「うん。今の内容で動画を出す。翔に迷惑は掛けないつもりよ。あなたなら一人でもやっていけるもの。私に騙された不幸な男を演じてくれて構わないわ」
「俺はともかく、美奈はそれでいいのか?」
「ええ。聞いたでしょ、今の。初めから私には無理な世界だったのよ」
「そうか……」
そのまま黙り込んでしまった翔に、胸が痛む。
と、私のスマホがメッセージの着信を知らせた。安井からだ。
酷いことをされたけど、考えようによっては、彼女に感謝して良いのかもね。私は苦笑しながら画面を見た。
「えっ?」
そこに表示されていたメッセージ。
『ちょっとは落ち着いた? よく分かんないけど、さっきの動画とか悪口とかは、桃がやったんじゃないよ。一応、証拠を送っとく。無事に解決するといいね』
送られてきた写真を見る。メンズコンカフェらしき場所での、安井とコスプレした男性とのツーショット写真。キャストの誕生日イベントらしく、大きなホールケーキを前にしている。
続けて、安井からURLも送られてきた。タップすると、メンズコンカフェのサイトに飛んだ。写真の誕生日イベントについて書かれている。開催されたのは、安井と原画展に行った日の夜だ。
店の場所を確認すると、安井と別れた駅からは離れていた。移動時間を考えれば、安井が私を隠し撮りするのは不可能というわけだ。
――じゃあ、犯人は誰なの?
思いもよらない事実に、背筋が寒くなった。
「美奈、どうした?」
心配そうな翔の声に、ハッと顔を上げる。
「あ、えっと……」
「疲れたのか。そりゃそうだよ。美奈がマニアックなアニメを楽しむような子だとは思わなかったけど、今まで無理してたんだな」
「……」
「ちょっと休んだら、これからどう動くか詰めよう」
ああ。さっきは言わなかったけど。
私はこの違和感を無視出来ない。
「ねえ、翔」
「ん?」
「どうして、私がアニメの原画展に行ったのを知ってるの?」
そうよ。昨日の私は、翔に「友達と遊びに行く」としか言ってなかった。
それなのに、さっきから、翔は私が百合アニメのイベントに出掛けたことを話題に出している。
「……」
目を見開いて固まる翔。
一方で、私の頭は素早く回転を始める。
昨日の私の予定を知っているのは、安井を除けば翔だけだ。私は原画展に行くことについて、SNSで発信していないのだから。
言い換えるなら、昨夜、私を正確に尾行出来たのは、安井を除けば翔だけだ。
実家に帰ると言ったのは、私を油断させるため。実際は、出掛けた私の後をこっそりと付けていた。そう考えれば辻褄が合う。
「私を隠し撮りしたのは、翔なの?」
恐る恐る聞くと、翔は短く息を吐いてから答えた。
「違うって言っても、信じなさそうな顔だな」
「してない証拠があるなら、信じるけど」
すると翔は、考えを巡らせるように俯き、顎に指を当てる。
「……してない証拠なんて、無いよ。昨日は結局誰とも会ってないから、アリバイだっけ? そういうのも無いし。じゃあ、俺が犯人ってことか」
「何よ、その言い方」
戸惑いと悲しみ、怒りの感情がないまぜになって私を飲み込む。
翔が犯人だなんて、信じたくない。誰かに憎まれても、彼だけは私の味方だと思っていたのに。
翔の目付きが変わる。蔑むようにじろりとこちらを睨んでから、私を拒絶する言葉を吐き出した。
「偽者の自分を捨てる、いい機会じゃないか。今回のことがなくても、きっとこの先、誰かが美奈を陥れていたよ。君はいつだって相手をランク付けして、相当性格が悪かったからな。憎まれて当然だよ」
「な……」
そういう風に思われていたなんて。正直、誰かに中傷動画を上げられたことよりもショックだった。
「俺はともかく、美奈はそれでいいのか?」
「ええ。聞いたでしょ、今の。初めから私には無理な世界だったのよ」
「そうか……」
そのまま黙り込んでしまった翔に、胸が痛む。
と、私のスマホがメッセージの着信を知らせた。安井からだ。
酷いことをされたけど、考えようによっては、彼女に感謝して良いのかもね。私は苦笑しながら画面を見た。
「えっ?」
そこに表示されていたメッセージ。
『ちょっとは落ち着いた? よく分かんないけど、さっきの動画とか悪口とかは、桃がやったんじゃないよ。一応、証拠を送っとく。無事に解決するといいね』
送られてきた写真を見る。メンズコンカフェらしき場所での、安井とコスプレした男性とのツーショット写真。キャストの誕生日イベントらしく、大きなホールケーキを前にしている。
続けて、安井からURLも送られてきた。タップすると、メンズコンカフェのサイトに飛んだ。写真の誕生日イベントについて書かれている。開催されたのは、安井と原画展に行った日の夜だ。
店の場所を確認すると、安井と別れた駅からは離れていた。移動時間を考えれば、安井が私を隠し撮りするのは不可能というわけだ。
――じゃあ、犯人は誰なの?
思いもよらない事実に、背筋が寒くなった。
「美奈、どうした?」
心配そうな翔の声に、ハッと顔を上げる。
「あ、えっと……」
「疲れたのか。そりゃそうだよ。美奈がマニアックなアニメを楽しむような子だとは思わなかったけど、今まで無理してたんだな」
「……」
「ちょっと休んだら、これからどう動くか詰めよう」
ああ。さっきは言わなかったけど。
私はこの違和感を無視出来ない。
「ねえ、翔」
「ん?」
「どうして、私がアニメの原画展に行ったのを知ってるの?」
そうよ。昨日の私は、翔に「友達と遊びに行く」としか言ってなかった。
それなのに、さっきから、翔は私が百合アニメのイベントに出掛けたことを話題に出している。
「……」
目を見開いて固まる翔。
一方で、私の頭は素早く回転を始める。
昨日の私の予定を知っているのは、安井を除けば翔だけだ。私は原画展に行くことについて、SNSで発信していないのだから。
言い換えるなら、昨夜、私を正確に尾行出来たのは、安井を除けば翔だけだ。
実家に帰ると言ったのは、私を油断させるため。実際は、出掛けた私の後をこっそりと付けていた。そう考えれば辻褄が合う。
「私を隠し撮りしたのは、翔なの?」
恐る恐る聞くと、翔は短く息を吐いてから答えた。
「違うって言っても、信じなさそうな顔だな」
「してない証拠があるなら、信じるけど」
すると翔は、考えを巡らせるように俯き、顎に指を当てる。
「……してない証拠なんて、無いよ。昨日は結局誰とも会ってないから、アリバイだっけ? そういうのも無いし。じゃあ、俺が犯人ってことか」
「何よ、その言い方」
戸惑いと悲しみ、怒りの感情がないまぜになって私を飲み込む。
翔が犯人だなんて、信じたくない。誰かに憎まれても、彼だけは私の味方だと思っていたのに。
翔の目付きが変わる。蔑むようにじろりとこちらを睨んでから、私を拒絶する言葉を吐き出した。
「偽者の自分を捨てる、いい機会じゃないか。今回のことがなくても、きっとこの先、誰かが美奈を陥れていたよ。君はいつだって相手をランク付けして、相当性格が悪かったからな。憎まれて当然だよ」
「な……」
そういう風に思われていたなんて。正直、誰かに中傷動画を上げられたことよりもショックだった。


