「翠,頼む!」
「ほら見ろ」
放課後いつもの公園に行くと,海斗が勢い良く私に頼み込んできた。ベンチの端には普段は置いてくる学校用のリュックが置いてある。そうなると頼み事の内容は勿論。
「勉強教えてください!」
「だよね」
期末まで今日で丁度二週間。真面目に勉強をする人は勉強を始めている頃だ。私も二週間前から勉強を始めている。それを知っているから今海斗は今こうして頼んでいるんだろう。
「何教科?」
「あー,全部!」
「まさかの九教科。私の勉強時間は何処に行くの?」
「翠もここで勉強すればいいじゃん」
「机もないこの場所で?」
「そう」
思わず口からため息がこぼれる。少しは自分でやってみようと思わないのか。必死に頭を下げる今の海斗の姿を今朝の陽鞠に見せてやりたい。
「私,勉強道具持ってきてないんだけど」
「今日は俺に教えてくれ!今回の期末でミスったら塾に行かされそうなんだよ」
「いいじゃん塾」
「絶対に行きたくない」
首を振って行きたくないアピールをする海斗に私は苦笑する。
普段なら自分で頑張れと断っているところだが,海斗には最近お世話になってばかりだった。恩返しするにはいい機会なんじゃないか。借りをつくったままにしておくのは私も嫌だし。
「いいよ」
「まじ!」
「うん,最近色々やってくれたしね。それで?何からやるの。言っておくけど数学は無理だからね」
「数学は俺の方が得意だしなー」
「んなわけないでしょ。勉強教えないよ?」
「すみません」
海斗は綺麗なお辞儀をし,リュックから理科のワークを取り出した。続いて小さなレジャーシートを取り出す。どうやらレジャーシートの上に座って,ベンチを机代わりにするらしい。
「それじゃあお願いしまーす。翠せんせーい」
「はいはい,先生には敬語ね」
巫山戯る海斗に私はツッコミ,隣に座る。学校などでは男女が近くで座るなんて,茶化されそうだが,この場所では私達二人以外に誰も居ない。
そして鶴の恩返しならぬ,幼馴染の恩返しが始まった。

