「本当は俺のことも笑ってたんだろ? いい歳して親の脛を齧ってるって。たかが高卒女の社長ごっこで、親父にちょっと褒められたくらいで態度デカくしてさ」

「ま、待って。そんなこと思ってないわよ」

「嘘だな。セフレと遊びまくってるのも、男なのに性欲のない俺への当てつけだろ」

「違う!」

 短い期間ながらも一緒に暮らしてきたというのに、私は今まで、翔の何を見てきたのだろう。
 彼は別世界の恵まれた人間じゃなかった。全方位にコンプレックスを持つ男だった。

 人間の感情が複雑だってことを、私達はいつも忘れてしまう。自分の心の内を覗けば、すぐに気付けるのに。

――本当は似た者同士だったのかもね、私達。

 今の私が翔に対して感じるのは、ただただ悲しみだけ。
 全部、私が間違っていたわ。改めてそう思った。


 翌日、私は謝罪のために安井の部屋を訪れた。
 あの時の安井が思わせぶりなことを言ったとはいえ、勘違いした私は彼女に迷惑を掛けてしまった。直接謝るべきだろう。
 それと……私は誰かに、今まで起こったことを全て打ち明けたかった。友達はたくさんいたはずなのに、今回の事態を相談出来そうなのは安井だけだったのだ。

「意外だね。美奈ちゃんの方から会おうって言い出すなんて」

 ニヤリと笑いながら、安井は私を部屋に入れ、紅茶とお菓子でもてなした。

「まあね。でも、安井も観たでしょ? あの動画」

「観たよ。昨日電話で言ってたのは、このことだったんだね」

 安井は今回の件については、本当に知らないようだ。全く、紛らわしい発言をするんだから。

「そう。もう犯人も分かったわ」

「へえ、早いね。美奈ちゃんの知ってる人?」

「……そうよ。今日は、あんたに話を聞いてもらいたくて来たの」

 恥ずかしいけど、正直に告げる。
 すると安井は目をしばたたかせてから、嬉しそうに言った。

「いいよ。だって、桃は美奈ちゃんの友達だもん」

 イラッとする態度だけど、実際、私の友達ってこいつだけなのかもね。
 私はため息を吐いてから、安井に今まであったことを話した。


「ふうん、それは大変だったね」

 真面目な顔で私の話を全て聞いてから、安井はそう感想を漏らした。

「ええ、ショックだったわ。でも、仕方ないわよね。自分でも、meeとしての振る舞いは調子に乗ってたと思うし。翔に憎まれても文句言えないわ。あれから話し合って、もう彼とは縁を切って、meeも辞めることにした」

「へえ。でもさ、」

 安井は何故か口元に笑みを浮かべると、私の目を覗き込んでぽつりと言った。

「今の話には変なところがあるね?」