『翠ちゃん!なんてこと言うの!?』
「え?」
雨が降りそうな天気の中,私は幼稚園で怒鳴られた。
『―――,大丈夫だよ。そんな事ないからね?』
私を叱った先生は,目の前にいる私よりも少し大きな子供に,言い聞かせるようにしてそう言った。幼稚園生くらいだろうか,両手で洋服を掴みショックを受けているようだということが辛うじて感じ取れる。私はその子供の姿を見ようとした。けれどその顔は黒く塗りつぶされ,身体も黒い霧に包まれているため男の子なのか女の子なのかすら判別がつかない。ふと自分の手を見てみると,その手は小さく,目の前にいる幼稚園生と同じくらいの年齢になっていることに気がついた。
「あ……」
男女か判別のつかない謎の子供。その中で私は一つだけ見えてしまった。黒く塗りつぶされた子供の隣に浮く心は黒くくすんでいて,大きな出刃包丁が刺さっている。そこで思い出す。それは私がやったということを。

