晴の重度の過眠症は、他に事例がないものらしい。多くは十六~二十時間ほど眠り込んでしまうものの、晴の場合は丸二日眠ってしまうケースもあるそうで、どの病院で検査をしても原因も解決の糸口も見つかっていない。
眠っている間の意識はほとんどないものの、他人の夢に入り込むことができることがわかったのは、つい最近のこと。家族は承知しているものの、初対面である瑞貴の夢にまで入れるとは思わなかったそうだ。
「夢を見るのは、心にも身体にも良い効果をもたらす可能性があるんだって。だから良いことなんだよ」
自慢げに話す晴の前には、授業で宿題として出された数学のプリント。対面側に座る瑞貴は「ふーん」と雑な相槌を打って次の問題へ取り掛かる。
いつの間にか、日中や放課後を問わずに空き教室に集まるようになった二人は、無駄口を叩きながら互いに抱えている睡眠障害について共有していた。
「薬なんて頼らずに眠れたら、どれほど楽だろうな」
何気なく発した瑞貴の一言に、晴は問題を解く手を止め、眉をさげた。
「私の過眠症はね、頭部外傷がきっかけで反復性過眠症から重症化したものなの」
「頭部?」
瑞貴が繰り返すと、晴は自分の頭にそっと触れながらさらに続ける。
「小学生の頃……十歳とかだったかな。友達とジャングルジムで遊んでいた時に、故意か過失か、誰かに押されて落ちたの。その時に頭部にできた傷が原因で、私は重度の過眠症を患うことになった」
その時の記憶はほとんど覚えていないんだけどね、と困ったように笑う。
瑞貴はその表情を見て、過去に押し込んだトラウマが顔を覗かせた気がした。自分が家族からも周囲からも悪者扱いをされた、あの時の記憶。
晴はさらに続けた。
「最近、眠る時間がどんどん長くなっていてね、ついこの間、検査したら脳に異常が見つかって、いつ永遠の眠りついてもおかしくないんだって」
「……それって」
間接的に死の予告をされたことと変わらない。
(なんで羨ましいなんて思ったんだろう)
消えたいと思ったが、死にたいとは思わない。そんな軽々しく口にしていた自分が恥ずかしい。
そんな瑞貴を他所に、晴は哀しそうに笑った。
「次に眠ったら一生目覚めないかもしれないと不安になることは、君にとっては贅沢な悩みかもしれないね」



