陽鞠と公園で話してから一週間が経った。

 「おはよ!翠」

 「おはよ,宿題やってきた?」

 「やってきたよー!」

 陽鞠はあの公園での出来事の後,生活指導の先生へ現在の状況を神山と話に言ったらしい。陽鞠に矢を放っていた他クラスの女子達は先生からかなりきつい説教,そして親まで呼ばれたらしく今では廊下で矢を放つ女子は誰一人としていなかった。生活指導の先生は声は大きいし,体格も大きく怖いけれどこういう時は頼りになる先生なんだと私は初めて知った。

 「いやー,渉の数学の宿題を手伝ってたら私も結構数学の問題が解けるようになってね。今回の期末はかなりいいかもしれない」

 陽鞠と神山はあれから,帰りは一緒に帰り,学校でも良く話している所を見かける。あそこまで陽鞠について必死になっていた男だ。普段通りを演じているが,きっと陽鞠が通常運転に戻り内心とても喜んでいるだろう。

 「期末か」

 陽鞠が惚気話と一緒に放った期末という単語に私は,思わず眉をひそめる。私達の学校は一学期の中間テストはなく,代わりに期末テストに全てが注ぎ込まれる。そのため範囲が広い。私もそろそろ勉強をし始めないと悲惨な点数を取ることになる。

 「数学がな……」

 「数学苦手なの?」

 「ものすごく」

 平均的なんて超えたことないし,テストが返される時は冷や汗が止まらない。そんな数学が今回全教科で一番範囲が広いらしい。もうどうしようもない。
 私は陽鞠の目を見て,出来るだけ同情されるような声で言った。

 「陽鞠。助けて」

 「えー。流石に二人も生徒は持てませーん。タイマン授業しか陽鞠先生は受け付けていないんです」

 両手を上げ,ヒラヒラと動かす陽鞠。どうやら本当に助けてくれる気はないらしい。
 その事に少しがっかりしながらも,私は少し嬉しかった。私は陽鞠とここまでふざけ合いながら話した事が今まで一度もなかった。それが出来ている今は少し前よりも仲が深まったように感じて,それが何だか嬉しかった。私はそんな思いを悟られないために,外を見ながら言う。

 「いっつも宿題手伝ってあげてるのに……」

 「まあまあ,細かいことは置いておいて―――てか翠は杉山君に教えてもらえばいいじゃん」

 「へ?」

 陽鞠の口から出てきた人物に私は驚く。

 「海斗?」

 「そう」

 「なんで?」

 「なんか二人仲良さそうだし,杉山君頭良さそうじゃん!」

 「いやいやいや」

 全然違う。私は陽鞠の言葉を全力で否定する。海斗は運動神経は抜群だが,代わりに勉強に関しては下の中ぐらいだ。私が一番苦手な数学ですら海斗には勝てるだろう。

 「杉山君,勉強得意じゃないの?」

 「下の中だよ。むしろ私が教える方」

 頭良さそうなのにと言う陽鞠に私は頬を引きつらせる。長年の勘だろうか。何だか今日は頼み事をされそうだと感じた。