私はきっと愛というのがわからない。それだけを言ったら,きっと何人もの女子が「私もだよ」と共感してくれるだろう。でも私が言っていることはそういう事ではない。
私は世間でいう彼氏彼女の関係について私は理解していないと言っているわけではない。愛自体に対して,私はきっと理解なんかしていない。子供が思う親への愛情。親友への友情。好きな人への恋心。それら全てがわからない。私は誰かの誕生日の手紙を書く時に『大好き』という言葉は書かないようにしている。だってわからないから。人は皆,大好きと言葉にし,時には文字に書く。でも本当にその人は心の底から大好きだなんて思ってなんかいるのだろうか。
私は今日もそんな,誰にも言わない考えを目の前で繰り広げられる戦いを目にしながら思う。
陽鞠の件に関して大きな情報を手に入れ,これからどうしようかと思っていた時だった。
「綾香,ご飯っておかわりできる?」
「……」
家に父親がいた。夜遅くに帰り,朝早くに出て行く父親が何故か私の目の前で夕飯を食べている。家から帰ってきた時,見慣れない靴が一足玄関に置いているのを見て,私は父親と久しぶりに顔を合わせるのだという事を知った。
「はい」
「ありがとう」
空っぽになったお茶碗に大盛りの米を入れた母さんは,最低限の会話だけをし父さんにお茶碗を渡した。
その周りからは無数の矢が放たれている。それが怒りなのか呆れなのか,はたまた失望なのかはわからない。そんな母さんの視線に気が付かないのか父さんは,何も言わずに箸を進めている。
私もそんな二人を見ながら黙々と橋を進めていく。花梨は自分の部屋にいるため,この空間には私達三人しかいない。
愛とは何とだろう。私は再びそう思う。人は愛し合って結婚する。結婚とはそういう事なんだとずっと思っていた。でも目の前にいる夫婦は愛し合ってなんかいないと思う。私が思い出せる限り,この二人が心の底から笑いあっている姿を,私は見たことがなかった。ここには愛なんかない。愛があったならここ言葉の武器はないはずだから。勿論私は親子関係にも愛なんてこの家にはないと思う。花梨に対する,両親の態度。昔こそ学校に行けと遠回しに言っていたが,今ではそれすら言わない。放任主義とは違う気がする。ここにも愛なんてない。なら私もこの人達に愛という物を持つなんて無駄なことはしない事にした。
「ご馳走様でした」
両手を合わせ私は言う。食器を片付けると私も花梨のように部屋に籠もることにした。
「そう言えば翠。この間の怪我は大丈夫だったの?」
私がリビングから出ようとした時母さんがそんな言葉を放った。普段は私の怪我になんて何も言わないのに。
きっと父さんがいたからだ。二人きりになるのは嫌だったから私を引き留めたんだ。
「怪我したのか,翠?」
ほら。
いつも家に居ないせいで家族との会話が少ないから父さんは家族に関する話には良く食いつく。それをわかっていた上で母さんは言ったんだ。
そんなに話がしたいんだったら,自分がやらなくてもいいような仕事や飲み会に行く回数を減らせばいいのに。そう思うのは私がまだ子供だからだろうか。
「学校で少し捻っちゃって」
「へー。気をつけろよ」
「うん」
たったこれだけ。話をしたがるくせに,父さんとの会話はすぐに終わる。一つの話から会話を発展させる事は出来ないのかと毎回不思議に思う。
会話が終わったんだからと私は母さんにそれ以上何も言わせないため,すぐに自室へと逃げ込んだ。長い髪を無造作にかく。気持ちが落ち着かない。そんな時私はいつも髪をかきむしる。ふと昨日母さんに言われた言葉がよみがえってきた。
『私は翠の事を愛して,信頼しているから別に変な制限なんてしてないんだからね』
テレビのニュースで,子供にスマホを見る時間の制限をかける親が多くなってきているというのを見た時だった。確かに私の家ではそういった制限は特にない。そもそも一日中ゲームをしっぱなしの妹がいるのだから,私だけが制限を掛けられるのもおかしい。
それを愛だの信頼なので恩着せがましい。愛しているから制限をしていないってどういう事何だろう。考えてみても何も思いつかない。それはそうだ。だって愛しているなんて言葉は子供を支配するために使われているのだから。愛しているからちゃんとしてよね,そう言っているだけなんだ。
愛は面倒くさいな。私はそう思う。陽鞠について考えた時もそうだった。
私は,海斗からの話を聞いた後,海斗に陽鞠について話した。
ここまできて無駄に隠しても何も解決できないと思ったから。すると陽鞠の幼馴染が振ったという女の子の特徴が,廊下で矢を放つ女の子の特徴と酷く似ている事が判明した。
そうなると考えられるのは一つしかない。嫉妬だ。好きな人に振られて彼の隣にいる人物が許せなくて,何か陽鞠に吹き込んだんだろう。そして言葉でだけでなく物理的にも…。
愛やら恋だとかが混じると人はとても面倒くさく,馬鹿になる。愛だから仕方がない。親からそう言われた子供はそう思い込み,あるはずのない愛を信じる。恋が実らなくて悔しい。そんな思い一つだけで人を簡単にいじめる。
私は,そんな馬鹿には絶対にならない。そしてそんな馬鹿に傷つけられる人に何もしないほど薄情ではない。
私は世間でいう彼氏彼女の関係について私は理解していないと言っているわけではない。愛自体に対して,私はきっと理解なんかしていない。子供が思う親への愛情。親友への友情。好きな人への恋心。それら全てがわからない。私は誰かの誕生日の手紙を書く時に『大好き』という言葉は書かないようにしている。だってわからないから。人は皆,大好きと言葉にし,時には文字に書く。でも本当にその人は心の底から大好きだなんて思ってなんかいるのだろうか。
私は今日もそんな,誰にも言わない考えを目の前で繰り広げられる戦いを目にしながら思う。
陽鞠の件に関して大きな情報を手に入れ,これからどうしようかと思っていた時だった。
「綾香,ご飯っておかわりできる?」
「……」
家に父親がいた。夜遅くに帰り,朝早くに出て行く父親が何故か私の目の前で夕飯を食べている。家から帰ってきた時,見慣れない靴が一足玄関に置いているのを見て,私は父親と久しぶりに顔を合わせるのだという事を知った。
「はい」
「ありがとう」
空っぽになったお茶碗に大盛りの米を入れた母さんは,最低限の会話だけをし父さんにお茶碗を渡した。
その周りからは無数の矢が放たれている。それが怒りなのか呆れなのか,はたまた失望なのかはわからない。そんな母さんの視線に気が付かないのか父さんは,何も言わずに箸を進めている。
私もそんな二人を見ながら黙々と橋を進めていく。花梨は自分の部屋にいるため,この空間には私達三人しかいない。
愛とは何とだろう。私は再びそう思う。人は愛し合って結婚する。結婚とはそういう事なんだとずっと思っていた。でも目の前にいる夫婦は愛し合ってなんかいないと思う。私が思い出せる限り,この二人が心の底から笑いあっている姿を,私は見たことがなかった。ここには愛なんかない。愛があったならここ言葉の武器はないはずだから。勿論私は親子関係にも愛なんてこの家にはないと思う。花梨に対する,両親の態度。昔こそ学校に行けと遠回しに言っていたが,今ではそれすら言わない。放任主義とは違う気がする。ここにも愛なんてない。なら私もこの人達に愛という物を持つなんて無駄なことはしない事にした。
「ご馳走様でした」
両手を合わせ私は言う。食器を片付けると私も花梨のように部屋に籠もることにした。
「そう言えば翠。この間の怪我は大丈夫だったの?」
私がリビングから出ようとした時母さんがそんな言葉を放った。普段は私の怪我になんて何も言わないのに。
きっと父さんがいたからだ。二人きりになるのは嫌だったから私を引き留めたんだ。
「怪我したのか,翠?」
ほら。
いつも家に居ないせいで家族との会話が少ないから父さんは家族に関する話には良く食いつく。それをわかっていた上で母さんは言ったんだ。
そんなに話がしたいんだったら,自分がやらなくてもいいような仕事や飲み会に行く回数を減らせばいいのに。そう思うのは私がまだ子供だからだろうか。
「学校で少し捻っちゃって」
「へー。気をつけろよ」
「うん」
たったこれだけ。話をしたがるくせに,父さんとの会話はすぐに終わる。一つの話から会話を発展させる事は出来ないのかと毎回不思議に思う。
会話が終わったんだからと私は母さんにそれ以上何も言わせないため,すぐに自室へと逃げ込んだ。長い髪を無造作にかく。気持ちが落ち着かない。そんな時私はいつも髪をかきむしる。ふと昨日母さんに言われた言葉がよみがえってきた。
『私は翠の事を愛して,信頼しているから別に変な制限なんてしてないんだからね』
テレビのニュースで,子供にスマホを見る時間の制限をかける親が多くなってきているというのを見た時だった。確かに私の家ではそういった制限は特にない。そもそも一日中ゲームをしっぱなしの妹がいるのだから,私だけが制限を掛けられるのもおかしい。
それを愛だの信頼なので恩着せがましい。愛しているから制限をしていないってどういう事何だろう。考えてみても何も思いつかない。それはそうだ。だって愛しているなんて言葉は子供を支配するために使われているのだから。愛しているからちゃんとしてよね,そう言っているだけなんだ。
愛は面倒くさいな。私はそう思う。陽鞠について考えた時もそうだった。
私は,海斗からの話を聞いた後,海斗に陽鞠について話した。
ここまできて無駄に隠しても何も解決できないと思ったから。すると陽鞠の幼馴染が振ったという女の子の特徴が,廊下で矢を放つ女の子の特徴と酷く似ている事が判明した。
そうなると考えられるのは一つしかない。嫉妬だ。好きな人に振られて彼の隣にいる人物が許せなくて,何か陽鞠に吹き込んだんだろう。そして言葉でだけでなく物理的にも…。
愛やら恋だとかが混じると人はとても面倒くさく,馬鹿になる。愛だから仕方がない。親からそう言われた子供はそう思い込み,あるはずのない愛を信じる。恋が実らなくて悔しい。そんな思い一つだけで人を簡単にいじめる。
私は,そんな馬鹿には絶対にならない。そしてそんな馬鹿に傷つけられる人に何もしないほど薄情ではない。

