翔がイライラとした口調で言った。

「明らかな違反だから、動画は削除されると思う。でも、犯人の目的はmeeを貶めることだろうからな。実際、meeのイメージダウンは避けられないし、既に俺達を非難する声もある。何か対応しないと」

 自分のスマホを手に取ると、通知件数がすごいことになっている。きっと、いや、確実に、良い内容の通知じゃないんだろう。
 目の前が真っ暗になった。自分の生きていた世界が、急に無くなってしまったようだ。
 meeとしての活動中、何度も嫌な思いをしてきた。でも、今回の動画は悪質さが違う。自身のアイデンティティまで壊れてしまいそうだった。

「あ」

 ふと、気付く。

「安井!! あいつの仕業だ!!」

 そうだ。私は昨日、安井と行動を共にしていたのだ。あいつなら、私の跡を付けて動画を撮ることが出来る。
 私はスマホを手に取ると、震える指で安井に電話を掛けた。三コールで相手が出る。

「美奈ちゃん?」

「安井、あんた、何てことしてくれたのよ!!」

 興奮して上げた声が裏返った。

「え、何のこと? どうかしたの、美奈ちゃん?」

 予想に反してのんびりとした安井の応答に、余計に怒りが込み上げる。

「昨日の夜、私の動画撮ったでしょ!! 悪口まで書いて!! もうmeeはおしまいよ、全部あんたのせいよ!!」

 思いの丈をぶちまけると、ちょっとの間、沈黙が訪れた。
 そして、安井の静かな声が私の耳に入ってくる。

「仕方ないよ。だって、meeは虚像なんだもん」

「は……?」

「いつかは消えちゃう運命ってこと。その寿命が縮まったってだけだよ。じゃあね」

 プツリと。呆気なく電話が切れる。
 私は言われたことの意味が分からなくて、頭の中がぐちゃぐちゃになった。

「美奈」

 ぼんやりと視線を向けると、初めて見る翔の焦った顔があった。

「犯人を捕まえるのは後だ。すぐに謝罪動画を撮ろう。上手いこと、meeと俺のイメージを回復させてほしい」