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瑞貴はその日から、空き教室どころか、学校に行くことを躊躇うようになった。
過去のトラウマが蘇らないようにと、両親の顔色を伺って朝だけクラスに顔を出してすぐ帰宅する毎日。処方された睡眠薬が以前よりも効かなくなり、ついには一睡もできない日が現れた。しかし、薬が効かない以外にも眠れない一番の要因は、ぐっすり眠ることで晴と夢の中で会ってしまうことだ。
(眠りたい、けど会いたくない……!)
あの日以来、晴とは会っていない。連絡先はおろか、在籍しているクラスも知らない相手だからこそ幸いしているが、もし彼女が、瑞貴が周囲から信用されなくなった一件に関わっていると思うと、どうしても会いたくなかった。
(彼女に合わせる顔がない。自分を落とした犯人が僕だったなんて知ったら、もう……)
晴の過眠症は、ジャングルジムからの落下による頭部外傷が原因だと言っていた。それは、瑞貴が濡れ衣を着せられた事故と同じ光景――いや、もしかしたら、落下した当時の少女が菱川晴だという証明かもしれない。
本人はそのあたりの記憶が曖昧のようで、入院後すぐ別の学校へ転校していったと聞いたため定かではないが、ここまで瑞貴の記憶と一致しているのは偶然と呼ぶにはできすぎていた。
悪ふざけで突き落とした人物が咄嗟に瑞貴の名前を挙げられたのは、瑞貴が少女に向けて手を伸ばしていたからだ。それが突き落としたように見えたと言われてしまえば、どんな理由で訴えても誰も信用してはくれないだろう。実際、反論したところで激怒した両親から土下座までさせられ、今もなお「大袈裟にする変な子」だと煙たがられている。
「――っ!」
途端、胸の奥が痛んだ。まるで心臓をぎゅうと、ゆっくりと両手で握り潰される感覚だ。呼吸も苦しくなり、整えようとしても上手く息ができない。次第に胃から何かが上がってきて、その場に吐いてしまった。ここのところ、ろくに食事もとれていなかったこともあって、自室の床に散乱したのは胃液のみだった。
ちょうどそこへ、仕事から帰ってきて様子を伺いにきた父親が自室のドアを開く。惨状を見て顔をしかめ、すぐにリビングにいる母親を呼んだ。母親も同様に怪訝そうな顔で口元を抑え、脇に抱えてきた新聞紙や雑巾を瑞貴にへ投げつけた。
「俺の家に住まわせてやっているんだ。さっさと片付けろ!」
「質の悪い風邪だったら承知しないわよ!」
両親にとって、息子のことなどどうでもいいのだろう。心配するような素振りを見せることは一切なく、大きな音を鳴らして隔てるドアを閉められる。
それはどこか、拒絶にも似ていた。



