「ねえ、久遠。これどういう事?」
その次の日、麻衣に圧迫尋問される。
その麻衣のケータイ。そこに映っていたのは先輩とのメールだ。
その内容を見てみると、
『俺、久遠と付き合う事になった』
そうメールが来ていた。
先輩、麻衣ちゃんに行ったのね、と心の中で思う。
しかし、今の問題は先輩よりも、目の前の麻衣だ。
そもそも先輩には口止めを頼んでいなかった。
ここで漏れたとしても、誰も文句は言えないだろう。
「あたしが聞いてた話だと、恋愛感情はなかったんじゃないの?」
やっぱりそこを詰められるか。
なんだか私は今の状況を俯瞰してみている。
当事者意識が欠けている。
「無かったよ。でも会うたびに恋愛感情を持つようになったの。それを言ってなかったのはごめん」
悪いとは思っている。
麻衣に何も言わずに先輩と会い続けていたこと。
「あたしに嘘をついてたってことだよね」
そう言って麻衣は机をたたいた。
「あたしから先輩を奪ってそんなに楽しかったわけ? 協力してくれるって言ってくれたの嘘だったの?」
こういわれることは分かっていた。でも、想像以上にきついものがある。
私は麻衣を裏切ったという事実が私の肩にのしかかる。
「ごめんね」
「ごめんなんて聞きたくない。あんたなんて友達じゃない」
「分かった」
私はそう言って泣き叫ぶ麻衣の元を後にした。
メッセージアプリはブロックされた。
当然かと、自嘲的な笑みが浮かぶ。
私は学校にいられないなと、学校を早退した。
私は麻衣にどう接するのが正解なのだろうか。
麻衣は私に裏切られたと思っているはず。
この卑怯者は初めに私も好き、その一言が癒えなかったし、途中から麻衣に「私も先輩のことが好きになった」と言う事も出来なかった。
――あたしは正々堂々と勝負してほしかった。
そんなメッセージがブロック前に届いていた。
あの言葉は、私が先輩のことを好きと言ったって友達をやめなかったこと?
なら、私の方が麻衣のことを見縊っていてたのかもしれない。
友達関係というのは分厚いように見えて、希薄なものだ。
一度揉めたらもう取り返しのつかないことになる。
神様は何て、残酷なのだろう。
いや、今一番ひどいのはまさに私なのか。
ブロックされる前に送られたメールはもう一つある。
――あたしは正々堂々と戦って先輩を取られたなら仕方ないと思ってた。でも、あたしに何も言わずに先輩にアタックしたことが許せないんだ
麻衣は私と共に先輩を奪い合いたかったのか。
確かに先輩のことが好きなら素直に言って欲しかった、って言ってたな。
なんだかむなしくなってきた。まさに私自身が。
その次の日、学校に行く。麻衣は何も話しかけてこない。それどころか、私のことを恨みは出しい顔で見ている。
麻衣、
そこまで嫌だったのだろうか。
なんだか、先輩に会いに行くのが怖くなる。
麻衣をだまし討ちして手に入れたようなものなのだ。
そう思うと私は卑怯者だ。
先輩と釣り合っているとなんて思えなくなってくる。
ただ、私が先輩に選ばれただけのこと。
なのに、なぜ、私はここまで苦しんでいるのだろうか。
私は麻衣に申し訳ないと思ってるのではないか。
だから苦しんでいるのではないか。
麻衣に言ったら嫌われるかもしれないと思った。いや、それは言い訳だ。
なら仕方が無いね、なんて言われるわけがない。
「先輩」
私は昼休みに先輩の元へと行く。
怖い気持ちを押し殺して。
先輩は昼練の最中だった。
「どうしたんだ?」
先輩は、サッカー部のみんなに断りを入れ、私の元へと来た。
「先輩、私分からないんです」
「どうしたんだ?」
そう言ってきた先輩に、私の今思ってることをすべて包み隠さずに話した。
麻衣も先輩のことが好きだったのに、私は嘘をついて先輩にアタックしてたこと。
「なるほどな」
先輩に嫌われるかもしれない。そう思った。しかし、今自分の気持ちを吐露しなければすっきりとしない。そう思ったのだ。
先輩に私が悪い女であることを知らせたかった。
そのうえで、判断してほしかった。
「よく俺に言ってくれた」
先輩は私の頭をなでてくれた。
「要するに、久遠は仲直りしたいんだろ?」
私は頷く。
「私が謝って解決しますかね」
「まあ、その時は俺が何とかする。久遠のためだし、俺のせいで二人の仲が悪くなったりするのは嫌だから」
「ありがとうございます」
「とりあえず謝りに行ってこい。自分のためにな」
「はいっ!!」
先輩は私に元気づけてくれた。私の懺悔を聞き入れてくれた。
次は麻衣に謝りに行く番だ。
教室の中を見る。麻衣だ。麻衣がいる。
私は唾をゴクリっと飲み込んだ。
やはり緊張する。
昨日の麻衣の心の叫びを聞いてしまったのだからなおさらだ。
でも、逃げるわけには行かない。全て私が悪いのだ。
麻衣と話して、仲直りしないといけない。そうじゃなければ、私は……。
「麻衣!!」
私は教室の中でご飯を食べている麻衣似た言いs手話しかける。
麻衣は、声が聞こえていなかったのか、そのまま無言でご飯を食べ続けている。
私の声に気が付いていない、そんなことはあり得ない。私に対しての拒絶だろう。
少し怖くなる。
このまま私が話しかけても一生返事など帰ってこないんじゃないかという。
しつこいと思われるんじゃないかという。
でも、私は逃げない。
「麻衣ごめん!!」
私は頭を下げた。大声を出したせいで、教室中に私の声が響いている。
その影響で周りの人たちがみんな私の方を向いた。
うぅ、恥ずかしい。でも、
「麻衣、私は麻衣のことが信じられなかった。麻衣に先輩が好きだという事を言ったら、嫌われると思ってた。だから昨日、麻衣がライバルとして戦いたかったなんて言ってくれた時には驚いたの。まさかそんなことを想ってたなんて。私は卑怯だと思う。麻衣が少しづつ先輩をに好きになってもらえるように頑張っている最中に私が真横から奪い去ったんだもん。私は言い訳出来ない。生粋たるクズだと思う。だから謝りたいの」
「……あたしは、今も久遠のことが憎い。それくらいあたしは先輩のことが好きだったんだ。まさか親友にかすめ取られるなんて思ってなかったよ。あたしは今でもあんたのことを泥棒猫と罵りたい。本当に卑怯だよ。久遠は」
「ごめんなさい」
「謝ってすむ問題じゃないと思う」
そう言われることは分かっていた。
これで、二言で「いいよ、これからも仲良くやろうね」なんて言われるとは思っていなかった。
「私は、麻衣ちゃんにはかなわないような弱い人間だから、先輩は麻衣ちゃんを選ぶと思ってたの。だから私が選ばれた時、驚いた」
「ちょっと待って?」
麻衣が私の言葉を食い止めるように言った。
「まさか、真剣勝負じゃ負けるから、不意打ちしたってこと?」
「そうじゃないっ!!」
私は強く言った。
「私は麻衣みたいな強い人間じゃない。だからどのみち、先輩の彼女にはなれないと思っていたの。だから私のアタックは九九パーセントの思い出つくりと、1パーセントの、確率にかけてのものだったの。もし、麻衣ちゃんを先輩が選んだとしても、友達としていられるように。勿論私に野望が無かったとは思えない。でも、私が麻衣と先輩を取り合うなんて、言えなかった。私は麻衣にと成り立つにはあまりにも実力不足だから」
「はあ」
麻衣のため息が場を包み込む。
「あきれた」
その言葉は強く、そして非情なものだった。
「久遠があたしに勝てない? 馬鹿言ってんじゃないの? あたしからしたら久遠は立派な人間だよ」
「え?」
まさかの発言に、思わず声が漏れる。
「久遠は気づいてないと思うけど、あたしは久遠に救われているところが沢山あるの。それを知らないで、自分を卑下するんじゃないわよ」
「へ?」
また、とぼけた声が出てしまう。
「あたしからすると、久遠は立派な、立派な人間だよ。あたしは最初、自分の押しの話をする相手がいなかった。孤独だったの。あたしはクラスの中心に立とうとはしていたかっあtけど、本当に話が合うのは、久遠だけだった。それに、久遠は話をしっかりと聞いてくれる。これだけで魅力だとあたしは思う。それに、勉強もそこそこできるし、自分の意見をはっきりという。嫌なことは嫌という。そこはあたしにはまねできないことだよ。だって、あたしは周りに嫌われたくないもん。あたしにとっては久遠は私なんかよりも立派な人間だよ。しっかりと芯が通っている。尊敬すべき人間だよ」
久遠が私をそう思ってくれていたなんて。思わずうれしくなる。
「久遠、私が怒ってるのは、ただなんで言ってくれなかったの? それだけなの。本当にそれだけなの。なのに、卑下発言をするから驚いちゃった」
「麻衣」
「あたしは、今も久遠が憎いと思ってる。でも、久遠の気持ちがきけて良かった。憎いけど、それをいつまでも引きずるのは良くない事だと思うから。それに、久遠とは友達に戻りたいし。……先輩は別にいいの。諦めたわけじゃないけど、まだチャンスは残ってると思ってるから。……それでこれからの話なんだけど」
途端に真面目な顔をする麻衣。
「もう、嘘はつかないで欲しい。あたしのことを信用して欲しい。あたしは堂々と誓うよ。あたしは正々堂々と先輩を取りに行くと」
私が彼女になったとしても、諦めるつもりはない。
「望むところ!!」
私はグータッチで、麻衣に応えた。
麻衣には悪いことをした。だからこそ、これからは嘘偽りのない関係でいようと思う。
私にとって麻衣が一番大事だという事を再確認したのだから。


