だけのところにしっかり品物が置いてあるのは初めて見た気がした。
いらっしゃいませーという暇もないくらい忙しいレジを横目に、俺たちはカゴを持って店内を回る。
「冬城ってなんかコンビニ行かなそうな顔してるよな」
「何ですかそれ。ビッチ先輩失礼ですよ。俺だってコンビニくらい行きます」
冬城は、少しむきになって返すと、ミントのタブレットを俺の下げているカゴの中に入れた。相変わらず、それが好きだなと思いながら俺は冷凍食品のコーナーを見る。最近のコンビニ冷凍食品は美味しい。俺のお気に入りだ。
そこから、弁当のコーナーに行くと、レジに並んでいる人の列とぶつかってしまった。そのため迂回するかと弁当を見ると、黄色に赤の文字が書かれたシールが目に入った。
「冬城、半額!!」
「俺が半額みたいに言わないでくださいよ。というか、恥かしいです。声、おっきいですよ。先輩」
冬城はあたりを見渡したのち、大きなため息をついた。俺は、そんな冬城に構うことなくカゴの中に商品を入れる。半額シールが張られていたのはナポリタンだ。確か冷蔵庫に粉チーズがあったから、一緒にかけて食べると美味しいだろう。
いい買い物ができそうだな、とルンルンと俺は迂回ルートを進みジュースを選ぶ。その間に、列をかき分けてホッとスナックを取って戻ってきた冬城が俺のカゴの中に入れる。
「会計別だからな」
「一緒でいいじゃないですか。後から払いますし、それにめんどくさいですよ?」
「お、俺がめんどくさい?」
「ああ、違くて。いや、先輩もめんどくさいですけど」
「ひっど……冬城嫌いだ」
「…………すぐ、人のこと嫌いって言わないでください」
シュン、と犬が耳を下げるように落ち込んだので、俺は慌てて訂正する。
黒マスクを外しているために顔全体が見えて、悲しみの感情が前面に押し出されるため俺も良心が痛む。マスクは外したほうがかっこいいって言ったけどさ、こういう人込みこそマスクをするべきなんじゃないかと思う。俺はしないけど。
冬城が、俺のカゴの取っ手を半分握ったので、その場を離れようと思ってもできなくなった。ちっちゃい子どもが角から出てきて、俺たちを見てかまた過度に引っ込んでいく。並んでいる人たちが俺たちのほうを見ているわけじゃないが、これだと喧嘩しているように見えるんじゃないか。
何で冬城はまたむきになって俺に突っかかってきているのだろうか。ただ、カゴから手を放してくれそうにないので俺は冬城のほうを見る。怒っているような、悲しいような顔にもみえるのでどっちかよくわからない。
「嫌い……じゃないけど。お前のそういう性格嫌い。お前は嫌いじゃない」
「じゃあ、好きですか?」
「へ?」
唐突な質問に、俺はカゴをからパッと手を放してしまう。その瞬間、カゴが大きく傾き、中に入っていたものが一斉に斜めに落ちていく。冬城はカゴの取っ手を二つ持って中身が落ちるまえに受け止めてくれたものの、中身を直す様子はなかった。冬城が入れたほうじ茶ラテが斜めを向いたままだ。俺のナポリタンだって、器の端に寄ってしまっている。
「す、好き……好きってどういう」
「俺は、好きです」
大きく一歩を踏み出し、冬城は俺に顔を近づけてきた。
キスされるんじゃないかと一瞬思ったが、こいつのことだから、揶揄おうとしているんじゃないかと頭をよぎる。
嫌いじゃないけど、好きって……好きってどういう『好き』として聞いているのだろうか。
「冬城、近い。てか、もういいの? 会計、並んでるし。並んでいい?」
「……いいですよ」
「あーそう……?」
冬城はふいっと顔を逸らし、並んでいる列に向き直った。
てっきり、俺に答えを求めてくるものとばかり思ったから、意外とあっさり引き下がって拍子抜けしている。
だが、先ほど真剣な顔で「好き」と言われてしまったため、勘違いした俺の身体は沸騰するくらい熱くなっている。冬城の顔なんて見えなくて、ずっとうつむいたままだ。頬の上あたりが熱い。
列が進むごとに「先輩」と呼ばれ、俺は冬城の後ろを子どものようについていく。
(調子狂う……)
家に来る? って言ったら、来るっていったし。あっちからご飯一緒に食べようとか言ってきたし。あと、俺こと好きって言ったし。
ずっと冬城に振り回されてばかりだ。
列が進すみ、冬城はカウンターにカゴを乗せる。疲れ切った顔の店員が温めます? と聞いてきたので、俺は首を横に振る。
持ってきたエコバックを取り出して、店員が会計を済ませたものからバックに入れていく。そして、すべて会計を済ませると冬城が黒い財布を出した。
「あ、待って冬城。俺、クーポンある」
「なんか先輩、貧乏っぽいですね」
「うっさい。節約家とかいえ。あと、こういうの使わなきゃ損なんだよ!」
俺は、冬城の横からスッとコンビニの割引券を出し、五十円引きしてもらった。
いつもよりちょっと高い買い物をした気分になり、俺たちは自動ドアの前で一度立ち止まり、開いた瞬間同じ足を踏み出した。
弁当のコーナーにはいつもより少し多めにお弁当が置いてあり、ホッとスナックも品ぞろえがいつもより多いように感じた。いつも、いつ置いているんだ? と思う値札だけのところにしっかり品物が置いてあるのは初めて見た気がした。
いらっしゃいませーという暇もないくらい忙しいレジを横目に、俺たちはカゴを持って店内を回る。
「冬城ってなんかコンビニ行かなそうな顔してるよな」
「何ですかそれ。ビッチ先輩失礼ですよ。俺だってコンビニくらい行きます」
冬城は、少しむきになって返すと、ミントのタブレットを俺の下げているカゴの中に入れた。相変わらず、それが好きだなと思いながら俺は冷凍食品のコーナーを見る。最近のコンビニ冷凍食品は美味しい。俺のお気に入りだ。
そこから、弁当のコーナーに行くと、レジに並んでいる人の列とぶつかってしまった。そのため迂回するかと弁当を見ると、黄色に赤の文字が書かれたシールが目に入った。
「冬城、半額!!」
「俺が半額みたいに言わないでくださいよ。というか、恥かしいです。声、おっきいですよ。先輩」
冬城はあたりを見渡したのち、大きなため息をついた。俺は、そんな冬城に構うことなくカゴの中に商品を入れる。半額シールが張られていたのはナポリタンだ。確か冷蔵庫に粉チーズがあったから、一緒にかけて食べると美味しいだろう。
いい買い物ができそうだな、とルンルンと俺は迂回ルートを進みジュースを選ぶ。その間に、列をかき分けてホッとスナックを取って戻ってきた冬城が俺のカゴの中に入れる。
「会計別だからな」
「一緒でいいじゃないですか。後から払いますし、それにめんどくさいですよ?」
「お、俺がめんどくさい?」
「ああ、違くて。いや、先輩もめんどくさいですけど」
「ひっど……冬城嫌いだ」
「…………すぐ、人のこと嫌いって言わないでください」
シュン、と犬が耳を下げるように落ち込んだので、俺は慌てて訂正する。
黒マスクを外しているために顔全体が見えて、悲しみの感情が前面に押し出されるため俺も良心が痛む。マスクは外したほうがかっこいいって言ったけどさ、こういう人込みこそマスクをするべきなんじゃないかと思う。俺はしないけど。
冬城が、俺のカゴの取っ手を半分握ったので、その場を離れようと思ってもできなくなった。ちっちゃい子どもが角から出てきて、俺たちを見てかまた過度に引っ込んでいく。並んでいる人たちが俺たちのほうを見ているわけじゃないが、これだと喧嘩しているように見えるんじゃないか。
何で冬城はまたむきになって俺に突っかかってきているのだろうか。ただ、カゴから手を放してくれそうにないので俺は冬城のほうを見る。怒っているような、悲しいような顔にもみえるのでどっちかよくわからない。
「嫌い……じゃないけど。お前のそういう性格嫌い。お前は嫌いじゃない」
「じゃあ、好きですか?」
「へ?」
唐突な質問に、俺はカゴをからパッと手を放してしまう。その瞬間、カゴが大きく傾き、中に入っていたものが一斉に斜めに落ちていく。冬城はカゴの取っ手を二つ持って中身が落ちるまえに受け止めてくれたものの、中身を直す様子はなかった。冬城が入れたほうじ茶ラテが斜めを向いたままだ。俺のナポリタンだって、器の端に寄ってしまっている。
「す、好き……好きってどういう」
「俺は、好きです」
大きく一歩を踏み出し、冬城は俺に顔を近づけてきた。
キスされるんじゃないかと一瞬思ったが、こいつのことだから、揶揄おうとしているんじゃないかと頭をよぎる。
嫌いじゃないけど、好きって……好きってどういう『好き』として聞いているのだろうか。
「冬城、近い。てか、もういいの? 会計、並んでるし。並んでいい?」
「……いいですよ」
「あーそう……?」
冬城はふいっと顔を逸らし、並んでいる列に向き直った。
てっきり、俺に答えを求めてくるものとばかり思ったから、意外とあっさり引き下がって拍子抜けしている。
だが、先ほど真剣な顔で「好き」と言われてしまったため、勘違いした俺の身体は沸騰するくらい熱くなっている。冬城の顔なんて見えなくて、ずっとうつむいたままだ。頬の上あたりが熱い。
列が進むごとに「先輩」と呼ばれ、俺は冬城の後ろを子どものようについていく。
(調子狂う……)
家に来る? って言ったら、来るっていったし。あっちからご飯一緒に食べようとか言ってきたし。あと、俺こと好きって言ったし。
ずっと冬城に振り回されてばかりだ。
列が進すみ、冬城はカウンターにカゴを乗せる。疲れ切った顔の店員が温めます? と聞いてきたので、俺は首を横に振る。
持ってきたエコバックを取り出して、店員が会計を済ませたものからバックに入れていく。そして、すべて会計を済ませると冬城が黒い財布を出した。
「あ、待って冬城。俺、クーポンある」
「なんか先輩、貧乏っぽいですね」
「うっさい。節約家とかいえ。あと、こういうの使わなきゃ損なんだよ!」
俺は、冬城の横からスッとコンビニの割引券を出し、五十円引きしてもらった。
いつもよりちょっと高い買い物をした気分になり、俺たちは自動ドアの前で一度立ち止まり、開いた瞬間同じ足を踏み出した。



