明けても醒めても

「それなら、月曜日に会社近くの駅で待ってようか」
「いや、それだとおれが物足りないんで」
「物足りない? 何が?」
「……あー、物足りないのは、おれの問題の話です。すいません」

 ごにょごにょと口ごもる相良くんに、俺は「そうなんだ」としか答えられなかった。

 物足りないって、俺といる時間がもう少しほしいって解釈で合ってるだろうか。ただ単に気遣われてる可能性もある?

 わざわざ訊ねるのは野暮かと思い黙っていると、相良くんは少しの間うつむいてから、まっすぐ俺の目を見た。

「おれの家ってどうですか? 賞味期限が危ういものが冷蔵庫にいくつかあるので、使い切らせてください」

 ほんのり頬を赤らめているのは、誘うことが恥ずかしいのか賞味期限ギリギリのものがあることを気にしていることか。はたまた両方なのか。

 かわいらしい姿に吹き出してしまった。

「……迷惑じゃないなら、お言葉に甘えて明日はお邪魔しようかな」

 意図が読めなくても、嫌悪のある相手を誘ったりしないだろう。そこは自信を持って良さそうだ。

 タイプの相手からの誘いを遠慮できるほど、俺は余裕のある大人ではない。

「楽しみにしてます! あ、この時間からカレーって天野さんどうですか? おれはカレーの気分です」
「いいね、せっかくならナンとのセットとかがいいな」
「いいですね。食べながら続き見て、前作も見て、終わったら映画館行きましょう」

 うん、とうなずいて、スマホ画面をタップしてカレーを検索する。開店時間まではまだ時間があるようで、すぐには届かないらしかった。

「11時半からだから、ちょっと時間かかるけど大丈夫そう?」
「平気です。おれ、社会人になってから休みの日に誰かの家で起きるの久々で、すげーわくわくしてます」

 てか、と口元を覆った相良くんは横目で「期待してもいいですよね?」と言った。朝の日差しを浴びた寝癖姿の彼があまりにも眩しくて、一瞬フリーズしてしまった。

「期待に応えられるか不安でしょうがないよ」
「大丈夫だと思いますよ。できたら酔ってる天野さん、また見たいです」
「俺は遠慮したい」

 何をやらかしたのかは怖くてとても知りたくはない。

 だけど、こんな休みの日を迎えられたのは昨日の夜のおかげということだ。

「また飲みに行きましょう」
「セーブするから、昨日みたいにはならないからな」

 じろりと見つめたところで相良くんには効果がないらしく、クスクスと笑われただけだった。悔しいことにその笑顔を見ていたら、負けてしまいそうだった。

 いや、さすがに記憶は保っていたいけど。