そんなある日のことだった。麻衣が病欠で学校を休んだ。
麻衣が休むなんて珍しい。麻衣は基本元気で、風邪なんて到底引きそうな感じがしなかったのだ。
だが、
私はここしかないと思った。
麻衣には悪いけど、私だって先輩のことが好きだ。
数日間考えに考え抜いた結果、アタックもせずに、諦めるなんて辛いと思ったのだ。
おそらく私は何もしないで先輩を麻衣に渡したら、後悔する。
絶対に後悔する。
私は勇気が無い人間だ。だけど、後悔はしたくない。
私は早速昼休みに先輩に話しかけた。
緊張したけれど、言葉はすぐに出た。
「先輩。今日麻衣ちゃん休みなんですよ」
会話の切口は共通の話題、そう思い私はそう口にした。
「君は確か、最初に麻衣ちゃんと一緒にいた子だね」
私は頷いた。
「確か久遠ちゃんだっけ?」
「はいっ!」
名前を覚えられていた。麻衣の親友だからという理由かもしれないが、嬉しい。
「あの、私。先輩に言わなければならないことがあって」
「何だい?」
「私とも友達になってくれませんか」
失敗した。そうとっさに私は思った。
いきなりすぎるでしょ、と自分に言いたい。それに、彼氏になってください、は聞いたことがあるけど、友達になってくださいなんて聞いたことが無い。
ああ、これきっかけでがっかりされたり変な反応とかされたらどうしよう。
友達関係なんて、自然に形成されていくものなのに。
私の心臓の音が爆音で流れる。
何を考えても、言ってしまったのは事実なのだ。
「いいよ」
え?
先輩はいきなり認めてくれた。
正直な気持ち、嬉しすぎる。
いきなりのアプローチが成功するなんて。
勇気出していってみる物なんだね、と思った。
すんなりと先輩は認めてくれたことに対し、軽くほっと息をつくのだった。
「連絡先交換しようか」
「はいっ!」
そして私はQRコードを先輩に見せる。チャットアプリの友達登録だ。
先輩が読み込むと、
清
よろしくお願いします
申請OK 申請NG
勿論申請OKだ。
先輩のアイコンはぬいぐるみで、自己紹介欄は初期のままだった。
兎に角、先輩の連絡先を手に入れられた。その事実だけでうれしさの真っただ中にいる。
その後、私は先輩の連絡先が入っている携帯を片手に、そのまま私は歩いて教室に戻っていく。
今日に関しては麻衣が休んでいてくれてよかった。
でも、これは十分な裏切り行為だ。
親友が動けていないときに、先輩にアプローチを仕掛けに行ったのだから。
本当に麻衣には本当に悪いと思う。
でも、麻衣に遠慮してアタックしないのは嫌だ。
なら、せめて麻衣の知らないところで、先輩と仲良くなりたいな。
クズ的な思考とはわかっているけど、私はこの恋心を諦めたくはない。
その日の放課後。私はサッカーの練習を見に、先輩のところに行く。
今日は練習試合だと事前に聞いていたのだ。
私がファンだと言っていたのは覚えていたらしく、今日練習試合あるけど見に来ると言われたのだ。
そこで麻衣と直面したらどうしようと思ったが、麻衣は本当に調子悪いらしく来てないみたいだった。
まあ、麻衣が来てても、私がただサッカー見たかったからとだけ言えばよかっただけかもしれないけど。
そのようなことを考えていると、早速サッカーの試合が始まろうとしていた。
私は慌てて先輩を視線に捕らえる。
真剣な顔だ。今から練習とは言え試合なのだ。
そうそう、私はこの顔が好きなのだ。
普段の先輩も好きなのだが、今の真剣モードの先輩も好きだ。
ピッ―ー
ホイッスルの音に合わせて先輩はボールを蹴っていく。
先輩を止めようと敵のチームの選手たちが先輩を止めようと必死に頑張っている。
だが、先輩は捕まらない。必死で敵選手の攻撃を避けていく。
そしてあっという間に敵ゴールの近くに行き、ボールを蹴った。
ボールは勢いを持ち、ゴールネットに向かって行き、そしてゴールキーパーの手の上を通って行った。
ゴール。先制ゴールだ。
あっという間に一点を決めた先輩。やっぱりかっこいい。
私は盛大な拍手をした。すると先輩は私の方に向けて手を振ってくれた。
ああ、好き。
そして先輩はすぐさま真剣な先輩になり、そのまま試合に戻っていく。
その後は試合が均衡していく。
どちらも中々点が取れていないようだ。
先輩も果敢に攻めるけど、中々ゴールに結びつかない。
中々敵の守備を破れなくなっている。
私はサッカーのことはよくわからないけど、こんなに堅い守備を見せられたら、いくら先輩でも攻め切ることなんて無理だよ。
でも、先輩はかっこいい。先輩は強い。
絶対に何とかしてくれるはずだ。
私は先輩を必死に鼓麻衣していく。
応援団がいる訳ではない。
しかし、私含めた数名の人達はいる。
手拍手をしていく。
そしてついに、守備をパスを駆使しながら先輩が突破した。
そしてパスを渡すふりをして一気にゴールネット目掛けてボールを蹴った。
そのままネットを突き破り、先輩が二点目のゴールを決めた。
その瞬間胸がすっとした。
応援した甲斐があった。そう思えた。
「やったっ!!」
私はガッツポーズをした。
そしてそのまま試合は続き、2対0で先輩のチームが勝った。
「先輩お疲れ様です」
こういうのってマネージャーがやることなのだろうか、そんなことを考えながら、先輩のもとに行く。
「ああ、応援の熱が入ってたね。おかげで点が取れたよ。……ありがとう!」
なんて爽やかなんだろうか。
先輩のことがもっと好きになってしまう。
「こちらこそ、いいプレーをありがとうございます」
そう言うと先輩は照れ隠しのような笑みを見せる。
「今日は一緒に帰る?」
「いいんですかっ!?」
私はそう言った瞬間に恥ずかしい気持ちが来る。
喰いつきすぎたかもしれない。
色恋目的であるとばれたかもしれない。
「いいんだよ。というよりも、喜ばれすぎてこっちが困るよ」
「そうですね」
確かに、テンションを上げ過ぎると、色々と調子が狂うだろう。
「麻衣ちゃんとはどれくらい一緒にいるんだ?」
早速話を振られたと思うも、その話が麻衣に関係する話で、少しだけテンションが下がる。
「はは、そんな顔をしないでくれ」
「分かってますけど」
先輩との恋路は麻衣の方が先にいるという事は。
「私と麻衣ちゃんは同じキャラが好きだった繋がりなんです」
そう毒舌キャラ、ミレアス・オーゲスダの事だ。
「そうなんだね。あれ、ってことはサッカーは関係ないの?」
「はい」
サッカーには興味があるわけではないが、先輩のするサッカーは好きだ。
先輩が次々に敵の選手を抜き去る姿は何度見ても美しい。
まさかそこまで麻衣と一緒になるとは思っていなかったけど。
「先輩はサッカーをなんで始めたんですか?」
「俺は、サッカー選手に憧れたんだ」
「サッカー選手に……」
先輩にはサッカーを好きになる要因があった。
先輩の元となったサッカーがあるんだ。
「テレビでワールドカップがあったんだ。その時のブラジル代表のゴールがすごすぎて、俺は憧れを抱いたんだ。俺はあんなプレイをしたいと思ったんだ。華麗なパスに、華麗なゴール、そして敵の守備を置き去りにするテクニック。そこから俺はとにかくサッカーを練習して、いつの間にかかなりうまくなってしまった」
「いい事じゃないですか」
「いや、サッカーにはまりすぎててサッカー以外の趣味が無くなってしまった」
ああ、そういう事ね。
「まあでも、やってて損はなかったと思うよ。からだが強くなったし、何より人生を費やせる趣味が出来た」
「先輩は、プロになるつもりなのですか?」
「それはまだ決めてないよ。でも、サッカーを仕事にしたいと思っている」
先輩は凄いなあ。
だって、私には将来の夢とかないし。
今現在の夢は強いて言えば先輩の恋心をゲットしたいという物だ。麻衣という強力なライバルを得ながら。
それが今の私の夢と関あげちゃうと、なんてしょぼい夢なのだろうか。
「落ち込んでるのか?」
「私と先輩の差が激しいので」
「大丈夫だ。俺も大した人間じゃない。勉強も赤点回避がやっとだし、サッカー以外のことになると一気にどんくさくなるんだ」
「そうなんですか」
「ああ、この前はサッカーの試合のこと考えすぎて、授業で当てられた時に答えを言う事が出来なかったし、サッカーをし過ぎて授業中に寝ることも多々あるしな」
「サッカー馬鹿ってでも、漫画の主人公っぽくない?」
「そうだな」
そう言って先輩は笑った。
「そう言えば二人がやっているゲーム、俺にも教えてくれないか?」
「でも、先輩がハマるかどうかは分かりませんけど」
「いいんだ。俺もサッカーだけじゃだめだからな、他の趣味が欲しい」
それがゲームってどうなんだろう、と思うけど先輩がいいなら別にいい。
「これです!」
私はスマホの画面を先輩に見せる。
そこにはホライゾンキャピタルと書いてある。
「なるほどな。俺もやってみるよ」
「本当ですかっ!! これ私の推しなんですよ」
「へえ、このキャラか覚えておくよ」
その帰り道。私は先輩と思う存分話し合った。
互いの趣味、互いの私生活、様々な事について話せた。
これならば、麻衣に追いつけたかも、そう私は思った。
はあ、疲れたな。そう、家に帰ってすぐに思った。
でも楽しかったな、と思う。
先輩と一緒に帰ってきて。
ああ、先輩の声、先輩の笑顔。今も脳裏に焼き付いている。
ああ、今の脳に焦がれて離れない先輩のことが好きだ。
ブッ
携帯の通知が来た。
それを見ると、連絡が来ていた。
それを見ると、麻衣からだった。
麻衣のメールを見ると、『今日先輩といたの????』
ああ、ばれた。いや、口封じとかはしてないから、ばれるのは当たり前なんだけど。
『ねえ、先輩と仲睦まじげに話してたと聴いたんだけど、どうして?』
『別にいいでしょ』
それは私の自由にさせて欲しい。
それに、
『私はただ先輩のサッカーの試合を見に行ったの。その際に気づいてもらえてそのまま一緒に話をしてただけから』
『でもあたしに遠慮して話さないとかあるでしょ』
『そう言われても困るよ』
あくまでも、私はただ話しかけられた被害者。
そう演ずることで、先輩と仲良くなろうとしようとしていることを秘密のままにする。
先輩と仲良くなりたいから話しかけたとかじゃない。そう印象付けたい。
『分かった。そう言うならあたし信じる』
その文面を見た瞬間、私はほっとした。
これなら、麻衣にばれないまま先輩にアタックできるかもしれない。


