その次の日。麻衣は学校に来ていた。
風邪が無事に治ったという事なのだろうか。
「ねえねえ、久遠」
「どうしたの?」
「あたしがいないときに先輩と話したんだよねえ。どんな感じだった?」
牽制しているんだろうか、それとも純粋に気になっているのだろうか。真意は分からないが、私はとりあえず「かっこよかったよ」と言った。
それはサッカーをしてる先輩がという事が出来る。
「先輩普通にボールを蹴って二ゴール決めてたから。先制ゴールと決勝ゴール」
「えー、あたしも見たかった。ビデオ通話してもらったらよかったかな」
「確かに。私も気が利かなかったね」
もしその方法が脳に浮かんでいてもその時の私はやらなかっただろうけど。
私が先輩を独占したかったし。
「そっか。そう言えばさあ」
「なに?」
「久遠は本当に先輩のことが好きじゃないんだよね。あるなら言って欲しいんだけど」
しつこい。まさか私の先輩への恋心も気が付いているんじゃないだろうね?
ここで好きだよなんて言えたらなんていい事か。
そうなったら正々堂々と、戦える。
でも、麻衣の反応が怖くて、私は決してそんなことを言えないのだ。
私は卑怯だよ。
どうせ付き合う事に成功したら麻衣にそのことがばれちゃうのに黙ってるんだもん。
でも、どうせ先輩は麻衣にとられるんだろうことは分かっている。
私が先輩と付き合う日はたぶんこない。
麻衣が勝つに決まってる。私は凡才。でも、麻衣は非凡なんだもん。
あらゆる面で上なのだ。
それでも私は一縷の望みにかけて、アプローチしているだけなのだ。
しまった。私ったらなんでまたこんな欝々しい考え事をしているんだろう。
こんな私は嫌いだ。元気な私で痛いのに。
そうじゃなかったら麻衣に勝てない。
そんな時にメールが来た。
麻衣にばれない様にこそこそと開く。そのメールは先輩からだった。
『今日、部活終わり、君が暇だったら一緒に帰らないか?』
先輩から誘われた。
でも、麻衣がいるからあまり積極的に行くべきじゃないのかな。
そんな考えが脳内をめぐる。
すると麻衣が『先輩から一緒に帰らないか誘われちゃったよ!』と元気よく言った。
そっか、麻衣も誘われていたのね。
確かに二人きりでとは言われてなかったものね。
ぬか喜びしちゃった。
「私と一緒に帰らないの?」
「うん。久遠には悪いけどね」
あらら、見捨てられちゃった。
でも、いいか。私は断りのメールを送るだけだから。
どうせ麻衣は私のことよりも先輩のこ都の方が大事だ。
ここで、私が断りのメールを送らなかったらショックだろうなと思った。
先輩と帰りたいな、そんな未練を残しながら先輩にメールを送った。
『悲しいな。君と一緒に帰りたかったんだけど』
それは建前ですか?
それは本音ですか?
そんな文面を送ろうとして文を打つ手を止めた。
こんなの告白してるようなものだ。
先輩を困らせてしまう。
「ごめんなさい」とだけ送っておいた。
家に着いた後、私は家のベッドに寝ころぶ。
今ごろ麻衣は先輩とデートしてるんだろうなと思うと、少しムカッとしてしまう。
私も帰りたいと、言えればよかったかな、なんて思うけど、全て後の祭りだ。
私は麻衣に遠慮しすぎだと思う。
私と麻衣の出会いは話が合ったからだ。
でも、そこからは麻衣としか友達に慣れなかった。
私はクラスでのカラオケ会にもいきたくはなく、断ったし、一緒にいてて楽しくなさそうな人は私から避けた。
麻衣は、そんな私に優しくしてくれる。
でも、麻衣にはほかにも友達が沢山いる、
そんな麻衣の信用を損なうのが怖いのだ。
麻衣がいなくなれば、私はクラスで独りぼっちだ。その怖さは私が一番分かっている。
だから、私は遠慮してしまうのだと思う。
私だって、出来るなら遠慮せずにガツガツと行きたい。
でも、それで先輩を得られたとして、その時に隣に麻衣が居なかったら、麻衣が私のことを嫌いになったら。
学園生活は幸せかもしれないが、クラスの仲は地獄と化すだろう。
それが私は嫌なのだ。絶対に嫌な事なのだ。
麻衣を、クラスでの平穏を取るか、先輩とのデートを取るか。
それが私の今の絃現状だ。
私は先輩が好きなのに、何で諦めなきゃいけないの?
そんな思いに覆われた。
私は昨日の振れ合いだけで満足したくはない。
私は何を恐れてばかりいていいのだろうか。
そんな不安が私を襲っている。
私はどっちつかずの卑怯者だ。
私の気持ちも伝えようとしないし、先輩戦線から離脱しようともしない。
私は悩んだ末に一件のメールを送ることにした。
『先輩、私は先輩と二人で帰りたいです』
そう送った。
私自身、どうしてこのメールを送ったのか、確かではない。
気が付けば送っていた。そう言うのが正解だ。
『麻衣ちゃんと帰るのは嫌なのか?』
うぅ、過去の私が変なことを訊いたせいで何を返したらいいのか分からない。
『だって先輩と麻衣は仲いいじゃないですか。ただの嫉妬です(むっすーとした顔文字)』
そう送った。
嫉妬。ああ、嫉妬してるのかもしれない。
周りの何にも縛られない。自由人な麻衣を。
『そうか。なら明日から麻衣ちゃんを誘わないで二人で帰るか?』
これはどう言う意味なのだろうか。
もしかして私の方が麻衣よりも好きだという事だろうか。
そう言う意味でのメールならうれしいなと思う。
私は多くを求めるつもりはないけれど、やっぱり先輩を得れるチャンスがあるなら、麻衣を失っても構わないと思う。
「麻衣ごめんね」
そう思いながら、私は『はい』と返信をした。
私は驕っているのかもしれないが、『ならそうしよう』という返信が来た際、私はその場で伸びをして息を吐き、「やったー!!!!!」そう叫んだ。
私は喜びの渦の中に今いるのだ。
胸がはち切れそうだ。
もう、麻衣への罪悪感も消え去った。
いや、もうどうでもよくなった。
私は私が薄情者なことを知っている。でも、私は親友よりも恋を選ぶのだ・
卑怯者、薄情者と罵られてもいい。もうこのメールを送った時点で、覚悟は決まった。
翌日。早速先輩と一緒に帰ることになった。私の心の中では幸せな気持ちでいっぱいだ。
「麻衣ちゃんのことは本当に良かったの?」
「はい」
「そっか。実はね、友達の輪に割り込んでしまう事を恐れてたんだ」
「え?」
どういう事?
「俺は君たち二人の仲をつぶすことを恐れていたんだ」
「それは、つまり?」
「俺が君たち二人の仲を引き裂く事を恐れてたんだ。だって、あの日以外君たちは二人で帰っていただろ?」
ああ、そのことを心配していたんだ。
「でも、君の心の底からの気持ちを聞けたから、今日は君と帰るんだ」
「明日は?」
「望むなら君と帰るよ」
「いいんですか?」
「ああ」
嬉しいな。先輩が私を選んでくれた。
「ありがとうございます」
「どうしたんだ?」
「いえ、何でもありません」
何でもありませんとは私は言ったものの、今も幸せな気持ちでいっぱいだ。
それからしばらくの間、先輩と一緒に帰る日が増えて行った。
私はいつも先輩と一緒に帰るようになった。
先輩が私を選んでくれた事が嬉しくて、私の目は盲目になってたかもしれないと気づくのにはそこまでの時間がかからなかった。
「なあ、久遠」
先輩が語り掛けて来る。
「俺と付き合ってくれないか?」
まさか向こうから来るなんて、
私は当然、頷いた。
先輩と一緒にいられることになるなんてそんなにうれしいことはない。
もう、麻衣のことなんて考えられなかった。
もう、麻衣のことよりも、先輩を取ろうと思った事、それ自体はもう決めていた。
だけど、それ以上に先輩の言葉が嬉しかった。
この時ばかりは麻衣にごめんとこころの中で謝った。
しかし、罪悪感は持つけども、麻衣に勝ったという高揚感と、先輩と共にいられるという嬉しさで打ち消されている。
「それにしてもなんで私なんですか?」
でもそこが気になる。
「俺にとってサッカーをしている時間と同じくらい楽しいのが、君といてる時間なんだ」
「そう言ってもらえてうれしいです。でも」
私は麻衣に劣っている。
「私も先輩が好きです。でも、麻衣が」
「俺は麻衣もいい子だと思う。でも、久遠と一緒にいる時間には代えられない。そう、俺は思うんだ」
「私は麻衣に劣っていて。それでもいいんですか?」
「俺は久遠でいいんじゃない、久遠がいいんだ」
「ありがとうございます」
麻衣よりも私の方がいい。なんて嬉しい言葉なんだろう。
この言葉をいただいただけでもう、私は幸せ。
敵わないと思っていた親友に勝てたんだから。
叶わないと思っていた夢がかなったのだから。


