9月の終わり。テスト週間が始まり、部活はしばらく休みになる。放課後になると、校舎の廊下には、いつもより静かな空気が漂っている。その中で、上戸の心は明らかに弾んでいた。
「よし、今日こそ本気で勉強すっか!」
田中が両手で拳を握り意気込む。いつものことだ。
「お前、毎回言ってるけど、本気出してるとこ見たことねぇわ」
鈴木が笑いながら突っ込むと「今日は違う!」と田中は眉を寄せて口を尖らせた。上戸、中原、田中、柚月、鈴木。5人で約束して、田中の家でテスト勉強をするために、一緒に帰ることになっていた。校舎を出て歩き出すと、田中と鈴木がガヤガヤしながら並び、田中の隣には、彼らを見守る笑顔の柚月。上戸は中原とその後ろについた。いつもなら人ひとり分空けて隣を歩いていたが、つきあってからは変わった。ほんの数センチ、いつでも手が繋げる距離。
「つーかさ、中原と上戸、なんか最近いい感じじゃね?」
ふと、田中が振り返った。
「……え? 何が?」
上戸がとぼけると、彼はニヤリと白い歯をちらつかせた。
「いや、お前ら最近、ふたりでいること多くね? なんか隠してね? そして近くね?」
テストが終わってから話そうとは思っていたが、どうしようか。すると、横に立つ中原が口元を緩め、ふっと息を漏らした。彼女が静かに笑みを浮かべながらこちらを見上げる。それに応えるように、上戸も頷いた。
「うん。実は俺と中原、つき合ってるんだ」
一瞬の沈黙。
「マジかー!!」
田中の大声が、路上に響いた。彼は目玉がこぼれ落ちそうなくらい、大きく見開いている。
「田中くん、声大きいよっ」
近所迷惑を考えてか、柚月が困り顔で彼の制服の袖を掴んで引っ張った。5人で慌ててその場を移動する。
「やっぱりな! お前ら怪しいと思ってたんだよ!」
「うわ、マジでか。俺、ぼっちじゃん……」
いろいろ腑に落ちたのだろう。田中は後ろ向きに歩きながら何度も首を上下させ、納得の様子だ。対して鈴木が、しょんぼりと肩を落とす。
「大丈夫、鈴木くんはそのうちいい子見つかるって!」
柚月がフォローしながら朗らかに笑った。そして、騒がしい空気の中、中原の隣に移動し、彼女にだけ聞こえるように囁いた。
「……本当に、ふたりがつき合ってよかった。中ちゃん、ずっと上戸くんのこと好きだったもんね」
その柔らかな笑顔に、空気が一瞬ふわっと柔らかくなる。中原も小さく頷き、目を細めた。
「うん。ありがとう、柚月。ずっと応援してくれて。ほんと私、信じられないくらい、幸せだなって思う」
夜。上戸は翌日の支度を済ませ、ベッドに転がっていた。勉強会は田中からの根掘り葉掘りの質問攻めでなかなか進まなかったが、柚月がしっかり取り仕切り、なんとか有意義な時間にできた。彼らに報告もできたし、いい1日だったと思う。充電していたスマホを手に取り、メッセージアプリを開く。そして、恋人にメッセージを打つ。最近の日課だ。
『今日はいろいろ教えてくれてありがとう』
すぐに既読がつき、返事が来る。
『私も化学はかなり助けられたよ、ありがとう』
『中原と一緒だと、毎日が楽しいよ』
『私も』
『また明日」
『またね』
最後におやすみのスタンプを送り合う。ほんの数分のやり取りで、いつも心が温かくなる。誰かを好きになるって、こんなに満たされるんだ。中原を好きになって本当によかった。できるだけ長く、この幸せが続いてほしい。上戸は、ついに始まった初恋の幸福感に包まれながら、そっと目を閉じた。
「よし、今日こそ本気で勉強すっか!」
田中が両手で拳を握り意気込む。いつものことだ。
「お前、毎回言ってるけど、本気出してるとこ見たことねぇわ」
鈴木が笑いながら突っ込むと「今日は違う!」と田中は眉を寄せて口を尖らせた。上戸、中原、田中、柚月、鈴木。5人で約束して、田中の家でテスト勉強をするために、一緒に帰ることになっていた。校舎を出て歩き出すと、田中と鈴木がガヤガヤしながら並び、田中の隣には、彼らを見守る笑顔の柚月。上戸は中原とその後ろについた。いつもなら人ひとり分空けて隣を歩いていたが、つきあってからは変わった。ほんの数センチ、いつでも手が繋げる距離。
「つーかさ、中原と上戸、なんか最近いい感じじゃね?」
ふと、田中が振り返った。
「……え? 何が?」
上戸がとぼけると、彼はニヤリと白い歯をちらつかせた。
「いや、お前ら最近、ふたりでいること多くね? なんか隠してね? そして近くね?」
テストが終わってから話そうとは思っていたが、どうしようか。すると、横に立つ中原が口元を緩め、ふっと息を漏らした。彼女が静かに笑みを浮かべながらこちらを見上げる。それに応えるように、上戸も頷いた。
「うん。実は俺と中原、つき合ってるんだ」
一瞬の沈黙。
「マジかー!!」
田中の大声が、路上に響いた。彼は目玉がこぼれ落ちそうなくらい、大きく見開いている。
「田中くん、声大きいよっ」
近所迷惑を考えてか、柚月が困り顔で彼の制服の袖を掴んで引っ張った。5人で慌ててその場を移動する。
「やっぱりな! お前ら怪しいと思ってたんだよ!」
「うわ、マジでか。俺、ぼっちじゃん……」
いろいろ腑に落ちたのだろう。田中は後ろ向きに歩きながら何度も首を上下させ、納得の様子だ。対して鈴木が、しょんぼりと肩を落とす。
「大丈夫、鈴木くんはそのうちいい子見つかるって!」
柚月がフォローしながら朗らかに笑った。そして、騒がしい空気の中、中原の隣に移動し、彼女にだけ聞こえるように囁いた。
「……本当に、ふたりがつき合ってよかった。中ちゃん、ずっと上戸くんのこと好きだったもんね」
その柔らかな笑顔に、空気が一瞬ふわっと柔らかくなる。中原も小さく頷き、目を細めた。
「うん。ありがとう、柚月。ずっと応援してくれて。ほんと私、信じられないくらい、幸せだなって思う」
夜。上戸は翌日の支度を済ませ、ベッドに転がっていた。勉強会は田中からの根掘り葉掘りの質問攻めでなかなか進まなかったが、柚月がしっかり取り仕切り、なんとか有意義な時間にできた。彼らに報告もできたし、いい1日だったと思う。充電していたスマホを手に取り、メッセージアプリを開く。そして、恋人にメッセージを打つ。最近の日課だ。
『今日はいろいろ教えてくれてありがとう』
すぐに既読がつき、返事が来る。
『私も化学はかなり助けられたよ、ありがとう』
『中原と一緒だと、毎日が楽しいよ』
『私も』
『また明日」
『またね』
最後におやすみのスタンプを送り合う。ほんの数分のやり取りで、いつも心が温かくなる。誰かを好きになるって、こんなに満たされるんだ。中原を好きになって本当によかった。できるだけ長く、この幸せが続いてほしい。上戸は、ついに始まった初恋の幸福感に包まれながら、そっと目を閉じた。
