どうせ告白だろ、と思いつつ尋ねる。
「話って、なに?」
「美容整形してるでしょ」
この春、同じクラスになった男子が二人きりの屋上で、そう言ってきた時……美子(仮名)が感じたのは驚き、そして悲しみ、それから殺意だった――が、すぐに冷静さを取り戻す。
「変なこと祝わないで」
「そんなに動揺しないでよ」
男子にからかわれ、殺意がぶり返す。美子は自分に言い聞かせる。クールになれ、と。
「変なこと言わないで」
冷たい響きだった。クールビューティーの異名を持つ美子は、そんな口調がぴったりの高校二年生だ。美容整形を受けたのは、小学校から中学校へ上がる時だった。昔の顔を知っている人が誰もいない学校へ行く機会に手術したのである。
美容整形外科医である美子の父親は娘に最高の手術をした。凄まじく美しいのに、自然な仕上がりなのだ。誰一人、彼女が整形美人だと思わない……はずだった。
「美容整形は変なことじゃないよ。気にする方が変だ」
男子は、そう言ってからウィンクした。
「実は、僕もやってる」
仲間だ! と美子が親近感を抱いたかというと、逆だ。自分が美容整形をしていることを見破った男子に対し、憎悪と殺意が沸々と湧いてくる。私が美容整形をしていることを他の人間にペラペラ喋る前に、始末しなければ! と彼女は決意した。
今、自分は最高に恵まれた状態にある。最高位カーストの女王なのだ。この地位を守るのだ。そのためなら、なんだってやってやる。青春は綺麗ごとじゃない……みたいなことを美子は心の底で呟く。
男子は美子に背を向けた。手すりに体を預け、空を見る。
「もっとも、僕の美容整形は、この星の手術とは方法が違うけどね。この肉体を、この空間内で保つ手術は、特殊なんだよ」
そんな男子の言葉は、美子の耳に入らない。彼女は足音を忍ばせ、男子へ近づいた。男子の体を突き飛ばせば、手すりを越えて地面まで落ちるだろう。屋上から墜落すれば、あの世へ行くのに十分な高さがある。
「見てよ、僕の本当の姿を」
そう言って男子は振り返った。その顔が崩れた。溶けるように肉が垂れ下がったのだ。全身も同じような状態らしい。腕や手の裾からピンク色の肉らしき物体がはみ出す。
美子は恐怖で足がすくんだ。悲鳴を上げようにも、声が出てこない。
そんな様子を見て、男子は謝った。
「驚かせてゴメン! すぐに戻すから」
男子は大きく息を吸い込んだ。すると顔から垂れていた肉が元に戻った。裾から垂れていた肉も引っ込んだ。
すっかり元通りになった男子は美子に自分の正体を明かした。自分は別次元から地球の知的生命体を調査するために来た……という話を聞いて美子は「こいつ頭が変なのか」と思ったが、そうではないらしい。別次元から来た男子は言った。
「本当は、この話をするつもりじゃなかった。だけど、綺麗ごとじゃない青春をテーマにする話を明日の午後一時までに書かなければいけないと知って、筆者が思い付いたのは、これだったんだ。この話で傷ついてしまう人はいると思う。許して欲しい」
男子が何を言っているのか、美子には正直、分からなかった。だが、男子が悔やんでいるのは分かった。それでも言わなければならない話だったのだろう。それもきっと、綺麗ごとじゃない事情があってのことなのだろう。自分が美容整形を受ける決意をした時のように、と彼女は思った。男子の横で手すりに寄りかかる。
「聞いていい?」
「何なりと」
「地球の知的生命体を調査するために来たって話だけど、それって地球征服のため? それとも人類を宇宙連盟に加入させるみたいなSFっぽい目的なの?」
「整形美人コンテストの出場者を探しているんだ。君、どうかな? 君なら優勝できる。優勝したら、宇宙一の整形美女として全世界に大々的に発表してあげるよ!」
美子はコンテスト出場を拒絶した……のだが、同級生男子が勝手にコンテストへ書類を送ってしまい、まさかの予選通過そして本戦出場を遂げることになる。彼女は栄冠を勝ち取ることができるのか? 以下、次号(←続くのか!)。
「話って、なに?」
「美容整形してるでしょ」
この春、同じクラスになった男子が二人きりの屋上で、そう言ってきた時……美子(仮名)が感じたのは驚き、そして悲しみ、それから殺意だった――が、すぐに冷静さを取り戻す。
「変なこと祝わないで」
「そんなに動揺しないでよ」
男子にからかわれ、殺意がぶり返す。美子は自分に言い聞かせる。クールになれ、と。
「変なこと言わないで」
冷たい響きだった。クールビューティーの異名を持つ美子は、そんな口調がぴったりの高校二年生だ。美容整形を受けたのは、小学校から中学校へ上がる時だった。昔の顔を知っている人が誰もいない学校へ行く機会に手術したのである。
美容整形外科医である美子の父親は娘に最高の手術をした。凄まじく美しいのに、自然な仕上がりなのだ。誰一人、彼女が整形美人だと思わない……はずだった。
「美容整形は変なことじゃないよ。気にする方が変だ」
男子は、そう言ってからウィンクした。
「実は、僕もやってる」
仲間だ! と美子が親近感を抱いたかというと、逆だ。自分が美容整形をしていることを見破った男子に対し、憎悪と殺意が沸々と湧いてくる。私が美容整形をしていることを他の人間にペラペラ喋る前に、始末しなければ! と彼女は決意した。
今、自分は最高に恵まれた状態にある。最高位カーストの女王なのだ。この地位を守るのだ。そのためなら、なんだってやってやる。青春は綺麗ごとじゃない……みたいなことを美子は心の底で呟く。
男子は美子に背を向けた。手すりに体を預け、空を見る。
「もっとも、僕の美容整形は、この星の手術とは方法が違うけどね。この肉体を、この空間内で保つ手術は、特殊なんだよ」
そんな男子の言葉は、美子の耳に入らない。彼女は足音を忍ばせ、男子へ近づいた。男子の体を突き飛ばせば、手すりを越えて地面まで落ちるだろう。屋上から墜落すれば、あの世へ行くのに十分な高さがある。
「見てよ、僕の本当の姿を」
そう言って男子は振り返った。その顔が崩れた。溶けるように肉が垂れ下がったのだ。全身も同じような状態らしい。腕や手の裾からピンク色の肉らしき物体がはみ出す。
美子は恐怖で足がすくんだ。悲鳴を上げようにも、声が出てこない。
そんな様子を見て、男子は謝った。
「驚かせてゴメン! すぐに戻すから」
男子は大きく息を吸い込んだ。すると顔から垂れていた肉が元に戻った。裾から垂れていた肉も引っ込んだ。
すっかり元通りになった男子は美子に自分の正体を明かした。自分は別次元から地球の知的生命体を調査するために来た……という話を聞いて美子は「こいつ頭が変なのか」と思ったが、そうではないらしい。別次元から来た男子は言った。
「本当は、この話をするつもりじゃなかった。だけど、綺麗ごとじゃない青春をテーマにする話を明日の午後一時までに書かなければいけないと知って、筆者が思い付いたのは、これだったんだ。この話で傷ついてしまう人はいると思う。許して欲しい」
男子が何を言っているのか、美子には正直、分からなかった。だが、男子が悔やんでいるのは分かった。それでも言わなければならない話だったのだろう。それもきっと、綺麗ごとじゃない事情があってのことなのだろう。自分が美容整形を受ける決意をした時のように、と彼女は思った。男子の横で手すりに寄りかかる。
「聞いていい?」
「何なりと」
「地球の知的生命体を調査するために来たって話だけど、それって地球征服のため? それとも人類を宇宙連盟に加入させるみたいなSFっぽい目的なの?」
「整形美人コンテストの出場者を探しているんだ。君、どうかな? 君なら優勝できる。優勝したら、宇宙一の整形美女として全世界に大々的に発表してあげるよ!」
美子はコンテスト出場を拒絶した……のだが、同級生男子が勝手にコンテストへ書類を送ってしまい、まさかの予選通過そして本戦出場を遂げることになる。彼女は栄冠を勝ち取ることができるのか? 以下、次号(←続くのか!)。



