「気を付け。礼」
「さようなら」
三十人弱の生徒が一声に声を出す。その声は,まだ痛む頭へさらなる痛みを与えるには十分だった。
私達二年生は,生活指導の先生の昼学活を潰した説教うけた後,五時間目の授業を受けた。その間も大量の心を見たことによる気持ち悪さは消えなかった。いつもよりもしっかりと下を向いて過ごしていたと思う。不幸中の幸いか,今日は水曜日だったためこの授業が終わったら帰ることが出来た。
まだほとんどの人が友達と話す中,私は逃げるように教室を出る。
私のクラスが終わるのが一番早かったようで廊下には誰も居ない。今朝と同じようにエレベーターへと乗り込み下駄箱まで行く。
「はぁ,はぁ……」
足はまだ痛んでいたはずが,その痛みは今は感じない。周りに誰も居なくなった事で安堵し,上がっていた息を整えた。
数秒そうすると,私は再び動き始める。もう少しそうしていたかったが,そうすると張っていた気がぬけ倒れ込んでしまいそうだったからやめておいた。学校を出ると,私の足は無意識のうちにいつも歩く帰り道とは反対方向へと動いていた。
何でだろう。心を見すぎたから?でもいつもはこんな事にはならない。しっかりと,嫌でも家に帰るはずだ。やっぱり今日の私はなんだか変だ。いつもと違う事をしたと言えば,朝海斗と話した事くらい。海斗と話したせい?
ああ,きっとそうだそうに違いない。そうじゃないと説明がつかないもん。誰かに説明するわけでもない,そんな言い訳を考え私は無我夢中で歩いた。多少帰りが遅くたって今日は親も花梨も遅くまで帰ってこないから問題ない。下を見て,歩く,歩く。足の痛みは感じない。時折足がもつれて転びそうになるが,それでも私の足は止まらない。まるで肉食獣に追われているように,私は逃げていく。現実から。何処にいても人がいて,傷ついているこの現実から。何で傷を負わないといけない?誰も傷つかない世界なんて夢物語。そんなことはわかってる。
けど―――
「家でも…学校でも傷ばっかり見たくなんか無い」
私は歩きながらため息を吐く。こんな弱音誰かに聞かれたりなんかしたら,どうするんだろう。
時間では二十分程度。しかし体感では何日も歩き彷徨った先にあったのは一つの公園だった。見たことのない,廃墟となった家が多くを占める住宅街に隠れるようにしてそこはあった。歩き疲れた私は吸い込まれるようにしてその公園に入って行く。錆びた滑り台に,漕いだら外れてしまいそうなブランコ。そして,唯一まともだと思えるベンチ。私はベンチへと腰を下ろす。
「……」
ここに来てやっと冷静になってくる。何で私はこんな所まで来たんだろう。いつも通りにすれば良かったたのに,なんで逃げたんだろう。私は何から逃げたんだろう。疑問だけが浮かび,答えは何一つも浮かんでこない。ただ分かることは私は心身共になぜか疲れ切っていること。背負っていたリュックを抱え目を瞑る。心地の良い風が頬を撫でてきた。誰も居ない忘れられた公園。私はそこで意識を手放した。

