昼休みの教室。俺の席には、やたらと顔がいい親友が座っている。
 ただ漫画を読んでいるだけ。なのに、絵になる奴。
「それ、面白い?」
 俺は親友の皇(すめらぎ)海(かい)里(り)の肩に、なんとなく顎(あご)を乗っけた。その手元にある漫画は、日常をのんびり描いたコメディだ。
 漫画をぼんやりと眺めていたら、ページをめくる手が止まる。試しに首を縦に動かすと、またゆっくりとページがめくられた。
 このまま一緒に読んでいいよ。
 そんな雰囲気を海里から感じ取れて、俺は満足気にふふんと鼻を鳴らす。
「花(はな)栗(ぐり)~」
「ん~?」
 自分のことを呼ばれたので、俺は視線を上げた。
 花栗七(なな)海(み)。海里以外の人は、俺のことを苗字で呼ぶ。
「借りてたボールペン、返すよ。ありがとな」
「おう」
 俺は海里の肩に顎を乗せたまま、差し出されたボールペンを受け取った。
 すると、クラスメイトが苦笑いする。
「お前たち、本当に仲がいいよな」
「ああ、まあ」
「うん、だね」
 俺たちは頷(うなず)いて、当然の如(ごと)く互いの仲を認め合う。
 だって、海里とは幼少期から仲がいい。家は隣で、互いの家を行き来するのが当たり前。学校でも休憩時間になれば、どちらかの席に向かい、しゃべくって時間を過ごす。空気のように自分に馴(な)染(じ)んだ存在だ。
 きっと海里も俺と同じことを思っていることだろう。
「俺は七海が好きだから」
「やだ。俺もそう思っていたところ。もう一回言って?」
「七海が好き」
「きゃっ」
 愛の告白に、俺は両手に手を添えて照れた風にふざけた声を出す。
 それを見ていた複数のクラスメイトが「もっとやれ」だの「リア充、爆発しろ!」だの声を上げた。
 青(あお)里(ざと)高校、一年三組のクラスは、皆なかなかにノリがいい。
 声を上げて笑っていると、海里が顔を寄せ、俺に耳打ちした。
「付き合ってよ。七海」
 聞き慣れた声なのに、そのときは低く硬い響きがあって別人みたいに思えた。ゆっくりと海里の顔を覗き込むと、いつになく真剣な面持ちで俺を見つめている。
 だから俺は「どこへ?」というボケを忘れてしまった。
「――え?」
 キーンコーンカーンコーン。
 次の授業のチャイムは、別の何かが始まる合図のように聞こえた。