物々交換? と首をかしげている冬城に対し、俺は言うよりも見せるほうが早いと思って、拙い箸遣いで唐揚げを持ち上げる。割りばしにはギトギトの油がついてあまりおいしそうじゃない唐揚げを冬城の弁同箱に投げ入れた。
「はい、俺。唐揚げあげた。だから、冬城は俺に卵焼き頂戴」
「物々交換って……勝手にビッチ先輩が俺のほうに唐揚げ投げただけじゃないっすか」
「うるさーい! つべこべ言うな。どうせ、俺にあげるつもりだったんだろ。じゃあ、もらっても変わんねーの」
冬城は少し引き気味に箸を引っ込めたので、俺は我慢ならずに冬城の卵焼きに食いついた。
あっと、冬城は口を開けたが、俺は卵焼きを食べてついでに冬城の箸もちょっと舐めてしまった。また、嫌がられるかなあと思ったがやってしまったのはしょうがない。俺はちょっと貧乏性なところがあって、箸についたたれとか舐めちゃうタイプの人間だ。
冷めているとはいえ、卵焼きの柔らかさは健在で、いい香りのしていたダシの味もしっかりした。少し塩味が薄いことで、より卵の味が引き立てられ、卵を食べているという感覚になる。咀嚼が止まらない。
飲み込むのがもったいないくらいに味が染みた卵焼きを、名残惜しく飲み込む。それから、また冬城の弁当箱を見た。
しかし、冬城はサッとその弁当箱を俺から遠ざけ、困ったように眉を下げていた。
「あげませんよ」
「ケチ」
「ケチじゃありません。まあ、喜んでくれたなら、今後も一個ぐらいはあげますけど」
「マジ!? やった、冬城やっさしー」
「……単純でいいですね」
冬城は、俺が無理やり弁当箱に入れた唐揚げをつまみ一口で食べた。何とも言えない表情をしながら咀嚼し、冬城の大きな喉仏がごくりと上下する。
何かと言いつつも、冬城は俺に甘い。からかう口は、たまに優しいことを言う。それは、ここ一か月くらいで分かったことだ。
「ビッチ先輩、さっきも聞きましたけどいつもコンビニ弁当なんですか?」
「ん? 菓子パンとかの日もあるけど。あー俺、中学校から弁当組で、でもお母さん忙しいから作ってもらえなくて。朝起きて弁当作るとかできないから、コンビニで買っていつも学校に来てんの」
「ふーん、そうなんですね」
「聞いておいて反応がひどいな。お前……」
まあ、人に興味がないのは俺も同じだから傷つかないけど。
冬城は、黙々と弁当を食べ始めたので俺もいただきますと言って弁当を食べる。いつもは、教室の真ん中あたりで仲のいいクラスメイトと食べるから、二人きりというのは新鮮だ。
誰も人が通らないし、俺たちの間には遠くから聞こえる笑い声が響いてくる程度。何を話しているかなんてわからない。ただ、笑い声っていうのは、我慢しないからよく響く。
コンビニ弁当は温めないとかなり硬くて、油物は脂が固まっていたりする。ご飯なんて割りばしに力を入れてやっと器から剥がせる程度だ。半額のものを買ったからか、どれも硬くて味付けが濃い。かといって、口に入れるとパサパサで飲み込みづらい。
先ほど食べた冬城の卵焼きと違ってこっちの堅焼きの目玉焼きは黄身がぼそぼそだ。食べる速度は格段に落ち、割り箸を噛む勢いで顎を動かしていた。
「何で、俺を昼飯に誘ってくれたんですか?」
「ん?」
箸を舐っていると、俺のほうを見ずに冬城が質問を飛ばしてくる。
冬城はすでに食べ終わったのか、黒い弁当箱を保冷バックの中に戻し、膝の上に置いている。目線が合わないので少し顔を傾けてみれば、視線に気が付いたのか冬城も俺のほうを見る。何ですか? と言いたげな目であったが、さらりと揺れる彼のちょっと眺めな黒い前髪は、冬城のかっこよさを引き立てて、俺はそれ以外何も考えられなくなった。
黙っていたら本当にイケメンだから。
「ほら、別にいつも通り放課後に会えばいいのに。何ですか、寂しくなっちゃったんですか。俺にもっと会いたいって」
「お前って時々自意識過剰なところあるよな……別に。放課後の、ゲームセンターでのお前は知ってるけど、同じ学校なのに学校では会わないなって思って」
「それだけ?」
横を見ると、先ほどよりも距離を縮めてきた冬城の顔がすぐそこにある。少しでも動けば、鼻と鼻がぶつかってしまうような距離。
いきなり距離を詰めすぎじゃないかと思い、俺は弁当をまたひっくり返しそうになった。
「ふっ……ははっ、また真っ赤になった。ビッチ先輩ってチョロいですよね」
「は、はあ!? おま、お前、さっきから、てかずっと俺のことおちょくって!」
「だって、楽しいんですもん。でも、そうですか。それって、放課後だけの関係じゃ物足りないって、無意識にビッチ先輩思ってるんじゃないですか」
冬城はそう言いながら、俺の口の端についた食べかすを拭うと、あろうことかそれを自分の口に持っていった。
ぺろりと少し長い舌が、冬城の形のいい口から覗く。そして、これ見よがしに冬城は見せつけるようにニヤリと笑うと指を拭い取って「先輩ってやっぱりチョロい」なんて言うのだった。
俺の顔は、バカみたいに真っ赤だったに違いない。冬城にとって、今の俺はいい道化だったと思う。
(クソォ~~~~何で、こんなに顔真っ赤になってんだよ。俺!! こんなん、少女漫画でしか見たことねえし!!)
顔の熱は収まってくれず、気を紛らわせるために堅いご飯をかきこんだらむせてしまった。もう踏んだり蹴ったりだ。
「はい、俺。唐揚げあげた。だから、冬城は俺に卵焼き頂戴」
「物々交換って……勝手にビッチ先輩が俺のほうに唐揚げ投げただけじゃないっすか」
「うるさーい! つべこべ言うな。どうせ、俺にあげるつもりだったんだろ。じゃあ、もらっても変わんねーの」
冬城は少し引き気味に箸を引っ込めたので、俺は我慢ならずに冬城の卵焼きに食いついた。
あっと、冬城は口を開けたが、俺は卵焼きを食べてついでに冬城の箸もちょっと舐めてしまった。また、嫌がられるかなあと思ったがやってしまったのはしょうがない。俺はちょっと貧乏性なところがあって、箸についたたれとか舐めちゃうタイプの人間だ。
冷めているとはいえ、卵焼きの柔らかさは健在で、いい香りのしていたダシの味もしっかりした。少し塩味が薄いことで、より卵の味が引き立てられ、卵を食べているという感覚になる。咀嚼が止まらない。
飲み込むのがもったいないくらいに味が染みた卵焼きを、名残惜しく飲み込む。それから、また冬城の弁当箱を見た。
しかし、冬城はサッとその弁当箱を俺から遠ざけ、困ったように眉を下げていた。
「あげませんよ」
「ケチ」
「ケチじゃありません。まあ、喜んでくれたなら、今後も一個ぐらいはあげますけど」
「マジ!? やった、冬城やっさしー」
「……単純でいいですね」
冬城は、俺が無理やり弁当箱に入れた唐揚げをつまみ一口で食べた。何とも言えない表情をしながら咀嚼し、冬城の大きな喉仏がごくりと上下する。
何かと言いつつも、冬城は俺に甘い。からかう口は、たまに優しいことを言う。それは、ここ一か月くらいで分かったことだ。
「ビッチ先輩、さっきも聞きましたけどいつもコンビニ弁当なんですか?」
「ん? 菓子パンとかの日もあるけど。あー俺、中学校から弁当組で、でもお母さん忙しいから作ってもらえなくて。朝起きて弁当作るとかできないから、コンビニで買っていつも学校に来てんの」
「ふーん、そうなんですね」
「聞いておいて反応がひどいな。お前……」
まあ、人に興味がないのは俺も同じだから傷つかないけど。
冬城は、黙々と弁当を食べ始めたので俺もいただきますと言って弁当を食べる。いつもは、教室の真ん中あたりで仲のいいクラスメイトと食べるから、二人きりというのは新鮮だ。
誰も人が通らないし、俺たちの間には遠くから聞こえる笑い声が響いてくる程度。何を話しているかなんてわからない。ただ、笑い声っていうのは、我慢しないからよく響く。
コンビニ弁当は温めないとかなり硬くて、油物は脂が固まっていたりする。ご飯なんて割りばしに力を入れてやっと器から剥がせる程度だ。半額のものを買ったからか、どれも硬くて味付けが濃い。かといって、口に入れるとパサパサで飲み込みづらい。
先ほど食べた冬城の卵焼きと違ってこっちの堅焼きの目玉焼きは黄身がぼそぼそだ。食べる速度は格段に落ち、割り箸を噛む勢いで顎を動かしていた。
「何で、俺を昼飯に誘ってくれたんですか?」
「ん?」
箸を舐っていると、俺のほうを見ずに冬城が質問を飛ばしてくる。
冬城はすでに食べ終わったのか、黒い弁当箱を保冷バックの中に戻し、膝の上に置いている。目線が合わないので少し顔を傾けてみれば、視線に気が付いたのか冬城も俺のほうを見る。何ですか? と言いたげな目であったが、さらりと揺れる彼のちょっと眺めな黒い前髪は、冬城のかっこよさを引き立てて、俺はそれ以外何も考えられなくなった。
黙っていたら本当にイケメンだから。
「ほら、別にいつも通り放課後に会えばいいのに。何ですか、寂しくなっちゃったんですか。俺にもっと会いたいって」
「お前って時々自意識過剰なところあるよな……別に。放課後の、ゲームセンターでのお前は知ってるけど、同じ学校なのに学校では会わないなって思って」
「それだけ?」
横を見ると、先ほどよりも距離を縮めてきた冬城の顔がすぐそこにある。少しでも動けば、鼻と鼻がぶつかってしまうような距離。
いきなり距離を詰めすぎじゃないかと思い、俺は弁当をまたひっくり返しそうになった。
「ふっ……ははっ、また真っ赤になった。ビッチ先輩ってチョロいですよね」
「は、はあ!? おま、お前、さっきから、てかずっと俺のことおちょくって!」
「だって、楽しいんですもん。でも、そうですか。それって、放課後だけの関係じゃ物足りないって、無意識にビッチ先輩思ってるんじゃないですか」
冬城はそう言いながら、俺の口の端についた食べかすを拭うと、あろうことかそれを自分の口に持っていった。
ぺろりと少し長い舌が、冬城の形のいい口から覗く。そして、これ見よがしに冬城は見せつけるようにニヤリと笑うと指を拭い取って「先輩ってやっぱりチョロい」なんて言うのだった。
俺の顔は、バカみたいに真っ赤だったに違いない。冬城にとって、今の俺はいい道化だったと思う。
(クソォ~~~~何で、こんなに顔真っ赤になってんだよ。俺!! こんなん、少女漫画でしか見たことねえし!!)
顔の熱は収まってくれず、気を紛らわせるために堅いご飯をかきこんだらむせてしまった。もう踏んだり蹴ったりだ。



