「よう」

 「やっほー」

 日が沈むのがだんだんと遅くなってきた夕方。まだまだ明るい空の下,私は今日も公園を訪れていた。いつものベンチには海斗が座っている。数週間前のあの日,毎日ここへ来るという約束をしてから私達は本当に毎日この場所で会っていた。正確に言えば平日,学校がある日私達はこの公園に集まる。休日は無理だったと後になってから海斗に言われたからだ。自分から言っておいてと海斗は謝っていたが,私からすると平日だけでもこうして話せていられれば十分だった。

 「今日国語の五十問テストがあったんだけどさー」

 「あー,俺もやったわ」

 「おかしいんだよね,しっかり勉強をしたはずなのに半分も解けなかった」

 「ちなみに勉強時間は?」

 「テスト始まる五分前からの五分間」

 「しっかり勉強したっていう話は何処行ったんだよ」

 話す内容は基本的に学校であった事。あとは通学路で猫を見た,飛行機雲が見れたなど,他愛もないものばかりだった。でも,それだけでも私は……正直に言って嬉しかった。ここにある心は一つだけで,一番安心できる物。場所は息がしにくい家ではなく毎朝出来るだけ早くに吸いたいと思う外。誰も居ない。私達二人以外には。そんな空間で話す,一時間程度のこの時間を私はいつも間にか待ち焦がれるようになった。

 「足はもう大丈夫なのか?」

 「うん。もう普通に歩けるくらいには治ったよ」

 怪我していた足は普通よりも少し早くに治っていた。昔から怪我ばかりしていると身体が慣れていき傷が癒えるのが早くなるらしい。私は海斗が持ってきてくれた桃味の炭酸飲料を飲む。口の中でパチパチと液体が跳ねる。炭酸が嫌いな人はこの感覚が嫌いだと言うが私は好きだった。会話が途切れ静かな空間が流れる。

 「……にしても,海斗も暇なの?こんなに毎日忘れたような公園に来てさー」

 何か話題をあげようとし,何となく海斗にそう言ってみた。約束をしてからずっと思っていた。私を心配してくれていることはわかったが,毎日会ってくれるなんて何だか少し申し訳なくも感じる。

 「暇なんだよ,本当に――サッカーもなくなっちまったしさー」

 軽い調子でそう言う海斗。
 彼がなぜサッカーを辞めたかはまだ何も分からなかった。それとなく聞いてみようとしたがいつも上手くかわされてしまう。ド直球に聞いてみればいいのかもしれないが,私はそこまでするほどの勇気も何も持っていない。
 それから,今日も一時間程度の世間話をし私達は家へと帰った。まだ,どちらともが抱えている秘密については話さずに。