急募! 後輩らしき男にパパ活の現場を見られたときの対処法。
――いや、もう遅い。
「これって、パパ活ですか? 先輩」
先ほどまで黒マスクをしていたその男は、わざとマスクを外しニヒルな笑みを浮かべていた。
ベージュ色のブレザーに、白にほど近いクリーム色のニットベスト。学校指定の緑のネクタイは外して、カッターシャツのボタンは一個あけている。
今、俺が着ている制服と同じ制服の男がスマホを構えて俺たちの行く手を阻んでいる。
俺――小春蓮澄は、今しがた古いゲームセンターにある数年前の機種のプリクラから、アラフィースーツおじさんと出てきたところ。ちなみに、おじさんとはさっきまで楽しくおしゃべりしながら、落書きブースで、でっかくなった目をさらに弄って遊んでいた。
そして、落書きブースから出たら今目の前にいるそいつと目が合ってしまったというわけだ。
後ろでキラキラキラ~しゃららんと軽快な音楽が流れており、現在プリ機は写真を現像中。
おじさんの顔は、先ほどまでプリクラと同じピンク色だったのに今は真っ青だ。多分原因は、目の前の後輩がスマホを片手にこちらに向けているからだろう。
「否定しないってことは、そう言うことですよね。せーんぱい」
後輩は、俺の知り合いを装ってにこりと笑う。
しかし、あっちは俺のことを知らないはずだ。だが、俺は一方的にこの後輩――冬城柊を知っている。何故なら、入学の日に校舎裏で告白を受けている現場を俺は見てしまったからだ。そのときに、告白している女子が、こいつの名前を言ったので記憶にばっちり残っている。黒マスクに、高身長。入学式から目立っていたこいつのことを、俺は記憶の片隅に覚えていた。
冬城がスマホをちらつかせるものだから、おじさんは俺の腰に回していた手を引っ込め、まだ現像中だというのに走って逃げていってしまった。その際、おじさんは冬城の肩にタックルをかましていた。しかし、冬城は身体をずらしただけでとくに怪我している様子もなければ、その手からスマホが落ちることもなかった。
ただ、見ていて痛そうだなとは思った。おじさんが。
ゲームセンターの入り口の反応の悪い自動ドアが開いた音がした。おじさんの足音はほどなくして聞こえなくなり、またゲームセンターの中に賑わしい音が戻ってくる。
「追いかけなくていいんですか?」
「別に………………あ、プリクラできた」
タイミング悪く現像された二枚のプリクラは、今見るとめちゃくちゃキショかった。目が化け物みたいに大きくて、唇も真っ赤。俺の頬こんなにピンクじゃないし、身長も多少盛られている。あのおじさんも、平均体形よりちょっとふくよかだったのに絞られてスレンダーになっている。
俺は、近くにあった空のごみ箱に二枚のプリクラを両手で雑巾絞りをしてから捨てた。別に持っていても嬉しいものじゃない。
「てか、冬城柊。さっき撮った写真消せ」
「柄悪いですね。写真? 何のことです?」
「とぼけんな! お前がその手に持ってるスマホ! ばっちり俺たち映していただろう!」
俺が高そうなカメラが三つついている黒いスマホを指させば、冬城は「あー」と今気づいたとでもいうような声を上げる。そして、次の瞬間にはサッと尻ポケットに隠した。
「お、おいっ」
「先輩、俺の名前知ってたんですね」
「……入学式の日にコクられてたモテ男の名前なんて知りたくもなかったけどな!」
「盗み見なんて趣味悪いですよ。先輩」
「盗撮のほうが趣味わるいだろ」
俺は冬城の隙をついてこいつからスマホを取り上げることだけを考えていた。ジリジリとにじり寄るが、あっちも警戒しているのか隙を見せてくれない。しかし、その顔には憎たらしい笑みが張り付けられている。顎に引っかかった黒いマスクのせいで、さらに小顔に見えるのがまた腹立たしい。
「それで、ビッチ先輩はいつもこんなことしてるんですか?」
「誰がビッチだ!」
「パパ活してたじゃないですか。しかも、ガッツリ腰触られてましたし。ああ、パパ活じゃなくて援助交際……」
「これが初めてだし……」
初対面のくせに人のことビッチ扱いして、なんなんだこの後輩は。
ゲームセンターの多種多様な騒音が耳にいたい。せっかく、町はずれのボロいゲームセンターを選んだっていうのに、何でそこに通っている高校の後輩がいるのだろうか。
ここは、学校の最寄りの駅のゲームセンターと違って、学校から自転車でも一時間半以上かかる場所だし、何より周りはシャッターが下りた商店街しかない。しかも、ちょっといったところには工場地帯だし、何でこんなところにゲームセンターをつくったのか謎なくらい、変な立地にある古いゲームセンターだ。まさかそこに学校の後輩がいるとは思わないだろう。
トイレも完備されていないだけではなく、ホコリやクモの巣の絡まった薄汚れた長いモップも目に付く位置に放置されている。
クレーンゲームの中に入っている景品だって、一個か二個しかないしスカスカだ。おまけにひびが入っている台まである。
いつ潰れてもおかしくないゲームセンター。
なのに、何故!!
「クソォ~~~~!!」
「俺、ここによく来るんですよ。だから、珍しい客だなーって思って。でも、こんなとこでパパ活するもんじゃないですよ。ビッチ先輩」
「だから! そのビッチ先輩っていうのやめろ! 俺には、小春蓮澄って名前があるんだよ! あと、お前の一個上! 先輩!」
冬城は、地団太を踏む俺を愉快そうに見つめ、口元に手を当てて上品に笑っていた。育ちの良さが伺えたが、今はそんなこと関係ない。
とにかく、この男にパパ活の写真を消してもらわなければ、最悪俺が退学処分を食らってしまう。
――いや、もう遅い。
「これって、パパ活ですか? 先輩」
先ほどまで黒マスクをしていたその男は、わざとマスクを外しニヒルな笑みを浮かべていた。
ベージュ色のブレザーに、白にほど近いクリーム色のニットベスト。学校指定の緑のネクタイは外して、カッターシャツのボタンは一個あけている。
今、俺が着ている制服と同じ制服の男がスマホを構えて俺たちの行く手を阻んでいる。
俺――小春蓮澄は、今しがた古いゲームセンターにある数年前の機種のプリクラから、アラフィースーツおじさんと出てきたところ。ちなみに、おじさんとはさっきまで楽しくおしゃべりしながら、落書きブースで、でっかくなった目をさらに弄って遊んでいた。
そして、落書きブースから出たら今目の前にいるそいつと目が合ってしまったというわけだ。
後ろでキラキラキラ~しゃららんと軽快な音楽が流れており、現在プリ機は写真を現像中。
おじさんの顔は、先ほどまでプリクラと同じピンク色だったのに今は真っ青だ。多分原因は、目の前の後輩がスマホを片手にこちらに向けているからだろう。
「否定しないってことは、そう言うことですよね。せーんぱい」
後輩は、俺の知り合いを装ってにこりと笑う。
しかし、あっちは俺のことを知らないはずだ。だが、俺は一方的にこの後輩――冬城柊を知っている。何故なら、入学の日に校舎裏で告白を受けている現場を俺は見てしまったからだ。そのときに、告白している女子が、こいつの名前を言ったので記憶にばっちり残っている。黒マスクに、高身長。入学式から目立っていたこいつのことを、俺は記憶の片隅に覚えていた。
冬城がスマホをちらつかせるものだから、おじさんは俺の腰に回していた手を引っ込め、まだ現像中だというのに走って逃げていってしまった。その際、おじさんは冬城の肩にタックルをかましていた。しかし、冬城は身体をずらしただけでとくに怪我している様子もなければ、その手からスマホが落ちることもなかった。
ただ、見ていて痛そうだなとは思った。おじさんが。
ゲームセンターの入り口の反応の悪い自動ドアが開いた音がした。おじさんの足音はほどなくして聞こえなくなり、またゲームセンターの中に賑わしい音が戻ってくる。
「追いかけなくていいんですか?」
「別に………………あ、プリクラできた」
タイミング悪く現像された二枚のプリクラは、今見るとめちゃくちゃキショかった。目が化け物みたいに大きくて、唇も真っ赤。俺の頬こんなにピンクじゃないし、身長も多少盛られている。あのおじさんも、平均体形よりちょっとふくよかだったのに絞られてスレンダーになっている。
俺は、近くにあった空のごみ箱に二枚のプリクラを両手で雑巾絞りをしてから捨てた。別に持っていても嬉しいものじゃない。
「てか、冬城柊。さっき撮った写真消せ」
「柄悪いですね。写真? 何のことです?」
「とぼけんな! お前がその手に持ってるスマホ! ばっちり俺たち映していただろう!」
俺が高そうなカメラが三つついている黒いスマホを指させば、冬城は「あー」と今気づいたとでもいうような声を上げる。そして、次の瞬間にはサッと尻ポケットに隠した。
「お、おいっ」
「先輩、俺の名前知ってたんですね」
「……入学式の日にコクられてたモテ男の名前なんて知りたくもなかったけどな!」
「盗み見なんて趣味悪いですよ。先輩」
「盗撮のほうが趣味わるいだろ」
俺は冬城の隙をついてこいつからスマホを取り上げることだけを考えていた。ジリジリとにじり寄るが、あっちも警戒しているのか隙を見せてくれない。しかし、その顔には憎たらしい笑みが張り付けられている。顎に引っかかった黒いマスクのせいで、さらに小顔に見えるのがまた腹立たしい。
「それで、ビッチ先輩はいつもこんなことしてるんですか?」
「誰がビッチだ!」
「パパ活してたじゃないですか。しかも、ガッツリ腰触られてましたし。ああ、パパ活じゃなくて援助交際……」
「これが初めてだし……」
初対面のくせに人のことビッチ扱いして、なんなんだこの後輩は。
ゲームセンターの多種多様な騒音が耳にいたい。せっかく、町はずれのボロいゲームセンターを選んだっていうのに、何でそこに通っている高校の後輩がいるのだろうか。
ここは、学校の最寄りの駅のゲームセンターと違って、学校から自転車でも一時間半以上かかる場所だし、何より周りはシャッターが下りた商店街しかない。しかも、ちょっといったところには工場地帯だし、何でこんなところにゲームセンターをつくったのか謎なくらい、変な立地にある古いゲームセンターだ。まさかそこに学校の後輩がいるとは思わないだろう。
トイレも完備されていないだけではなく、ホコリやクモの巣の絡まった薄汚れた長いモップも目に付く位置に放置されている。
クレーンゲームの中に入っている景品だって、一個か二個しかないしスカスカだ。おまけにひびが入っている台まである。
いつ潰れてもおかしくないゲームセンター。
なのに、何故!!
「クソォ~~~~!!」
「俺、ここによく来るんですよ。だから、珍しい客だなーって思って。でも、こんなとこでパパ活するもんじゃないですよ。ビッチ先輩」
「だから! そのビッチ先輩っていうのやめろ! 俺には、小春蓮澄って名前があるんだよ! あと、お前の一個上! 先輩!」
冬城は、地団太を踏む俺を愉快そうに見つめ、口元に手を当てて上品に笑っていた。育ちの良さが伺えたが、今はそんなこと関係ない。
とにかく、この男にパパ活の写真を消してもらわなければ、最悪俺が退学処分を食らってしまう。



