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反復性過眠症――睡眠障害の一種で、過眠期が不定期に訪れ、昼夜問わず十六~二十時間ほど眠り込んでしまう珍しい病気だ。
(……眠れるなんていいな、なんてただの嫌味か)
帰宅後、瑞貴は教師から聞いた晴の病状を反芻していた。自分とは正反対な晴の症状は、薬に頼らなければ眠れない瑞貴にとって喉から手が出るほど羨ましいものだ。
ただ、それと同時に周囲から理解を得にくいものだとも思った。いくら医師から病気と診断されていても、知らない人が見ればそれは「怠けている」と見えてもおかしくはない。瑞貴の不眠症と同じように。
(正反対の似た者同士か……)
そんな戯言を考えながらぼうっと天井を見つめていると、廊下からパタパタとスリッパを鳴らしてこちらにやってくる音が聞こえてきた。瑞貴が顔を向けたと同時に部屋のドアが開く。
「瑞貴! また学校から連絡があったんだけど!」
入ってきたのは母親だった。仕事着であるパンツスーツ姿に、額にはうっすらと汗をにじませている。どうやら急いで帰ってきたらしい。そういえば、担任から一応、晴が倒れた場に居合わせた際にパニックを起こしていたから連絡を入れるとは言われていたのを思い出した。
「あなた、今度は何をしたの? またご迷惑をかけていないでしょうね?」
「……先生から連絡がきたんだから、聞いているんじゃないの?」
「懇切丁寧に説明されたけど、あなたのことだから迷惑をかけたんでしょう。本当に大袈裟な子ね。昔からずっとそうだけど、もう高校生なんだし、私達の手を煩わせないでくれるかしら?」
昔から――トラウマでもある母親の言葉に、瑞貴は視線を逸らした。
睡眠障害を引き起こすきっかけとなった小学生の頃、友人数名で一緒に遊具で遊んでいた際、一人が悪ふざけで同級生の少女をジャングルジムの上から突き落としたのだ。少女は救急車で運ばれ、頭を縫う大怪我を負った。少女がどうなったかは定かではない。
その際、悪ふざけをした一人が事の重大さに気付き恐れると、「瑞貴に言われてやった」と責任転嫁した。もちろんすぐに否定したが、世間体を気にする両親は激怒。頭を下げた分、瑞貴を罵倒するようになった。以来、彼は両親の八つ当たりの的となっている。
それくらいなら、まだ耐えられた。
今日の一件で担任が母親に事情を説明したのは、瑞貴のメンタルケアのためだ。幼い頃からの不健康な生活、八つ当たりばかりの家庭環境の悪さ――ネグレクトと言われても遜色がないほど、この家庭は壊れていた。
(早くどっか行ってくれないかな……ああ、僕がいなくなればいいんだ)
母親がずっと上げる金切り声が、次第にぼんやりとした音となって頭から抜けていく。感情が無になっていく一方で、胸の奥がずっしりと重みがかかった。



