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 瑞貴は学校で授業を受けてもすぐにふらっとどこかに行ってしまうため、問題児扱いされていた。実際は睡眠不足が原因で頭が働かないため、空き教室にいるだけなのだが、誰にどう説明しても受け入れてもらえない。

 十歳の頃、あるきっかけで睡眠薬を使用しなければ眠れない体質になってしまった。
 両親はただのサボりたがりだと言って相手にしなかったが、ついに学校で倒れ、病院に搬送されてようやく自身が睡眠障害であることが発覚した。今では月に一度のカウンセリングと、睡眠薬を処方されている。
 小中学校まではなんとか誤魔化してこられたが、高校生になってより不眠が長引くようになった。保健室で休むことも考えたが、眠れないのであれば意味がない。加えて、通う頻度が増えれば両親に連絡されてしまう。それだけは避けたかった。
 瑞貴の行動に疑問を抱いた担任教師に事情を聞かれて正直に話すと、一日に一回だけ空き教室に行くことを許可された。唯一、瑞貴の話を聞いてくれる人物ではあるものの、優遇されているわけではないので、それ相当の結果を出さなければならない。ハードルはより高くなった。

 今日も数時間は教室で座学を受けていたが、次第に頭がぼうっとしてきた。集中するどころか、周囲の音もぼんやりとしか聞こえてこない。たまらず授業が終わると、すぐに空き教室に向かう。途中でペットボトルの水を自販機で購入する。薬を飲むためだ。
 空き教室は埃臭くて、奥に備品が積み重なって置かれていることもあって使われる事はない。近くの席に座ると、内ポケットに入れていたプラスチックケースを取り出す。一見ラムネのように見えるが、もちろん中身は睡眠薬だ。これがあればいくらか眠ることができる。十分だけでも眠れたらそれでいい。規定量の二錠を口に入れ、ペットボトルの水で一気に流し込む。

(……念のため、もう一回分)

 昨晩だって、三日分相当の睡眠薬を飲んだのに眠りは浅く、一時間にも満たなかった。自分が過剰摂取(オーバードーズ)していることは十分理解しているものの、四六時中持っていなければ不安になる。精神が不安定になるほうが、瑞貴にとって一大事だ。
 プラスチックケースから一回分の二錠を取り出して、躊躇いなく飲み込む。買ったばかりのペットボトルの水はもう半分以下になっていた。
 今は授業中で、校内が賑やかになる昼休みまで二時間はある。机に突っ伏すようにして瑞貴は目を閉じた。