「――またか」
芦屋瑞貴は、気が付いたら夜が更けていたということがよくある。今日もベッドの上で毛布にすっぽり包まって数時間が経過しても、眠気は一向に訪れずにいた。
できることはすべて尽くし、規則正しい生活を送っているはずだった。眠いという感覚も確かにある。しかし、目を瞑った直後に浮かぶ、過去に犯した失敗した記憶がよぎって、怒りや後悔といったもやもやとした感情が自身覆いつくしていくのだ。ああしたらよかった、こうしたらよかった。腹の底からむかむかして、吐き気まで催した。
ベッドサイドに置いたスマートフォンを見ると、深夜一時を回ったところ。二十二時に布団に入ったにもかかわらず、グダグダとベッドの上で三時間も何をしていたんだろう。
(やっぱり駄目か)
瑞貴は起き上がると、一階のリビングに向かう。ちょうど仕事から帰ってきた両親が遅い夕食を取っていた。一人先に休んでいた瑞貴を見て怪訝そうな顔をするのもすっかり慣れたものだ。
「……水、もらうね」
「瑞貴、おかえりくらい言えないの?」
「放っておけ。また夜中に目を覚ましたんだ、きっと朝になったら忘れているよ」
「でもあなた、やっぱり気味が悪いのよ。急に眠れなくなるなんて、おかしな話じゃない?」
「ただのゲームのしすぎじゃないか? 罰が当たったんだ」
両親の会話を聞き流しながら、コップに水を汲んで静かにリビングを出る。彼らは瑞貴の不眠症を大事に捉えられていない。嫌味にも心配にも聞こえるそれは、今の瑞貴にとっては苛立ちが溜まっていく原因と化していた。
(気にしない、気にしない……)
部屋に戻ると、机の引き出しから小分けに仕切られたプラスチックケースを取り出した。中には錠剤が入っており、取り出す時にがらがらと音が鳴る。同じ引き出しには、病院から処方された睡眠薬の袋が丁寧に折りたたまれて保管されており、薬物の名前が表記されている。「一度の使用につき二錠」と定められており、瑞貴はそれを一日分ごとに分けて保管している。
しかし、今日は三日分となる六錠を手のひらに載せると一気に煽った。喉に留まる前にコップの水を流し込み、ごくりと飲み込む。異物が喉を通っていく違和感に顔をしかめるも、すぐにベッドに横になり、毛布に包まった。
今度こそ眠れますように――そんな願いを込めて目を閉じた。



