虚像(きょぞう)。
1.平面鏡や凹レンズなどで発散した光を逆向きにたどって見える物の像。
2.真実を伝えてはいない人物像など。
「ムカつくこと言ってくれるじゃないの、あのブス」
誰もいないエレベーターの中で、スマホの検索結果を見た私はそう吐き捨てる。
東京に戻った私は、プロデュースするアパレルブランドの打ち合わせに来ていた。
「おっはよ~」
会議室のドアを開けて明るく挨拶すると、女性社員たちが「meeさ~ん、おはようございまぁす!」と笑顔で出迎えてくれた。
「私がいない間、素材確認任せちゃってごめんね」
手を合わせて謝ると、キラキラと可愛くてお洒落な女の子たちは、「大丈夫ですよぉ」「全部問題ありませんでした」と優しく応じる。
――どっかの自己中なデブとは大違いよね。
そう思うことで、私は安井の放った「虚像」という言葉を頭の中から打ち消した。
自宅は近場にあるタワーマンションなので、オフィスからは徒歩圏内だ。私はタクシーに乗っちゃうけどね。
「ただいま~」
二人暮らしにしては広いリビングダイニングに入ると、キッチンにいた翔が「おかえり」と微笑んでくれた。
「翔はこれから昼ごはん?」
「そう。俺もさっきまで動画の編集してたから。美奈の分もあるよ」
「ありがと、助かるよ。何頼んでくれたの?」
恋愛関係にないビジネス彼氏との同居生活。殺伐としてるように思われるかもしれないけど、実際のところ、フェイク彼氏・佐藤翔との仲は良好だ。
ブランド物好きで見た目は派手だけど、穏やかな性格をしている。私の五歳上なのに、少しも偉そうなところがない。
ダイニングテーブルに向かい合って座り、近所のカフェから宅配されたばかりのサンドイッチやサラダをお供にお喋りする。
「美奈。今日もあの女から変なDM来た」
「ヤバ。完全にストーカーだよね。翔のお父さんに頼んだら、弁護士とか紹介してくれるんじゃない?」
「別にいいよ。住所も特定されてないし」
そう言って、翔は「ほんっと、女にはうんざりだ」とため息を吐いた。
「ちょっとちょっと。私も女なんだけど」
自分の顔を指差して苦笑すると、「美奈は男気が溢れてるからなぁ」と失礼な言葉が返ってくる。褒め言葉なのは分かってるけどさ。
「美奈はこれから友達と遊びに行くんだっけ?」
「んー……どうしよっかな」
安井との約束は今日の午後。別にドタキャンしてもいいんだけど。
「行ってきなよ。昔の友達は大事にした方がいいって」
キラキラ人生を歩んできた翔には、分からないんだろうな。友達に確固たるランク分けがあるってこと。
「でも、華やかな予定じゃないからSNSには上げないよ?」
「別にいいんじゃない? そういう予定があったって。それなら俺も、今日は実家帰ろうかな」
翔は恋愛に興味がなく、男友達や家族と会う方が楽しいらしい。それなのに、彼の容姿と経済力は女性達を放っておかない。レズビアンの私は、翔の女除けにぴったりというわけだ。
私としても、翔……いや、翔のお父さん・遼さんの持つ経営基盤は利用したい。実は私のアパレルブランドは、遼さんの会社がプロデュースしているのだ。
翔も自分の会社を経営していて、ビジネス系YouTuber・SSとして活動中。だけど、本当は贅沢する程の稼ぎはない。あまり働かずに豪華な暮らしが出来ているのは、全部遼さんのおかげってわけ。
ま、誰にも言わないけどね。
1.平面鏡や凹レンズなどで発散した光を逆向きにたどって見える物の像。
2.真実を伝えてはいない人物像など。
「ムカつくこと言ってくれるじゃないの、あのブス」
誰もいないエレベーターの中で、スマホの検索結果を見た私はそう吐き捨てる。
東京に戻った私は、プロデュースするアパレルブランドの打ち合わせに来ていた。
「おっはよ~」
会議室のドアを開けて明るく挨拶すると、女性社員たちが「meeさ~ん、おはようございまぁす!」と笑顔で出迎えてくれた。
「私がいない間、素材確認任せちゃってごめんね」
手を合わせて謝ると、キラキラと可愛くてお洒落な女の子たちは、「大丈夫ですよぉ」「全部問題ありませんでした」と優しく応じる。
――どっかの自己中なデブとは大違いよね。
そう思うことで、私は安井の放った「虚像」という言葉を頭の中から打ち消した。
自宅は近場にあるタワーマンションなので、オフィスからは徒歩圏内だ。私はタクシーに乗っちゃうけどね。
「ただいま~」
二人暮らしにしては広いリビングダイニングに入ると、キッチンにいた翔が「おかえり」と微笑んでくれた。
「翔はこれから昼ごはん?」
「そう。俺もさっきまで動画の編集してたから。美奈の分もあるよ」
「ありがと、助かるよ。何頼んでくれたの?」
恋愛関係にないビジネス彼氏との同居生活。殺伐としてるように思われるかもしれないけど、実際のところ、フェイク彼氏・佐藤翔との仲は良好だ。
ブランド物好きで見た目は派手だけど、穏やかな性格をしている。私の五歳上なのに、少しも偉そうなところがない。
ダイニングテーブルに向かい合って座り、近所のカフェから宅配されたばかりのサンドイッチやサラダをお供にお喋りする。
「美奈。今日もあの女から変なDM来た」
「ヤバ。完全にストーカーだよね。翔のお父さんに頼んだら、弁護士とか紹介してくれるんじゃない?」
「別にいいよ。住所も特定されてないし」
そう言って、翔は「ほんっと、女にはうんざりだ」とため息を吐いた。
「ちょっとちょっと。私も女なんだけど」
自分の顔を指差して苦笑すると、「美奈は男気が溢れてるからなぁ」と失礼な言葉が返ってくる。褒め言葉なのは分かってるけどさ。
「美奈はこれから友達と遊びに行くんだっけ?」
「んー……どうしよっかな」
安井との約束は今日の午後。別にドタキャンしてもいいんだけど。
「行ってきなよ。昔の友達は大事にした方がいいって」
キラキラ人生を歩んできた翔には、分からないんだろうな。友達に確固たるランク分けがあるってこと。
「でも、華やかな予定じゃないからSNSには上げないよ?」
「別にいいんじゃない? そういう予定があったって。それなら俺も、今日は実家帰ろうかな」
翔は恋愛に興味がなく、男友達や家族と会う方が楽しいらしい。それなのに、彼の容姿と経済力は女性達を放っておかない。レズビアンの私は、翔の女除けにぴったりというわけだ。
私としても、翔……いや、翔のお父さん・遼さんの持つ経営基盤は利用したい。実は私のアパレルブランドは、遼さんの会社がプロデュースしているのだ。
翔も自分の会社を経営していて、ビジネス系YouTuber・SSとして活動中。だけど、本当は贅沢する程の稼ぎはない。あまり働かずに豪華な暮らしが出来ているのは、全部遼さんのおかげってわけ。
ま、誰にも言わないけどね。


