彼女が、安らかに眠れますように


 ◇

 その日から、瑞貴は何度も夢の中に飛ぼうとした。
 昏睡状態ということは、外側からの刺激には一切反応しない状態――つまり、内側から何かしたらのコンタクトがあれば、意識を取り戻す可能性があるかもしれない。
 助けたかったわけじゃない。あの日空振りした手をもう一度掴み、引っ張り上げたかったわけじゃない。このまま彼女が現実世界(リアル)に戻ってこなければ、夢見が悪いからだ。
 瑞貴は規定量の睡眠薬を服用してベッドに潜る。いつもなら何時間後かにやってくる睡魔が、なぜか急に一瞬で意識が落ちるようになってしまった。

(彼女が何かしたのか? いや、そんな超能力的なものがあるわけがないし)

 しかし、立て続けにそれが続くと気味悪くなってきた。意識が落ちるということは、夢の中で晴と会えているのかがわからない。睡眠薬を飲まなければすぐに眠ることもないのではと一度手放してみたものの、かえって飲まなければと無意識のうちに錠剤の入ったプラスチックケースを握りしめている。普通に眠れるようになっているのに、薬が手放せない。

(……ああ、これが頼りすぎた末路か)

 意図せず同じ時間に起き、同じ時間に眠り、次に目覚めると朝になっている――心から望んでいた生活だったはずなのに、薬がなければ生きていけない。過剰摂取によって瑞貴は身体だけでなく、心までも薬に蝕まれていた。

 そうして五日が経った頃、担任の教師に呼び出されると、出席日数が足りていないことを告げられた。

「これから頑張っていこうな」
「はい……すみませんでした」
「それと……これを、芦屋に」

 そう言って差し出されたのは、手のひらサイズの薄緑色の手帳だった。

「これは……」
「菱川の親御さんから、芦屋に渡して欲しいと言われた。過眠期に入る前に、菱川本人から託されたそうだ」

 震える手で受け取る。これは初めて会った時、「いつ眠りについてもいいように」と常に持っていたものだ。

「何が書いてあるんですか?」

 瑞貴の問いに、教師は目を逸らして告げる。

「――遺言、だと聞いている」