「小春、恋人でもできた?」
五月の中頃。ちょうどゴールデンウィークが明けて、五月病になるやつが増えてくる季節。ふと仲のいいクラスメイトにそんなことを聞かれた。
唐突な質問に眠気が吹っ飛び、俺はクラスメイト達のほうを見る。そいつらは以前カラオケに誘ってくれたやつで、不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。
ゴールデンウィークは、あのゲームセンターに行かなかった。とはいえ、ゴールデンウィーク中何をしたかと言えば、ゴロゴロしてゲームして、寝て……一回、こいつらと遊びに行った。でも、ゴールデンウィークということもあってかなり混んでいて、十分に楽しめなかったのが記憶に新しい。
そうこうしているうちに、ゴールデンウィークは過ぎて、またいつもの日々に戻った。
(冬城って、ゴールデンウィーク中もあのゲームセンターに通ってた?)
最近また、放課後に二人でゲームセンターにいって、冬城にボコボコにされるを繰り返していたが、あいつの休日の過ごし方については聞かなかったなと思ったのだ。
相変わらず冬城は、ゲームセンターのゲームにだけは強く、古いシューティングゲームから卓球みたいなやつ、円状になったボタンを叩くリズムゲームなどいろいろやったが手も足も出ずに終わった。カーゲームにも挑戦したが、後ろからバナナと甲羅を投げられてコースアウトを繰り返しているうちに、冬城と一回り差をつけられて負けてしまった。あの屈辱は最近の中では一番だった。
俺は、そんなことを思い出しながらクラスメイト達の顔を順にみる。
「ん? 何で?」
「いや、最近小春すぐ帰っちゃうなーって思って。ああ、いや、怒ってるわけじゃなくて。恋人出来たんなら紹介してほしいなーつ思って」
「できてないって。バイト? みたいな? 始めたから。ちょっと時間つくれなくって。土日なら空いてるかも」
バイト? と、クラスメイト達は互いの顔を見合わせた。
ゲームセンターに通うようになってから、店長の季無さんとそれなりに仲が良くなった。
学校で掃除の時間があるように、いつも使っているゲームセンターをきれいにしようと思い立ち、あのきったないモップを持って縦横無尽にゲームセンターの中を駆けまわった。だが、昔誰かが捨てたタバコの跡やひび割れたタイルの修正まではできず、きれいになったとはいいがたい。
それでも、季無さんからは「ありがとうなぁ」と感謝の言葉をかけてもらえて、ちょっと得した気分だった。
(バイト、じゃないな。ボランティア)
でも、ボランティアよりもバイトっていったほうが聴こえがよくてついついそう言ってしまった。
案の定、クラスメイト達は「何のバイト?」と聞いてきたため「清掃業」とだけ答えた。
「へえ、なんか小春っぽくないな。給料いいの?」
「普通? 初バイトだからよくわかんないけどさー。お金じゃなくて満足感?」
「まあ、よく分かんないけど。理由聞けたから納得」
そういうと、クラスメイト達は「トイレ行こうぜ」と連れしょんにいってしまった。
俺はそいつらを見送りながら、窓の外を見る。体育の時間は、中休み中に着替えて走って準備運動を済ませておくのがうちの学校のルールだ。ぼやけた白線トラックの上をぐるぐると青い体操服のやつが走っているのが見えた。その中で、黒マスクの一年生を探そうと思ったが、いない。
今日は冬城休みか? と思っていると、いつものように一人ぽつんとトラックを走る男を見つけた。
(あ、冬城……)
トレードマークだった黒マスクをつけていなくても、そいつの姿をすぐに見つけることができた。
俺が外したほうがいいと言ったから外しているのか、今日は熱いから外しているのか分からなかったが、トラックを数周した後、複数の女子に話しかけられている姿が見えた。
あの黒マスクが、近寄りづらさを演出していたため、四月までは誰もよってこなかったんじゃないだろうか。
(ふーん、やっぱモテんじゃん)
しかし、せっかく話しかけられたというのに、冬城は愛想悪く返し、また一人で体操を始めてしまった。俺だったらそこから会話を広げるのに。冬城はそういうタイプじゃないのだろうか。それとも、鬱陶しかったのだろうか。
そういえば、俺は冬城と一か月ちょっとの付き合いになるが、学校で冬城を一方的に見ても話しかけたことはなかった。学年が違うと関わる機会がないし、どちらも帰宅部なため、部活で関わることもない。
俺はこっそりとスマホを出して、メッセージアプリの上のほうに出てきた夜空のアイコンをタップする。
(こっちから連絡するの癪だけど、なんか、今の関係よくわかんないし。せっかく同じ学校にいるんだから、話してみたいよな)
別に、決して! 俺が、冬城のことが気になるとかじゃなくて。
冬城が放課後ゲームセンターにいるときと、学校にいるときの態度が違うのが気になっただけ。これはそう、冬城柊という男の調査なのだ。
俺はそう割り切って、スマホを両手で持って文字を入力し始めた。
五月の中頃。ちょうどゴールデンウィークが明けて、五月病になるやつが増えてくる季節。ふと仲のいいクラスメイトにそんなことを聞かれた。
唐突な質問に眠気が吹っ飛び、俺はクラスメイト達のほうを見る。そいつらは以前カラオケに誘ってくれたやつで、不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。
ゴールデンウィークは、あのゲームセンターに行かなかった。とはいえ、ゴールデンウィーク中何をしたかと言えば、ゴロゴロしてゲームして、寝て……一回、こいつらと遊びに行った。でも、ゴールデンウィークということもあってかなり混んでいて、十分に楽しめなかったのが記憶に新しい。
そうこうしているうちに、ゴールデンウィークは過ぎて、またいつもの日々に戻った。
(冬城って、ゴールデンウィーク中もあのゲームセンターに通ってた?)
最近また、放課後に二人でゲームセンターにいって、冬城にボコボコにされるを繰り返していたが、あいつの休日の過ごし方については聞かなかったなと思ったのだ。
相変わらず冬城は、ゲームセンターのゲームにだけは強く、古いシューティングゲームから卓球みたいなやつ、円状になったボタンを叩くリズムゲームなどいろいろやったが手も足も出ずに終わった。カーゲームにも挑戦したが、後ろからバナナと甲羅を投げられてコースアウトを繰り返しているうちに、冬城と一回り差をつけられて負けてしまった。あの屈辱は最近の中では一番だった。
俺は、そんなことを思い出しながらクラスメイト達の顔を順にみる。
「ん? 何で?」
「いや、最近小春すぐ帰っちゃうなーって思って。ああ、いや、怒ってるわけじゃなくて。恋人出来たんなら紹介してほしいなーつ思って」
「できてないって。バイト? みたいな? 始めたから。ちょっと時間つくれなくって。土日なら空いてるかも」
バイト? と、クラスメイト達は互いの顔を見合わせた。
ゲームセンターに通うようになってから、店長の季無さんとそれなりに仲が良くなった。
学校で掃除の時間があるように、いつも使っているゲームセンターをきれいにしようと思い立ち、あのきったないモップを持って縦横無尽にゲームセンターの中を駆けまわった。だが、昔誰かが捨てたタバコの跡やひび割れたタイルの修正まではできず、きれいになったとはいいがたい。
それでも、季無さんからは「ありがとうなぁ」と感謝の言葉をかけてもらえて、ちょっと得した気分だった。
(バイト、じゃないな。ボランティア)
でも、ボランティアよりもバイトっていったほうが聴こえがよくてついついそう言ってしまった。
案の定、クラスメイト達は「何のバイト?」と聞いてきたため「清掃業」とだけ答えた。
「へえ、なんか小春っぽくないな。給料いいの?」
「普通? 初バイトだからよくわかんないけどさー。お金じゃなくて満足感?」
「まあ、よく分かんないけど。理由聞けたから納得」
そういうと、クラスメイト達は「トイレ行こうぜ」と連れしょんにいってしまった。
俺はそいつらを見送りながら、窓の外を見る。体育の時間は、中休み中に着替えて走って準備運動を済ませておくのがうちの学校のルールだ。ぼやけた白線トラックの上をぐるぐると青い体操服のやつが走っているのが見えた。その中で、黒マスクの一年生を探そうと思ったが、いない。
今日は冬城休みか? と思っていると、いつものように一人ぽつんとトラックを走る男を見つけた。
(あ、冬城……)
トレードマークだった黒マスクをつけていなくても、そいつの姿をすぐに見つけることができた。
俺が外したほうがいいと言ったから外しているのか、今日は熱いから外しているのか分からなかったが、トラックを数周した後、複数の女子に話しかけられている姿が見えた。
あの黒マスクが、近寄りづらさを演出していたため、四月までは誰もよってこなかったんじゃないだろうか。
(ふーん、やっぱモテんじゃん)
しかし、せっかく話しかけられたというのに、冬城は愛想悪く返し、また一人で体操を始めてしまった。俺だったらそこから会話を広げるのに。冬城はそういうタイプじゃないのだろうか。それとも、鬱陶しかったのだろうか。
そういえば、俺は冬城と一か月ちょっとの付き合いになるが、学校で冬城を一方的に見ても話しかけたことはなかった。学年が違うと関わる機会がないし、どちらも帰宅部なため、部活で関わることもない。
俺はこっそりとスマホを出して、メッセージアプリの上のほうに出てきた夜空のアイコンをタップする。
(こっちから連絡するの癪だけど、なんか、今の関係よくわかんないし。せっかく同じ学校にいるんだから、話してみたいよな)
別に、決して! 俺が、冬城のことが気になるとかじゃなくて。
冬城が放課後ゲームセンターにいるときと、学校にいるときの態度が違うのが気になっただけ。これはそう、冬城柊という男の調査なのだ。
俺はそう割り切って、スマホを両手で持って文字を入力し始めた。



