「言葉は武器だ」

 その言葉は口論で勝利した者が得意気に言うかもしれない。その言葉は心に傷を負った者が泣き叫びながら言うかもしれない。
 目に映るものは何もない。ただただ暗闇が広がっている。
 私はこれに光を,色を灯す方法を知っていた。しかし今の私にはそんな事をする必要なんて微塵も感じられない。

 『ため息を漏らすと幸せが逃げていく』

 そんな言葉は嘘だ。断言できる。理由を問われればしっかりとした理由を説明をし,周りを黙らせる自信もある。だから私は今日もため息を吐く。そうすればこの真っ暗な景色に色を灯すことへの恐怖が減るから。
 瞼を開く。
 すると暗闇だけだった視界に一つのリビングが映る。リビングから覗けるようになっているキッチンには髪の長い女性が一人。その横に位置する,四人がけのテーブルにはスマホを弄る男性が一人。
 そして他に目に付く物は――無数の小さな針の襲撃。それは女性から男性へと送られているものだった。
 今日も,私はそれを見る。

 『人を傷つける言葉の武器を』