彼女が、安らかに眠れますように


 睡眠薬に頼る日々がまた訪れた。規定量を気にすることなく、手のひらに載せた量の分だけ飲み込んで、そのままベッドに横になる。このまま死ねるならそれでもいいと思った。そうすれば両親の元から離れられるだけでなく、晴と顔を合わせる必要もなくなる。夢だってきっと見ることもない、永遠の眠りにつけるんじゃないか。

『次に眠ったら一生目覚めないかもしれないと不安になることは、君にとっては贅沢な悩みかもしれないね』

(ああ、大歓迎だとも)

 いつか、晴が瑞貴に告げた言葉を思い出す。確かに不眠症が転じて精神的にも不安定な自分には、贅沢な悩みだろう。それと同時に、自分には自殺願望がない。結局ないものねだりをしているだけだ。
 今日も気付けば朝を迎えていた。ぼうっとする思考で支度を済ませて家を出る。
 学校に来て教室でホームルームに参加した後は、いつものようにしれっと早退してしまおう。荷物を持ったところで、担任の教師から声をかけられた。

「芦屋、具合はどうだ? ここ数日で随分痩せていないか?」
「さぁ、わからないです。……もういいですか」

 瑞貴がぶっきらぼうに答えると、教師は困ったように眉をひそめた。ここ数日、授業にろくに出ていないこともあって、他の教科担当の教師から指摘されたのだろう。本心は授業に出て欲しいと思っているのは、瑞貴も痛いほど感じていた。
 だがそれ以上に頭が追い付かない。身体が間に合わない。こうなった原因は自分にある。教師のせいではないのだから、放っておいて欲しい。
 すると、担任の教師は絞り出すように言う。

「空き教室に寄ってくれ」

 言われた通りにいつもの空き教室に立ち寄ると、数日ほど来ていないだけで懐かしい気がした。埃の匂い、乱雑に置かれた荷物。狭いスペースで無理やり机と椅子を設置したのも、ずっと昔のようだ。

「……あれ?」

 いつも瑞貴が座っている席に、一枚のメモ帳の切れ端が置かれていることに気付いた。

『眠れない君に、今夜会いに行きます』

 差出人は不明だが、特徴的な文字からして彼女のようだ。手帳を破った一枚を使ったのか、不格好な書き置きだった。

(会いに行く……ということは、もう)

 どうやら瑞貴が不登校気味になって眠りも浅い間に、晴は過眠症の深い眠りに入ってしまったのだろう。そう思うと、彼女が永遠の眠りにつくのも時間の問題なのかもしれない。