「――なあ? 何でお前、これも強いの?」
「先輩が弱いだけじゃなくて?」
「クソォ……ほんと、お前、嫌い」
「俺は結構、先輩のこと好きですよ。弄りがいがあるんで」
「聞きたくねぇ……お前、それ好きじゃなくて、面白いだろ。もうやだ、やめる」
子どもですねーなんて横から聞こえたが、俺はリビングの少し柔らかいマットの上に寝転がった。
なんで俺はいつも負けるのだろうか。
対戦したゲームはチャンバラとか、ピンポンとか誰にでもできそうなゲーム。本当は十二種類あるが、ヌンチャクと呼ばれる付属品がなぜか一つしかなかったため、それを使わずできるゲームで何試かした。しかし、どのゲームでも冬城に勝つことはできず完敗。それも、あとちょっとで勝てるとかじゃなくて、完膚なきまでに叩きのめされるからズタボロだ。
俺のほうがこのゲームをやっていたはずなのに。ゲームのセンスまでいいってどういうことだろう。
冬城は、倒れ込んだ俺を横目にボーリングを一人でやり始めた。人の家にきて、人の家のゲーム勝手にやるなよ、と注意したかったがその気も起きなかった。
「面白いですね、これ」
「はいはい、よかったよ。気に入ってもらえて……はあーなんか、負けたからお腹空いてきた」
「やけ食いですか? 俺に負けて」
「……近くのコンビニ行くけど、冬城なんかいる? てか、このまま帰る? だったら、俺途中までついてく。あーそっか、さっき買ってこればよかったかも……」
腕からリモコンのタグを外し、近くの机において俺は冷蔵庫の中を漁る。
日はかなり沈んでいるが、終電までは全然余裕があった。冬城はこのまま帰るかもしれないが、俺はコンビニに今日の夜ご飯を買いに行こうと考えていた。
冷蔵庫の中は相変わらず生活感のないスカスカ状態で、ちょっと高級なドレッシングが何本が立っていた。でもそのどれもが減っていなくて、ほぼ新品の状態だ。野菜室にもミニトマトぐらいしかなくて、冷凍庫にやったアイスがいくつかあるくらい。賞味期限を確認したら去年のだったけど問題ないだろう。
「なあ、冬城どうする?」
冷蔵庫がピーピーと音を立て始めたので、俺は上から順に閉めて冬城のほうを見た。冬城はテレビの電源を切ってリモコンを片づけている最中で、ここでも彼の性格がよく出ていた。そのままにしておけばいいのにわざわざ片づけてくれるなんて。
俺は、ようやくこちらを見た冬城に「どーする?」と再度訪ねた。すると冬城は「一緒に食べます?」と珍しい提案をしてきたのだ。
「え!? お前、帰るんじゃねえの?」
「帰ってほしいなら帰りますけど。多分、今日、うちも夜勤なんで」
「へーお母さんだっけ? 何の仕事?」
「ホテルの従業員ですよ。夜勤もあるんです。働いて二年目らしいですけど。うちも家に帰ってくる頻度少なくて」
冬城はそう言いながら立ち上がり、腕を伸ばしてストレッチをしていた。
へーと俺は返しつつも、冬城のことが少し知れてうれしかった。あっちからそんなこと話してくれるとは思っていなかったからだ。
しかも、俺と似ている――
「あと、たまに一人旅いきますし」
「は!? やっぱ、金持ちじゃん。何それ。お前はいかないの?」
「この年で母親と二人きりで旅行はちょっと……まあ、だから春先の家族旅行は一緒に行くって感じで。先輩は?」
伏し目がちにそういった冬城は、俺に質問を投げてきた。
俺は、母親が長期休暇を取れないため旅行に行ったことはない。幼稚園まではちょくちょくあった気がするがあまり覚えていない。
(というか、冬城、一戸建てなんだよな。家、留守にしてていいのか?)
さすがに戸締りはしてあるだろうが、長期間留守にしていたら泥棒が入りそうなものだ。それか、防犯カメラが仕掛けてあるのか。何にしても、冬城が家に帰りたがらないというのが伝わってきた。理由は何故か知らないけど。
ゲームセンターが好きだからという理由であれば、学校から遠いあそこを選ぶ必要はなく、駅前のゲームセンターで事足りる。あっちのほうが、いろいろあるし、レトロなものが好きというこだわりがなければ、駅前のゲームセンターに行くような気もするが。
そう考えると、少し冬城のことが見えたり見えなかったりする。
ただ、一貫して家に帰りたがっていないのだけは分かった。俺も、二人暮らしにしては広いこの家に一人ぼっちは寂しいし、冬城がいてくれたら結構楽しいんだけど。
俺はそのことは口にせず、リュックの中からスマホと財布を取り出してポケットに突っ込んだ。
リビングの電気を消し「じゃあ、一緒にコンビニってことで」と言えば、冬城は俺の後ろをついてくる。
「一応、家に連絡入れておけば。お母さん心配するんじゃね?」
「大丈夫ですよ。いつものことですし」
「あ……っそ。じゃあ、行こ。冬城」
家の電機は全部消した。
真っ暗になったリビングは、先ほど俺たちがゲームしていたとは思えないほど静まり返っている。やっぱり、寂しいな、と俺は部屋の中を見渡し、靴のかかとを踏みながら家の外へ出た。
「先輩が弱いだけじゃなくて?」
「クソォ……ほんと、お前、嫌い」
「俺は結構、先輩のこと好きですよ。弄りがいがあるんで」
「聞きたくねぇ……お前、それ好きじゃなくて、面白いだろ。もうやだ、やめる」
子どもですねーなんて横から聞こえたが、俺はリビングの少し柔らかいマットの上に寝転がった。
なんで俺はいつも負けるのだろうか。
対戦したゲームはチャンバラとか、ピンポンとか誰にでもできそうなゲーム。本当は十二種類あるが、ヌンチャクと呼ばれる付属品がなぜか一つしかなかったため、それを使わずできるゲームで何試かした。しかし、どのゲームでも冬城に勝つことはできず完敗。それも、あとちょっとで勝てるとかじゃなくて、完膚なきまでに叩きのめされるからズタボロだ。
俺のほうがこのゲームをやっていたはずなのに。ゲームのセンスまでいいってどういうことだろう。
冬城は、倒れ込んだ俺を横目にボーリングを一人でやり始めた。人の家にきて、人の家のゲーム勝手にやるなよ、と注意したかったがその気も起きなかった。
「面白いですね、これ」
「はいはい、よかったよ。気に入ってもらえて……はあーなんか、負けたからお腹空いてきた」
「やけ食いですか? 俺に負けて」
「……近くのコンビニ行くけど、冬城なんかいる? てか、このまま帰る? だったら、俺途中までついてく。あーそっか、さっき買ってこればよかったかも……」
腕からリモコンのタグを外し、近くの机において俺は冷蔵庫の中を漁る。
日はかなり沈んでいるが、終電までは全然余裕があった。冬城はこのまま帰るかもしれないが、俺はコンビニに今日の夜ご飯を買いに行こうと考えていた。
冷蔵庫の中は相変わらず生活感のないスカスカ状態で、ちょっと高級なドレッシングが何本が立っていた。でもそのどれもが減っていなくて、ほぼ新品の状態だ。野菜室にもミニトマトぐらいしかなくて、冷凍庫にやったアイスがいくつかあるくらい。賞味期限を確認したら去年のだったけど問題ないだろう。
「なあ、冬城どうする?」
冷蔵庫がピーピーと音を立て始めたので、俺は上から順に閉めて冬城のほうを見た。冬城はテレビの電源を切ってリモコンを片づけている最中で、ここでも彼の性格がよく出ていた。そのままにしておけばいいのにわざわざ片づけてくれるなんて。
俺は、ようやくこちらを見た冬城に「どーする?」と再度訪ねた。すると冬城は「一緒に食べます?」と珍しい提案をしてきたのだ。
「え!? お前、帰るんじゃねえの?」
「帰ってほしいなら帰りますけど。多分、今日、うちも夜勤なんで」
「へーお母さんだっけ? 何の仕事?」
「ホテルの従業員ですよ。夜勤もあるんです。働いて二年目らしいですけど。うちも家に帰ってくる頻度少なくて」
冬城はそう言いながら立ち上がり、腕を伸ばしてストレッチをしていた。
へーと俺は返しつつも、冬城のことが少し知れてうれしかった。あっちからそんなこと話してくれるとは思っていなかったからだ。
しかも、俺と似ている――
「あと、たまに一人旅いきますし」
「は!? やっぱ、金持ちじゃん。何それ。お前はいかないの?」
「この年で母親と二人きりで旅行はちょっと……まあ、だから春先の家族旅行は一緒に行くって感じで。先輩は?」
伏し目がちにそういった冬城は、俺に質問を投げてきた。
俺は、母親が長期休暇を取れないため旅行に行ったことはない。幼稚園まではちょくちょくあった気がするがあまり覚えていない。
(というか、冬城、一戸建てなんだよな。家、留守にしてていいのか?)
さすがに戸締りはしてあるだろうが、長期間留守にしていたら泥棒が入りそうなものだ。それか、防犯カメラが仕掛けてあるのか。何にしても、冬城が家に帰りたがらないというのが伝わってきた。理由は何故か知らないけど。
ゲームセンターが好きだからという理由であれば、学校から遠いあそこを選ぶ必要はなく、駅前のゲームセンターで事足りる。あっちのほうが、いろいろあるし、レトロなものが好きというこだわりがなければ、駅前のゲームセンターに行くような気もするが。
そう考えると、少し冬城のことが見えたり見えなかったりする。
ただ、一貫して家に帰りたがっていないのだけは分かった。俺も、二人暮らしにしては広いこの家に一人ぼっちは寂しいし、冬城がいてくれたら結構楽しいんだけど。
俺はそのことは口にせず、リュックの中からスマホと財布を取り出してポケットに突っ込んだ。
リビングの電気を消し「じゃあ、一緒にコンビニってことで」と言えば、冬城は俺の後ろをついてくる。
「一応、家に連絡入れておけば。お母さん心配するんじゃね?」
「大丈夫ですよ。いつものことですし」
「あ……っそ。じゃあ、行こ。冬城」
家の電機は全部消した。
真っ暗になったリビングは、先ほど俺たちがゲームしていたとは思えないほど静まり返っている。やっぱり、寂しいな、と俺は部屋の中を見渡し、靴のかかとを踏みながら家の外へ出た。



